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第六話 【夜行列車で国境沿いへ】2008年2月28日夜 タイ・ラオス旅行記

夜行列車を駅で待つ

決意を決めてフアランポーン駅まで徒歩での帰路。

往路と異なり帰路は大まかな道筋や距離感が分かるのが精神的に大きいのか、日が落ちているにも関わらず大きなトラブルや精神不安に襲われることなくあっけないほどすんなりと駅まではつけた。道中、あの親切なタイ人女性の善意を俺は裏切ってしまったのではないか、という罪悪感で胸がいっぱいであまり周囲が気にならなかった、というのもある。とは言っても彼女が教えてくれたバスが一向に来なかったのは事実であり、そこで罪悪感をこちらが一方的に感じるのも変な話ではあるのだが

フアランポーン駅につくころにはすっかり真っ暗に。
たちんぼや、ポン引きの白タク運転手らしき人も沢山いてちょっと怖い。人生で初めて露骨な売春婦とポン引きを見た。特に話をしたりしなくても一発でその手の人だと雰囲気でわかるのね。

だがそれと同時に駅を利用している現地の学生らしき集団がわいわいがやがやと談笑もしており和む。


しかしふと思った。

彼ら彼女らは10代そこそこの頃から売春婦やポン引きが跋扈する空間に当たり前のように出入りしている。お互いどういった心持ちなのだろうか。タイはこちらが思っている以上の超格差社会でお互い別の世界の生き物であり、特に意識なんぞしないのだろうか。


電車出発まで何だかんだでまだ1時間半近くあった。
レストランで晩飯を食べようとしたが、駅周辺にも関わらず食事処が少ないせいか、どこも人がいっぱい。近くの屋台で適当に食べられそうなものを買う。勿論事前に値札が提示してある所限定だ。駅の屋台はちゃんと値段が提示されていて素晴らしい。熱帯特有の芋(タロイモ?)が美味しそうに見え、且つ腹持ちよさそうなので思わず買ってしまったが、油っぽく、モサクサする口内の水分をいたずらに消費する系のシロモノであり、お世辞にも美味いとは言えなく残念。

屋台は当たり外れあるぞこりゃ、とその時身を以て思い知った

モソモソと南国の芋を食べながら駅の待合場のような所で座して待つ。
駅周辺を探索しようかしら、とも思ったが、今までのアクシデントから冒険する気持ちは完全に失せていたため、駅構内から一歩も出られなかった。
仕方がないのでとりあえず回りにいる人々を観察。


リュックを背負った白人観光客多い。典型的なバックパッカーなんだろうが、奴らはアジア諸国を魂で見下しているのかどこであろうが傍若無人に振舞っている。宗主国感が抜けきれないのだろうか。腹立つ。タイは一度も植民地支配されていないんだぜ!だが彼らには関係ないのだろう。白人はどこでも大正義である。

そのような中、友人とじゃれあいながら電車を待っている制服を着た字もtの子供たちもいた。彼らと一瞬目が合ったが、好奇の視線というより明らかにおびえた視線でこちらを一瞥したかと思うと、すぐ目を背けてくる。

語学力がないのも勿論だが、根本的なコミュニケーション能力が欠けている自分にとって異国の子供たちと仲良くなるなんぞもっての外。鬼に睨まれたかのようなリアクションを取られるのは胸が傷つく。

ただただこれと言って何もせず時間を潰す。駅の待合場の前には大画面のテレビがあるが、ずっとタイ王室の礼賛番組と国歌ばかり流れていてちっとも面白くない。このような状況を見越してMP3プレイヤーでも持ってくればよかった、と後悔する。だが我慢すれば時間というのは何もしなくても過ぎ去るもの。気が付くと目的の夜行列車が止まるホームへと足を運ぶ人々の姿が見られたため、後をついていく。

夜行列車とオッサン観光客と

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ホームは広いが、照明が殆んど無いのでとても暗い。ホーム内にも行商人ははいるにはいるが、王宮地区のそれとは異なり、どこかもの寂しく、全体的に怪しげな雰囲気が漂っている。
制服を身に纏った鉄道警官が警棒をチラつかせながら警邏しているのだが、彼らの威圧感が不穏な空気をより強めている。

