【まくら✖ざぶとん】⑨③『大工の棟梁』
今だか昔だかのあるところに、頑固な大工の統領たる大棟梁がいたそうな。大工なんてのはたいてい頑固なもんだが、果たして頑固者が大工になるのか大工になってから頑固者になるのかは鶏が先か卵が先かの明かしがたき因果性、なにはともあれ頑固者じゃなけりゃ大工は務まらないって話。
現場ではおきまりのヘルメット姿でおかんむりのしかめっ面、ヘの字に曲げた口を固く閉じたままへそを曲げたら誰とも口きかず。よく言えば寡黙、悪く言えば無口で会話をするのは木材とだけ、とばかりに黙々と作業に打ち込む職人肌たる職人気質、言わずもがなは言うに及ばず、弟子たちをほめるもしかるも言葉足らずだが職人技は見て盗ませれば言葉要らず。
カンナがけひとつとっても親方にかなう者などおらず、カナヅチで出る杭は打たずに入れる釘を打ちに打ち込んでいく。建てる人間が頑固ならば建つ家も頑丈建築なる頑建、ちょっとやそっとの災害なんかものともしないってのが売り込み文句だが大地震の津波や大型台風の鉄砲水にゃ勝てず、建てた家が流されたと聞きゃかなしむ前にいてもたってもいられず現場へ。
自分の仕事が影も形も跡形もなくなっている光景を前に呆然と立ち尽くしていると、居合わせたのは取材に来ていた報道陣。そこにあったはずの家を建てた大工だと知るや、カメラとマイクを向けて「何か一言を」。言わずもがなは言うに及ばず、湧き上がる気持ちを噛みしめているのかいないのか…それでも長い長い間を空けた後、実感のこもらないような口調でボソり。
「言え…ねぇな、言えないとしか言えない」
えー、「一字千金」という故事ことわざもありますが、【まくら✖ざぶとん】を〈①⓪⓪⓪文字前後の最も面白い読み物〉にするべく取り敢えず①⓪⓪⓪作を目指して積み上げていく所存、これぞ「千字千金」!以後、お見知りおきを!!