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【まくら✖ざぶとん】①⓷⓷『回葬バス』

さて節目のゼロ目ゾロ目はちょいと気合を入れるなり趣向を変えるなりがまくらの不文律、病み上がりの前席でほのめかしていた通り、すっかり夏らしい猛暑になったのでヒヤっとする怪談快気祝いならぬ怪奇祝い

お盆の時期、夕暮れに駅からバスで家に帰ろうとしている少年がひとり。小高い丘の中腹にある〈〇〇ニュータウン〉へ向かうバスに乗り込めば、なんとも珍しいことに乗客がひとりもおらず貸し切り状態。

バスのルートは大きな総合病院を通ってから少年の家があるニュータウンの住宅団地を越えて、川をはさんだ向こう側にある霊園まで向かう。
停留所にとまると、♪プー。間の抜けた高音効果音とともに運転席脇の扉が開く。誰かが乗り込んでくるのかと思えば、誰も入ってこない。

(あれ、なんで停まったんだろ)

♪プー。扉が閉まって、また発車。
何事もなかったかのように走り出すも、次の停留所で再びバスは停車。
♪プー。前方の扉がまた開かれるが、誰もバスに乗ってこない。

(乗る人がいないなら飛ばせばいいのに)

バスはその次の停留所でも、その次の停留所でもとまった。
乗り降りする客などいないのに、とまるたびに扉が一定時間、開かれる。不穏な気配に不安を感じた少年が運転席のほうにじっと目をやると、運転手さんにマイクを通して話しかけられる。

「ごめんね、各駅停車で。お盆の時期は、特別運行なんだ」

それを聞いた瞬間、ぶるるっと悪寒がした。車内の冷気が強まっている…?

そうこうしているうちに、次は少年の降りる停留所だ。
「とまります」ボタンを押すべきか迷ったものの、

(どうせ押さなくてもとまるんだから、いっか)

予想通り、バスは少年の降りる停留所でちゃんととまった。
♪プー。後ろの扉は開かず、前の扉だけ。
降り際、少年は運転手さんにおそるおそる聞いてみる。

「お客さんって、ぼくのほかにも、乗ってますか?」
「お盆だからね」

運転手さんの目には光がなかった。
少年がステップをタタっ、と跳び降りると、冷え切っていた車内から真夏の夕方のむわっとした熱気に包まれる。

♪プー。
と音を立てて扉が閉まり、バスは何事もなく走り出す。
バス後部の電光掲示板の目的地表示は「回送」になっていて、少年はそれが「回葬」に変わるのを見た。

家に帰れば母親が夕食の用意をするいつも通りの光景があったが、その夜、ベッドで眠りについた少年は夢を見た。

回葬バス
に乗っている夢だ。

さっきは押さなかった「とまります」ボタンを押そうと指を伸ばしたところで、ゾワ、と戦慄が背中を走り、少年は悪夢を見たときのようにガバっ、と跳ね起きる

パジャマは汗だくだったが、すでに冷え切ってひんやりしている。

…ボタンを押していたら、何がとまっていたのだろう?

えー、「一字千金」という故事ことわざもありますが、【まくら✖ざぶとん】を〈①⓪⓪⓪文字前後の最も面白い読み物〉にするべく取り敢えず①⓪⓪⓪作を目指して積み上げていく所存、これぞ「千字千金」!以後、お見知りおきを!!