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【まくら✖ざぶとん】㉖『亀茶番』野次馬鹿➋

いやはや予告編よろしくほんの顔見せ程度に留めた前回から久方ぶり、数にすれば四席ぶり、期間にすれば五十日ぶりにようやく登場するのは寄りな事件にざとい野次郎兵衛喜多馬鹿八、誰が呼んだか野次馬鹿二人組、どこぞの動物園からゾウガメだかリクガメが脱走したっつーなんとも間抜けな事件を聞きつけようもんなら、こいつはほっとけねぇ、いっちょ拝みに行ったろか、いの一番に向かえば野次馬鹿道中のはじまりはじまり。

辿りつくまでにがあっさり見つかっちまうことなんざ思案の外、何はさておき現地に飛んでいく瞬発力と行動力こそが野次馬鹿たる所以、事件があるからするのか、したいから事件を探すのかは鶏と卵、ああだのこうだのと与太話ならぬ野多話を垂れ流しながら件の動物園までノコノコ参上、その間ものつく地名界隈の神社では参拝客が失踪したの無事が祈られていたとかいないとか、事件亀戸天神で起きてるんじゃない現場で起きてるんだ、と甲羅色のコートを着た刑事の決め台詞を口走り、あく亀を探す動物園の職員にまぎれて野次馬鹿そくそさく開始。

ところがどっこい、相手はのっそりノロノロとしか歩けねぇはずのだってのに、おいおいここにもいねぇ、こっちにもいねぇぞ、一向に見つからなければまさに神隠しならぬ亀隠し、そうこうしてるうちに業を煮やした動物園側から「発見者に懸賞金五十万円を一封」との一報が広まろうもんなら、野次馬鹿に遅れて近隣遠方から金目当ての野次馬どもがパッカパッカと群がってきて、を助け出したところで竜宮城にゃ行けっこないのに人海戦術の効果覿面、見つけたぞ!と林の茂みから声があがれば脱走事件は即時解決。

を探し出したのは野次馬鹿ではなかったが、二人とて伊達にあらゆる現場に馳せ参じてきた百戦錬磨の野次馬ではない。が見つかる数分ほど前、重そうな物体を抱えた男が、どっこらせ、と地面に置く瞬間をしっかり目撃

「おう、野次さんよ、今日もいいもん見れたな」
「ああ、馬鹿八。今回はあれを見に来たようなもんだ」

野次馬鹿はあくまで野次馬たる単なる傍観者、現場で決定的な瞬間に行き当たって目の当たりにしようものならご満悦。事件の顛末もその陰で絡んでいた人間の思惑も、甲縛りのごとくとくくりにひっくるめるがごとく、二人にとっちゃ対岸の亀だった、ってことでこれからもどうかひとつ。

えー、「一字千金」という故事ことわざもありますが、【まくら✖ざぶとん】を〈①⓪⓪⓪文字前後の最も面白い読み物〉にするべく取り敢えず①⓪⓪⓪作を目指して積み上げていく所存、これぞ「千字千金」!以後、お見知りおきを!!