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ハレもケもハレ10 : 名前ってこんなにもギフトだったのか

お付き合いをしている彼と同棲を検討し始めたのをきっかけに、人生とは?結婚とは?家族とは?を考え始めた今の心境を書き綴ることにしました。

今回はふと考えたフルネームの話。
たわいもない話ですので、気楽にどうぞ。

🕊


唐突すぎるが、自分の名前が好きだ。

バランスの取りにくい字で、かつ右斜めに上がりやすいわたしの癖字ではどうにもヘニャヘニャと踊ってしまうけれど、音の響きや漢字、どちらも気に入っている。
ひらがな、カタカナ、漢字それぞれで書いて書きやすい字にしたと両親が以前話していたっけ。珍しい名前にしたつもりが色々あって気付けばわりとよくいる名前だったというのも、うっかりな両親らしいエピソードだなと思う。


苗字は日本全国多い苗字ランキングなるものがあれば100位くらいには入る苗字である。だから印象に残らないのか、仕事で患者さんに言っても基本的にするりと忘れられてしまうことが多い。フルネームで自己紹介をすると覚えられるのはたいてい下の名前だ。「あおいちゃん」「あおちゃん」「あんちゃん」と、筆名になぞらえて言えばこんな感じでおじいちゃまおばあちゃま方から呼ばれることがある。はあい、なんでしょう。
ちょこちょこ書いているとおり本名は「あおい」では無いのだけれど、決してまるで無関係とは言い難いと個人的には思っている。青い名前。この筆名は筆名でもう何年も使っているから愛着があるな。どちらも大事な名前である。


どうして急にこんなことを綴り出したかというと、なんだか人生が動きそうな足音がするからである。

「お付き合いをしている人が転職しそう」「それでも今年中を目処にわたしと一緒になる予定に変更は無いらしい」と来ると、嬉しいやら、つ、遂に〜?!な感じやら、心が忙しない。今後の話が具体的になればなるほど「甘い言葉」だったあれこれは「淡い約束」になり「そう動きそうにない予定」になっていくのが我が人生ながら不思議でならない。

その中でふと思ったのだ。フルネームって、なんて素敵なギフトなのだろう。
自分が唯一選べる家族が夫婦なる関係性だと思っているのだけれど、その自分が選んだ人と同じ苗字になるのだ。しかもそれでいて、いつまでも両親がくれた名前を名乗り続けることもできる。夫婦別姓や事実婚などの権利を求める声が上がるこのご時世に相応しいかは別として、わたしは家族になりたいと思えるほど好きになれた人の苗字が欲しいと思い続けている人間なので、この良いところ取りは嬉しい。
縁起でもない話だけれど、たとえ大切な人に先立たれたとて苗字が戻るわけではないのだ。父や母にならず「ふたり」で生きていく方針でいるわたしたちにとって、唯一死ぬまで残る彼を選んだ確固たる証拠が苗字になることは、なんだかすこしロマンティックな話。
そのうえ完全に戸籍上も苗字上も丸ごと別になってしまった両親と自分の繋がりも、名前が残してくれるのだ。好きな人たちそれぞれと繋がりが感じられるなんて、増してフルネームが好きになりそう。とまあこれは、結局のところ未婚女性の妄想に過ぎないのだけれど。

もしかすると何か大きなきっかけを経てまったく異なる人と結婚するのかもしれないし、こんなふうに淡いことを思っていたことを後悔するほど歪み合うのかもしれない。こればかりは分からないから。

ここに書いていた通り、25年近く生きてきたそれとは異なる苗字で呼ばれることに対してまったく寂しさや未練がないかと言われたら嘘になる。まるでごっそり今の自分が抜け落ちてしまう心地は今だってあるのだ。それがたとえ、これ以上に無いほどこの人と家族になりたいと思うような人との未来に付随するものだとしても。わたしは今のフルネームがこれはこれで好きだ。
けれどずっとありふれた苗字にありふれた名前の、わりといそうなフルネームで生きている身としては、謎に「ある地域にだけ多い、インパクトがあるわけじゃないけど他にお会いしたことのない苗字」に惹かれてしまう節がある。彼の苗字もそれだ。調べてみたら、全国に2000人くらいの苗字らしい。わたしの苗字は19万人近くいるというのだから、どれほどのものかはなんとなく分かる。

「俺としてはあなたの苗字のほうがいいんだけど。100均でシャチハタ買えるし、説明するとき面倒じゃないし」

「え、わたしはあなたの苗字がいい」

買い物の帰り道、彼がそう言うので笑って返す。
「じゃあ、あげる」とまるでオレンジでも差し出すみたいに言うから笑ってしまった。わたしたち本当にこうして同じ苗字になるのだろうか。分からないけれど。
苗字が欲しいと思うほど、家族になりたいと思うほど好きな人が同じように自分を好きでいてくれるあたたかな日々に、今はただ安寧を噛み締めるだけである。

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