躊躇するが列車に乗る以外道はないため、例のF11連打職員から渡された切符の番号を見ながらホームをトボトボ歩き、座席のある車両を探す。

だがタイの列車の席番システムがよく分からない。外からは車両番号等何も分からないのである。タイの電車はドアがないことにも驚いた。こりゃぁ、中に入らないとわからんな、と意を決して車両の連結部分にある梯子をのぼって進入しする。

するとそこは窓も何もない薄暗い空間。ビールのケースを椅子代わりにしてトランプ賭博をやっている人、毛布に包まって寝込んでいる人がたまっている、明らかに危険な空間。

一目で観光客だと分かる格好をしている僕に冷たい視線が突き刺さり、すぐさまその車両を出る。恐らく、この車両は最も等級の低い車両なのだろう。

窓も何もない劣悪な環境。
そこでなけなしの金をかけてギャンブルを行う現地人
この電車はタイ最大の都市バンコクから、最貧困地区である東北部を結ぶ鉄道である。おそらくその車両に乗るのは帰郷する出稼ぎ労働者なのであろう。この国の闇を垣間見た気がした。

このままでは埒が明かないため、車両に書かれている複雑な記号を必死で読み取り、車両内を探索。何とかチケットに書いてあった2等級の車両につく。エコノミークラスの筈なのだが、どうやら外国人向けはエコノミーでも2等級車両ということらしい。だがこの車両には窓がなく、閉塞感がある。

上段にベットがあり、下は所謂ボックスシート。シートはやや固いが座れないことはない。下のシートはベットに変形できるギミックのようで、ボックス席の片方が上のベットを利用し、もう片方がベットに変形した下のシートで寝るという按排のようだ。どうやら僕が上のベットになり、対面の座席の人が下のベットで寝ることになるようである。

そして反対側に座っている相手は幸薄そうな顔をした若いタイ人女性と5,6歳くらいの地小さな女の子。特に出発まで何もすることはないので、ぼんやりとその親子を眺めていたのだが、母親の方は疲れた顔をして俯いており、娘の方は僕の方を脅えるような目線でたまにチラッと一瞥してくる。

ここでもっと言葉がしゃべれたら、彼女らとコミュニケーションを取れて色々と楽しく充実した旅になったんだろうが、それは叶わぬ夢。僕はただニコニコと笑い返して、何とか警戒心を解こうとすることしか出来ない。

ちなみに通路を挟んで反対側のシートにはハングルがでっかくプリントされた黄色いジャンパーを着ている韓国人2人組
前のシートは40代ぐらいのフランス人のおっさん2人組み
後ろはでかい声でがなりたてている中年の中国人2人組み
そして日本人の2人組みがいた。年齢は団塊の世代ぐらいか。
他の席も満席のようでどうやら皆一様に外国人のようだった。

日本語なので何言っているか分かるが、会話の内容は最悪の一言。
要約するとバンコクでの買春に飽きたようなので、ビエンチャンに行ってラオスの、しかも未成年の幼女を抱こうという計画を嬉々として喋っていた。
夜行列車という特殊な環境で同胞にあったため思わず話しかけよう、なんて気持ちはあっという間に消えうせたのは言うまでもない。

だが隣の韓国人、中国人、フランス人も話している内容は似たようなものなのかもしれない。人種は違えど中高年のおっさん二人が異国の夜行列車で膝を突き合わせて座っている理由というのはそういうことなのかもしれぬ。

一応ここは2等級列車。日本円にして4000円近くかかる席である。
現地人が気軽に手を出せるような車両ではなさそうな雰囲気ではある。

では前に座っている明らかな現地人親子は何者なんだろう?
失礼な話ではあるが、見た感じでは然程裕福なようには見えない。むしろその逆のように感じられた。
仮に地元の東北地方に里帰りということであれば、先ほど私が誤って侵入した車両や夜行バスの方が遥かに無理してこの車両のチケットを買った理由は何であろう。

しばらくすると車掌がやってきて検札は始まった。一応問題なく突破は出来たが、アルバイトながら鉄道員をやっている僕から見たら、彼らの接客態度はカス以下である。横柄、その一言に尽きる。うちのバイト先でこんな接客していたら本社にクレームが入って、助役から厳重注意を受けるに決まっている。この国では制服を着ている人間はそれ以外の人間に対して何をしても良いと思っているのだろうか。

