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コミュニケーションの観点から時間の使い方を改善しよう

コミュニケーション心理学「交流分析(TA)」が大好きなコスギです。今回は「時間の構造化」について。

以下の「心理ゲーム」の記事を読んだ人には、「この心理ゲームに陥らないようにする/陥っていることに気づけるようにするにはどうしたら?」みたいなニーズがあると思うので、今回はそういうお話。



「時間の構造化」とは

「最適化」などの用語はなんとなくわかると思いますが「構造化」という言葉はピンとこないかもしれません。

ものすごく簡単に説明すると、
「構造化 = ちらばっているものをまとめて整理する」
です。

交流分析の文脈における「時間の構造化」は、「普段意識していない自分の時間の使い方を整理して、それぞれのコミュニケーションの量と質を知り、改善を検討する」くらいに考えておくと良いでしょう。

健康的な人間は何もしない退屈に耐えられないため、24時間を以下の6つのカテゴリーそれぞれの方法で過ごそうとします。

  1. 閉鎖・引きこもり

  2. 儀式・儀礼

  3. 雑談・気晴らし

  4. 仕事・活動

  5. 心理ゲーム

  6. 親交・親密

それぞれのカテゴリーは、コミュニケーションで得られる「ストローク」の濃度が異なります。この「ストローク」とは、「承認欲求を満たしてくれる刺激」のことです。極論、存在が認知されないと人は死んじゃいますので、「心の栄養素」とも言われています。以下の記事も参考にどうぞ。

「心の栄養素」の濃度が低いカテゴリーのコミュニケーションは、他者との心理的つながりが薄く、リスク(お互いに傷つけあって嫌な気分になる可能性)もほとんどありません。しかし「心の栄養素」の濃度が高いコミュニケーションは、他者との心理的つながりが濃くなり、リスクも大きくなります。バランスが大切ですね。

カロリーの高いものは美味しいけれど、身体に負担がかかりやすいのと同じようなものだと考えておくとわかりやすいかもしれません。

では、それぞれのカテゴリーの特徴を見ていきましょう。

①閉鎖・引きこもり

心理的に誰とも関わっていない時間です。ぼーっとしている時間も、眠っている時間も含みます。当然、「心の栄養素」の濃度は限りなく低いですし、それに伴うリスクもほとんどありません。

たとえば授業中に先生の話を聞いていなくて、別のことを考えている場合も、この[①閉鎖・引きこもり]の状態です。なんとなくスマホを見ながら暇つぶしをしているのも同様です。

すでに十分な「心の栄養素」が足りていれば、自己を振り返る内省の時間として大切な時間ではあるのですが、交流する相手が自分しかいないので、この時間ばかり過ごしていると「心の栄養素」を得られなくなります。

つまり、孤独な時間が多すぎると「心の栄養素」がどんどん欠乏し、飢餓状態になっていきます。そうすると他者に[⑤心理ゲーム]を仕掛け、手っ取り早く否定的なコミュニケーションばかりするようになります。

これ、思い当たるフシがある方もいるのではないでしょうか。交流分析の業界では、これを改善課題として活動している方も少なくないほど、深刻な状況です。

一人の時間はラクですが、「心の栄養素」が欠乏してしまいかねないことには留意しておきたいですね。

②儀式・儀礼

予定調和的に進む、儀礼的な時間です。「あいさつ」が代表的ですね。「おはようございます」と言えば「おはようございます」と返ってくるので、少ないながらもストローク(「心の栄養素」)をやりとりできます

ただし、コミュニケーションリスクがないわけではありません。あいさつをしたのに返してもらえなかった、あいさつをしようと思っていたのにタイミングを見失ってしまった、などが起こりえます。

「こちらからあいさつをしたのに返してくれない」といった経験を苦々しく感じた方もいるかもしれません。相手が[①閉鎖・引きこもり]状態にいると、このようなことが起こりがちです。

逆に、「自分からあいさつをしたら、向こうもあいさつを返してくれて、気分が良くなった」という経験をしたことがある方も少なくないでしょう。あいさつは初対面でもストローク交換ができるので、相手をコミュニケーションに持ち込むための最適な手段なのです。

もし、ほんの短いあいさつに一喜一憂していたり、あいさつすら返せない状態になっていたら、「心の栄養素」が足りていない状態が想定されます。まずはこの短いコミュニケーションを大切に過ごしてみてください。

③雑談・気晴らし

目的がないまま、流れに任せてやりとりしている時間です。

代表的なものは友達同士の飲み会ではないでしょうか。どちらともなくオチのない話をしながらの、居心地の良い時間。会話が途切れず、気がついたら数時間経っていたということも珍しくありません。

