【まくら✖ざぶとん】㉚『忍者虚鉄』
闇夜の虚空にぽっかりと満月の浮かぶ晩、路地裏の暗がりをすり抜けていく漆黒の影ひとつ、夜更けとともに忍び寄るその正体は文字通りの忍者、虚鉄(こてつ)である。
人という人が夢に落ちた現(うつつ)、塀から塀、屋根から屋根へひょうひょうとひょいひょい、今日も今日とて裏舞台で暗躍するのが忍者の心得、壁の奥にゃ耳、障子の穴にゃ目、天井の裏にゃ虚鉄あり。
神出鬼没の抜け忍たれば現世でいうところのフリーランス、将軍に大名、悪代官に大納言、その土地の有力者から請け負う任務ならぬ忍務は家宝の略奪に顔役の護衛、要人の暗殺となんでもござれ、押しつけられる無味難題も朝飯前の起きつけ一杯お茶のこさいさい屁のかっぱ巻き。もっぱら重宝されるのは対立勢力への諜報活動、超人的な身のこなしで目にも留まらぬ早業を繰り出す累計ん万部を売り上げるにうってつけの類型的な忍者像とはうってかわって、腕利きの虚鉄は肘から先を下さず汚さず降りかかる埃を払うだけ。
敵対する勢力の首領に雇用主の策謀をあっさりと吹き込んで吹諜、さっさと二重工作をけしかけて抱き込ませるまくら営業、双方から駄賃をせしめて取り分を増やしたら♪白上げて・赤上げないで・白下げて♪彼方を立てずに此方も立たせぬよう両陣営を操ること旗揚げ遊戯のごとし。
飽きたら側近に謀反を唆して雇用主の寝首をかかせるも、亡き雇用主の遺志通りに第二勢力もしっかり失速させれば裏切りの裏切りは表義理、台頭する第三勢力に売り込んで取り込まれて鞍替えに次ぐ鞍替えに頭クラクラ、仁義も忠義もなくあるのは悪戯心のみで己よければそれでよし、生き馬の目を抜く群雄割拠を独力で生き抜く抜け忍が口元に忍ばせたのは隠忍自嘲。
天下に混沌をもたらす虚鉄こそ盛者必衰の遂行者ならぬ衰行者、小さく動いて大きく動かすローカルアクト・グローバルエフェクトは二十一世紀のネット社会も大いに学ぶべきだが、今も昔も悪名が轟けばたちまち四面楚歌、陣取り合戦の真っ只中で孤立無援ならば取るべくは逃げの一手。
軍師の兵法とは一線を画すヘイヘイホーならぬハヒフヘホーの一手として隠していたのは奥の手、口利きしておいた遠方の一大勢力を攻め込ませるや天下分け目の全面戦争、戦国時代の勢力図を塗り替えるほどの混迷を招き込んだどさくさに紛れ込んで逃げ切ってみせること、火遁に水遁、元をただせば遁の字は「逃れる」意にほかならず、名づけて忍法〈混遁の術〉!!
えー、「一字千金」という故事ことわざもありますが、【まくら✖ざぶとん】を〈①⓪⓪⓪文字前後の最も面白い読み物〉にするべく取り敢えず①⓪⓪⓪作を目指して積み上げていく所存、これぞ「千字千金」!以後、お見知りおきを!!