不愉快な気持ちになりプリプリしていたら、幸薄そうなタイ人親子との検札で揉めだした。タイ語が全く分からないので何を言っているか分からなかったが、なにやら大丈夫ではあったようだ。

状況から判断すると、大人一枚分の切符しか買っていないにも関わらず、子供を連れ込んでいだのが揉めていた原因のようだったが、母親が車掌に懇を願し、子供の乗車も許可されたようだった。
この母親は大事な子供のために外人向けのいい席、ベットのある席を奮発して取ったのだろうか?それならば良い話ではあるのだが、勿論子供とは言え切符代をちょろまかそうとするのは良くないことではある。

そんな親子の様子をぼんやりと見つめる。先ほどの車掌との一悶着もあり、余計にこちらを警戒する親子。思い切って話しかけたりもしたが、全く言葉を返してくれず。だが何だかんだでこの車両で人として真っ当ななのはこの親子くらいではないか、と幼女売春話で盛り上がる団塊男性二人組の醜い日本語をBGMにしているとそんな気すら覚える。

走り出した夜行列車と派手な女性

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ダイヤが異常に厳しいことで有名なのは日本の鉄道くらいであると事前に知っていたので、タイの鉄道が時間通りに出発することなんて全く期待していなかったが、案の定時間になってもさっぱり出発しない

出発時刻が過ぎて30分経ぎたタイミングで、突如一人のタイ人女性が乗り込んできた。

サラサラで手入れが行き届いてた腰までくる長い髪、

濃い目のメイクにギラギラと映える金のネックレスとイヤリング、

人工的な大きさの胸をさらに強調するかのようなタンクトップ。

引き締まった褐色の太腿を曝け出しているデニムのホットパンツ

ああ、この人は商売系の人だ。
目の前に座っている幸薄そうなタイ人女性と同年代ではあるが、明らかに異なるタイプの女性

そのタイ人女性が車両に入ると、途端に色めきだつ車内。実に嫌な色めき立ち。
だが彼女が社内に入ってくると、今までおびえ切った表情をしていた例の幼女が、打って変わって無邪気な笑顔になり、楽しそうに声をかけ出した。
その子供の笑顔に屈託のない笑顔で答える商売系のタイ人女性

その顔はやつれてはいたが、誰が見ても美人と思えるタイプの顔。
無論、あの買春目的の団塊二人組が声をかけない理由がなかった。

「あーゆーごーいんぐつーびえんちゃん?」なるたどたどしい英語で話しかける

適当にいなすその女性。この手の声掛けは慣れっ子のようである。

そして日本語だけでなく、フランス語や中国語、ハングルでも何やら興奮した話声が聞こえてくる。

これらの言語は全く分からないが、内容はわかっている
4ヶ国語で全く同じこと喋る異国の夜行列車、というのは嫌な趣。


そして彼女が入場してほんの数分でやっと電車は出発。金属が擦れるけたたましい騒音が鳴るが、初速がゆっくりなのがあまり電車が動いている、という実感がわかない。そもそも窓がない、というのもある。

また横柄な車掌がやってきて再度検札。さっき検札したのに何故また同じ切符を見せねばならぬのだ。相変わらず接客態度はカス以下で不愉快な気持ちになるのだが、例のタイ人女性の所で車掌の態度ががらりと変わった。

なにやら長いことタイ語で話し込む2人。恐る恐る様子を見て見ると、その車掌は笑顔である、それも実に汚い笑顔。10分ほど話し込んだ後、その車掌はタイ人女性を連れて何処かへと消え去ってしまった。
因みに再びその車掌とタイ人女性を見たのは次の日になってからだった。

暫くすると他の駅員がやってきてベットメイキングをしてくれた。彼は愛想が良いわけではないが、横柄という訳ではなく、淡々としっかりやるべき仕事をこなしてくれた。上のベットに移るよう促される。出発して1時間も経っていないのに、もうベットに行かされるとは思わなんだ。

人生初の夜行列車の寝床。ベットの寝心地は、お世辞でも良いとはいえないが、残念なことに僕の下宿にある煎餅化したソファーベットよりは遥かに寝心地がよかった。
旅の疲れもあり、ベットに入るとあっという間に僕は寝込んでしまった。

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