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有宮明哉の書籍レビュー『告白』

湊かなえさんの『告白』についてレビューを書いていきたいと思います。
思いっきりネタバレが含まれますので、まだ読んでいない方は見ないようにしてください。







それではここからレビューですが、もともと読むきっかけから入ります。
最初のきっかけは、映画的に満点だけど二度と見ない作品たちというXのハッシュタグからでした。
映画の告白が流行っていたのも知っていましたし、面白そうだけど怖そうだなーって思っていたら気づいたら14年前の作品ということを知ったことがきっかけでした。映画を見る気力はなかったため、ネタバレでいいから見てみようとネタバレをまとめてくれていた方の話を見ていたら、すごく面白そうで、これは小説でどのように表現しているのか見て見なくては!と小説が読みたくなったのがきっかけでした。

『告白』という作品はもともと湊かなえさんが「聖職者」という作品で文学賞をとったことから続く第1章「聖職者」から第6章までをまとめた作品です。それぞれ章ごとに語り手が変わり、一連の事件に関する印象だったり、それまでに起こした内容だったりを語り手目線でつづられていく物語です。
まず第1章「聖職者」から衝撃でした。
もともと湊かなえさん自体が脚本家等を目指しており、物書きとしては色々やっていたものの、小説家のデビュー作としてはほんと最高の出来なのではないかと思うくらいガツンと頭を殴られた思いでした。
正直1章を読んだら次を読みたいというよりも、怖くて次に進めないという感情でした。


ただ、この後からの描写はどうなるんだと、少し休んでからページをめくってみると、第2章はある女の子の目線からつづられていきます。
衝撃的な第1章後の話をどういう進み方をしたのかをえがかれていきます。
勘違い教師のウェルテルだとか、少年Aである修哉のことだったり、あの事件後のいじめのことが書かれています。
最後にまた衝撃的な事件が起こり、美月の警察への話も怒りを超えた気迫が文字から伝わってきて、頭の中でこういう話し方だったのだろうと映像が浮かんできます。それだけ文章や言葉一つ一つの表現力がすごいのです。
この時のウェルテルの顔はこういう感じなのだろうなと感じながら読むのも本当に気持ちが良い。


そして第3章は少年B直樹の姉目線で事件が語られていきます。
どうして直樹が第2章の最後の出来事を起こしたのかを知ることとなります。
直樹の母親がどれほどまでに過保護で直樹に接してきていたのか、直樹自身が変わっていく様を母親はどのように見ていたのかを日記から知ります。
この目線も非常に面白い。
事件を知らない人の目線、子供の考えていることは分からないという親の目線。勝手に解釈する親の目線。自分自身が母親だからこそ理解している目線を見事に書いているなと感じました。
今の自分はこんな目線は書けないと悔しく感じる気持ちもあります。
姉自体は事件に全く関係ないので直樹との絡みもありませんが、本当に外からみたらこういう気持ちを思うのだろうとリアルを感じとれました。

第4章からは直樹の視点。
事件までの日常。事件を起こした動機。そして第2章の最後の真実。
全ては思春期という多感な時期に色々あったことによる悲しい事件。
直樹自体に明確な殺意は何もない。だからこそ絶望し、人に自分がかかってしまったと信じていた病気をうつさないよう行動していた。
でも寂しいから時に母親に甘えてしまう。
だからこそ母親を殺したくないから触るな!!と発狂する。
何か子供時代を思い出す。
大切なんだよね。親も、自分のプライドも。
だれにも認めてもらえないと勝手に勘違いしちゃうんだ。
どこで湊かなえさんはこの少年の気持ちを思い浮かぶんだろう。
修哉にバカにされ悔しくて見返したくて反抗的になり、気づいていたのに罪を犯す。
おそらくあれで死ぬとも思っていなかったと思うんだ。
死んだということを聞いて、内心びくびくして、でも修哉には見栄をはって、でも心が弱いからふさぎこんで、これ本当に中学生頃の自分やんって凄い感じる。(もちろん事件等は起こしていないが、いじめやちょっかいに対する過剰反応していた時期があったので)
どういう情報収集を行い、どのように書こうと思い、こんな話をかけるのか。
湊かなえさんのすごさに圧倒される