会話をしたからといって、なんらかの目的が達成されるわけではないものの、ただのあいさつよりもずっと「心の栄養素」を得られるため、スッキリした気持ちになります。

この雑談、実はかなりのコミュニケーションリスクをはらんでいます。気心の知れた信頼関係のある相手なら、どんな話題のボールを投げあっても気にしませんし、「心の栄養素」が足りているなら「たかが雑談、されど雑談」くらいの心持ちで臨めているでしょう。

しかし、緊張を感じている相手や、そもそも「心の栄養素」が足りていない状態だと、相手に配慮したボールを渡さなければならないことそのものをストレスに感じます。ボールを「投げる」なんて、もってのほかです。

このように雑談は人を選ぶ側面はあるものの、手軽に「心の栄養素」を得られる手段です。家族や友達など、信頼できる相手との雑談をしていないな〜と思ったら、お茶でも飲みながら一緒に過ごしてみましょう。

④活動・仕事

目的達成のために、一緒に活動している時間です。勤労時間を指すものではなく、目的の共通認識ができており、お互いを信頼し合って主体的に活動している状態の時間を指します。生産性も高いですね。

関わる人数や時間も増えるので、かなり充実した「心の栄養素」を得られることでしょう。しかし、チームの一体感を得れば得るほど暗黙の了解が増え、お互いの心理的境界線が薄くなってくるので、当然のようにコミュニケーションミスが起こりやすくなります。リスクが大きいのですよね。

なお、リモートワークなどで、ひとりで仕事をしている時間の場合は[閉鎖・引きこもり]なのか[仕事・活動]なのかを判断しにくいかもしれません。その時間に「心の栄養素」を得られているかどうかで判断できるので、[仕事・活動]の時間だけど環境は[閉鎖・引きこもり]の両方の側面があるから、得られる「心の栄養素」は少なめと考えることもできます。

チームワークができていなければ、仕事をしていても[閉鎖・引きこもり][儀式・儀礼][雑談・気晴らし]の時間のほうが多いかもしれませんね。

⑤心理ゲーム

なんとなく心理テストのような印象を持つかもしれませんが、「お決まりの流れで後味の悪い結末を迎える一連の流れ」が繰り返される時間です。

人間は、ストローク(「心の栄養素」)が欠乏すると生きていけないため、なんとしてでも得ようとする本能があります。その方法はひとそれぞれで、幼い頃に生存戦略として身につけます。

大人になるにつれて理性的にコントロールできるようになりますが、強いストレスがかかって冷静な思考ができなくなると、意図せずひょっこり顔を出します。無意識なので、自分のパターンとして繰り返していることにすら気づきません。

たとえば、部下に仕事を優しく教えていたのになかなか覚えてくれなくて、しまいには怒り出して相手を萎縮させてしまう、といったことが繰り返されるなどです。これを「相手のせい」で済ませてしまっていませんか?

この「心理ゲーム」は近しい相手だからこそ気づかず繰り返してしまう行動ですから、そういった関係性の先に得られるものは、本来、非常に大きいんです。以下の記事も参考にしてください。

⑥親交・親密

気づきが生まれ、主体的であり、親密なコミュニケーションの時間です。この時間を過ごしている彼らの後ろには「We are the one!!!」といったオーラが見えることでしょう。

お互いの強さも弱さもすべて抱きしめ、ひとつになって、何でもできそうな熱量があります。実際、何でもうまくいきます。人間の可能性がすべて引き出されている状態です。それくらい、濃密で貴重な時間です。

コミュニケーションリスクすらほとんどありませんが、そもそも、この時間は長く続きません。交流分析の目指すゴールは、この[⑥親交・親密]な時間を持つことですから、意識して頻度を高めていきたいですね。

時間を構造化して「心の栄養素」を摂るには

それぞれのカテゴリーで費やしている時間がどれくらいなのか、カテゴリーを変えられるかを考えてみましょう。これは、自分だけでなく他者の時間の構造化を変化させることもできます

コミュニケーションは双方向。お互いにストローク交換できる関係は、豊かな時間を過ごせるようになります。豊かな時間は、豊かな人生につながりますからね。

[閉鎖・引きこもり] → [儀式・儀礼]

コミュニケーションの最初の一歩。

まずは家族にしっかりあいさつすることによって、変化します。お店の人に「ありがとう」や「ごちそうさまでした」と伝えることも、[儀礼]の時間を増やすことになり、お互いのストロークを得られる機会を増やせます。

