【まくら✖ざぶとん】⑦①『日本語賛歌』トコザワ第➋巻
えー、此度は言業師トコザワ再びの登場と相成れば、今日のお題は「立場と言葉」で高座ならぬ講座を一席。
はじまりはみな「ばぶー」と赤ちゃん言葉、子供は「でゅくし」と効果音を口に出し、若者が流行り言葉を呟けば老人は故事で喩えてみせる。悩みを打ち明けにきた優等生も、啖呵を切ってきた不良生徒も教師は諭してみせる。男子は弱音・女子は愚痴・オカマちゃんは毒を吐き、愛を囁き合った恋人同士は結婚して夫婦になったら犬も食わない痴話げんか。
職人気質で亭主関白の元力士は女房に対して「おい」・「あれ」と指示語のみ、現役時代は打球を広角に打ち分けたミスターも選手に対して「ヒュン」・「スパァーン」と擬音語のみで間に合わす。野球ファンも好角家も現地で観戦するときゃ口角泡を飛ばして野次と座布団を飛ばすもの。
八百長は許さぬ行司が「のこったのこった」とはやし立てれば八百屋は「買った買った」とまくし立てる叩き売り、売り言葉に買い言葉ときたら夫婦漫才はああいえばこう掛け合う罵り合い、同じ芸人でも落語家は社会に一石投じるような時事ネタで一席打った後の打ち上げで現政権に管を巻く。
法螺を吹く詐欺師のごとくマニフェストを謳う政治家に有識者は苦言を呈し、高慢ちきな論客も知識をひけらかして論駁。美女の甘言にたぶらかされて罠に落ちた国会議員は言い訳も申し訳も立たず、失言で失脚した閣僚の存在も見かねて政府お抱えの占い師たる陰陽師は総辞職をほのめかし、黒幕たる相談役が説教を垂らせば御目付け役たる大僧正も念仏を唱えるが馬の耳。
匿名人間の流すデマにも煽られたデモ隊は国会前で世直しを訴え叫び、隠語を操る警察官がラッパーのごとく韻まで踏んで取り締まればDJポリスを通り越してMCポリス。危険人物が検挙されたら取り調べる法律家は条文を諳んじ、被告人が何も証言せず黙秘したので裁判長は判決ならぬまくら完結のオチを高らかに詠み上げる。
主文
あ、日本語表現の豊かなこと豊かなこと!!