第5章 物語は少しずつラストに向かっていく。
5章は修哉の目線でえがかれる。中学生の頃の鬱屈した気持ちを本当に代弁するのが上手いと何度でも感嘆させられる。
どうして殺意を持ってこの事件を起こそうと思ったのか、可哀想に感じさせる子供を殺人鬼に変える瞬間が見えてきます。
認めてもらいたい。
そういう欲望は誰にでもあります。
でも誰でもいいわけじゃない。
特定の誰かに認めてもらいたいんだ。
これぞ子供の頃にあった思考だって私は思いました。
修哉はこれで注目を受け、自分を寂しくさせた母親に復讐すると共に愛をもう一度向けてもらえるって思っただろうな。その目論見は直樹によって邪魔されてしまう。一番見下していた相手に上を取られてしまう。
だからこそもう一度復讐しようと色々画策する様子もすごく面白いし、最後のシーンの携帯電話の着信を取るところも想像できるんだよね。
一つ一つの動きが文章から伝わってくる。
ただナンセンスなのは美月を殺してしまうところ。美月はいい子だっただけにすごく残念。第6章の伏線回収するためにはどうしても殺す必要はあったのだけれど・・・。

第6章はすべての事件の清算のお話。
悠子先生視点で再度えがかれていく。
悠子は復讐をしたと思っていた。もちろん殺傷能力は低いことは分かっていたが、恐怖して反省させるために行った復讐劇だった。
しかし、桜宮からの話でその復讐が失敗に終わったことを知る。
そこからの悠子は再度それぞれに復讐しようと動き始める。
ウェルテルを裏から動かしていたのも悠子だったのだ。
直樹は勝手に自爆し、すべての復讐の目的、もちろんすべての発端である修哉に復讐するため監視を続ける。
そこで修哉の異常なまでの母親への愛を知り、修哉の計画をすべてつぶし、最後の終わりを迎える。


最後のシーンの終わらせ方が本当に良かった。修哉がどう感じたか、悠子がどういう表情だったかを書かず、あなたの更生の第一歩だと思いませんか?
って、読者にこの後を想像させるためにここで終わらせているんだろうなと感じ、本当にすごく気持ちの良い終わり方と思った。
自分は修哉は絶望の中声にならない叫びをあげ、警察に捕まるシーンを想像したし、悠子は一瞬口元がにやりとしたけれど、でもすぐに真顔に戻り現場を後にする後ろ姿が見えた。
そして、悠子はひっそりと暮らし、修哉は自殺し、直樹は狂ったまま終わっていくのだろうと想像した。

湊かなえさんの作品は「イヤミス」と「見た後に嫌な気分になるミステリー」と言われているが、自分は全く感じることはなかった。
というかすごく気持ちが良くなって、他の作品を読みたいって強く思った。だからこそ最新作の人間標本も買ったしほかの本も古本屋だけどあるだけ全部買ってきた。
一つの作品を読んだだけだけど、大好きな作家のひとりになった。
他の作品はまだ読んでいないからもしかすると告白が一番最高という結論になるのかもしれないが、楽しみで仕方がない。

それだけ告白が素晴らしかった。
ただ、惜しむらくは映画化される前に読みたかった。
悠子先生の映像がすべて松たか子さんで出てきてしまうから。
湊かなえさんがえがいた悠子先生を自分で想像したかった。
だからこそ人間標本は映像化される前に買った。
他の作品も「母性」「白雪姫殺人事件」は映像化された俳優さん等を見てしまっているけれど、他の作品は誰が演じている等を深く見ていないので一度小説を読んでから映像化されたものをみたいと思う。

だってそっちのほうが好きに想像できて楽しいでしょう?

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