マナーを守ったりモラルを保つことは、安全にストローク交換をするためのフィールドをつくるものと言えるのかもしれません。安心の欲求を満たすことにもつながりますね。

あいさつは定期的におこなうのがベストですが、他にも儀礼的な習慣によって、一緒の時間を持ち続けることも有効です。

リモートワークでも朝礼や終礼を共にしたり、出社して同じ空間で過ごすなどは、[閉鎖]の時間を減らす効果もある=[儀礼]による所属の欲求を満たすことで「心の栄養素」を得られる環境になっている、と考えられます。

形骸化した[儀礼]は、つい「面倒くさいなあ……」と[閉鎖]に陥りがちですが、本来、とても大切な習慣なんです。[儀礼]はこの先のコミュニケーションの土台にもなるので、環境にしておくのがオススメです。

[儀式・儀礼] → [雑談・気晴らし]

あいさつから、たわいない雑談へ。

「あいさつに続けて話を続けたいけど、何を話したらいいのかわからなくなる……」という人は少なくありません。交流分析の理論的に考えた場合、雑談を続けようと努力するよりも、あいさつ以外のやりとりを1回でも続けることを意識するだけで大丈夫。

「はい/いいえ」で答えられるクローズドクエスチョンではなく、「何を/どこへ/いつ」(6W2H)などのオープンクエスチョンを取り入れられると、雑談の幅が広がりますので、少しずつ取り入れてみても良いかもしれません。目的のない会話の時間なので、なんでもいいんです。

ちなみに、心理的距離感を縮める効果もあります。この先のコミュニケーションのためにも、雑談は大切ですね。

[雑談・気晴らし] → [活動・仕事]

雑談から、目的を持った生産性へ。

[活動・仕事]の時間はそもそも「目的や目標が共有されていること」が大前提です。そのため、[雑談・気晴らし]として、目的や目標に関してカジュアルに話せると[活動・仕事]に移行しやすいです。

飲み会で仕事についてざっくばらんに話したり、企業で取り入れられているカジュアル面談も、雑談から仕事へ向かわせることができる時間といえそうです。

「飲みュニケーションは業務なのか」という議論がありますが、[仕事]に向かうためには[雑談]が大切な時間であるものの、[雑談]は人を選ぶので、まずは[儀礼]を増やして心理的距離感を縮めないことには、この議論はなくならない印象です。[雑談]は、必ずしも飲む必要はありませんからね。

[活動・仕事] → [心理ゲーム] → [親交・親密]

ホンネを言い合っても前に進める関係へ。

[心理ゲーム]は、ネガティブなやりとりが繰り返されるパターンです。できるだけ陥らないようにする必要があることは否めません。ですが、知らない人とはあまり起こらない時間なのです。子どもが、親の前ではぐずるのに、知らない人の前ではこらえているようなものですね。

そして、[活動・仕事]はコミュニケーションミスも起こりやすいので、感情的な衝突も多くなります。モヤモヤするやり取りは「ラケット行動」といいますが、最終的に(かなり)嫌な思いを味わうプロセスが[心理ゲーム]です。

視点を変えてみると、褌ひとつでガチンコしているようなものなんです。お互いに未熟な自分を晒しあっているにも関わらず、気づいていないのが人間の興味深いところ。

自分がどんな[心理ゲーム]を仕掛けやすいのか、仕掛けられやすいのかに気づくと、どれだけの弱みを相手に晒しているのかに気づきます。そして、自分が相手に抱く気持ちに気づくチャンスです。

「無条件に自分を助けてくれると期待してしまっていた」とか「この先も一緒にやっていきたい」とか「自分のことばかり理解してもらおうと思っていた」とか。こういった柔らかい気持ちが根っこになければ、ここまで心理的に近くなっていないはずなんですよ。

[心理ゲーム]を「嫌な思いをした」で終わらせるのではなく、「悔いのないようにホンネを伝えよう」まで進めることもできます。本気で[親交・親密]の関係を望むのか、離れるのか、そのまま[心理ゲーム]を繰り返すかは、自分ん次第ですね。

[心理ゲーム]は陥っていることに気づきにくく、ネガティブなコミュニケーションですが、だからこそ、お互いの関係性をアップデートするチャンスです。

[閉鎖・引きこもり] → [心理ゲーム] を “やめる”

[閉鎖・引きこもり]状態が長く続いてストロークが欠乏すると、「とにかくなんでもいいからストロークがほしい」と、ストロークの質にこだわらない飢餓状態になります。

人間が本能的に求めるストロークは「心の栄養素」ですが、肯定的なストロークがけでなく、否定的なストロークもあります。そして、人間は嫌なものに反応するため、否定的なストロークのほうが簡単に得やすいのです。つまり、[心理ゲーム]を仕掛けてでもストロークを得ようとします。

私の場合は、姑があまり外に出ず家にこもっているため、よく[ゲーム]を仕掛けられます。[ゲーム]や「ラケット行動」だとわかったうえで自分や相手がどんなふうに反応するかを観察していますが、感情と思考が持っていかれてしまうので、終わってからでないと振り返れないのですけども。

ちなみに……論文を調べたいネタとして、SNSがインフラになったことで、いわゆる “クソリプ” が増えています。匿名の[心理ゲーム]というより「ラケット行動」かもしれないのですが、必ずしも心理的距離感の近い人に仕掛けるだけではなくなっているのかもしれません。

[閉鎖]→[ゲーム]に飛んでしまうのは犯罪者によくある傾向とも言われますが、これも自分より弱い “えさ” を見つけて罠をしかけるので、心理的距離感が近いとも限らず。あとでよく調べておきます。

「時間の構造化」からみる、心理的安全性のつくりかた

(前に書いておいた記事のままです)

まず、対象者の全員が「③雑談・気晴らし」の時間を常時持てるようになるのが最初に目指すポイントです。

ですが、「①閉鎖・引きこもり」状態が長い人はコミュニケーションがうまく取れないため、会話がツラく、難しいでしょう。そこで「②儀式・儀礼」に馴染むことからはじめます。つまり、あいさつを常時返せるようになることを目指します

そして次は気持ちの入ったあいさつを返せるようになるといいですね。とはいえ「ぉはようございます…」→「おはようございます」と違和感のないあいさつになる程度の変化でも十分です。

あいさつはコミュニケーションの玄関のようなものですから、むげにすると「①閉鎖・引きこもり」の状態に戻ってしまいかねないので、自律性を育てたいなら、あいさつ文化をつくっていきましょう。かといって強制するのではなく、声のトーンや表情、頻度などをじっくり「育てて」いきます。まずは自分からですね。

しっかりあいさつができるようになったら、他愛もない会話に続きます。今日の天気や、当たり障りのない最近の話題などが続けば、「③雑談・気晴らし」に到着しています。その流れでお互いに自己紹介ができるようになれば、だいぶオープンになっています。

人によって時間はかかるかもしれませんが、自分がうまく喋れなくても相手が聞いてくれる安心感があり、相補的なコミュニケーションができることが、心理的安全性をつくる第一歩です。

目指すのは「⑥親交・親密」な最強のパフォーマンスを発揮できる時間ですが、頂上を目指す前に基本的な体力をつけておきましょう。

まとめ

「時間の構造化」は、コミュニケーションの階段です。心理的に安全な環境をつくるため、まずは[③雑談・気晴らし]を目指しましょう。そのためには[②儀式・儀礼]のあいさつを徹底することがポイントです。

このときの仕掛け人(たいていの場合は上司)は「心理的安全性をつくりたい」という目的を達成するために[④活動・仕事]状態にいることを意識します。つまり、自分からたくさんの人にあいさつを行ったり、傾聴に徹します

そうすると、相手が[④活動・仕事]に移行したあとも、[⑤心理ゲーム]に陥りにくくなり、陥ったとしても[⑥親交・親密]な時間に移行しやすくなります。

ちなみに、心理的安全性をつくるためにはネガティブな経験を共有すると良いということが言われていますが、これは意識的、つまり[④活動・仕事]の時間として行ったほうが良いと私は考えています。理由は2つ。

1つめに[②雑談・気晴らし]の状態では楽しく無邪気な感情が優位にあるので、相手の失敗談を話のネタとして受け止めやすいこと。2つめに、それによって[⑤心理ゲーム]に流れてしまい、不用意に話をしにくくなることがあげられます。

[④活動・仕事]は目的を持った活動のことですから、この段階でお互いをオープンにしていくことで、一気に心理的安全性が育っていきます。

とはいえ、[⑤心理ゲーム]はネガティブなコミュニケーションですが、実は幼い頃に養育者との関係で培ったコミュニケーションでもあります。心理的安全性が担保されていると、いざこざが起きたときでも自分たちの弱みに向き合い、乗り越えたときに人間的成長を得られるでしょう。そこで有効なスキルが傾聴なのです。

チームビルディングで有名なタックマン・モデルでも、混乱期を乗り越えた先に形成期がありますから、決して悪いものではありません。このハードルを超えた先にある可能性はとても大きいので、どのように時間を構造化するかを改めて考えたいですね。