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『鯉のぼり』

2024年5月5日、こども日。晴天。14年ぶりに実現した家族旅行の最終日。昨日に引続き本日も5時半を少し過ぎたあたりで目が覚めた私は、重たい頭を枕に沈めて二度寝を試みるも、結局のところ眠りに落ちないまま気づけば朝食の時間である7時半を迎えた。誰かが使用しているドライヤーの轟音と、源泉かけ流しの内風呂にお湯がとぼとぼと落ちる音が部屋と脳内にこだまする。そんな睡眠不足でやや不機嫌な私は無造作な寝癖に半開きの眼のまま、はだけた作務衣を直して家族とともに朝食会場に足を運んだ。焼き鮭といくつか小鉢が用意された和定食を平らげ、ひとり先に部屋に戻った。

速乾性に優れたユニクロの白シャツと黒のジョガーパンツにさっと履き替えた私は、睡眠不足を吹き飛ばそうとさっとホテルを飛び出し、ひんやりとした朝の定山渓をジョギングすることにした。春の行楽シーズンにおける札幌市山間部の温泉街の中央を流れる豊平川は、雪解け水による潤沢で透き通った水がぞろぞろと流れ、その上には赤や青、緑といった鯉のぼりが朝の爽やかな風を受けてたなびいていた。そんな晴れやかで童心に返る情景に冒険心をくすぐられ、宿泊客で賑わう定山渓温泉の表通りから少し外れた、ひと気がなく舗装がまばらな路地に足を踏み入れた。

そこに広がるのはどこか故郷を思わせる、くだびれた温泉街の一面だった。バブル期には団体旅行客でにぎわいを見せたと推測される、朽ち果てたホテルの廃墟の数々。清流の豊平川に架かる、入口に立入禁止のテープが貼られた頼りない赤い吊り橋。そんな様子を見た私は、ホテルの廃墟や朽ち果てた個人商店の建物、廃校になり放置された学校施設のある愛知の知多半島にある故郷に思いを馳せた。

栄枯盛衰を今に伝える定山渓の様子に思わずノスタルジアを覚えた私は、ジョギングを再開して道中にあった定山渓神社に立ち寄った。ここにも鯉のぼりが上げられていた。参拝をしたのちにはホテルに戻り、チェックアウトぎりぎりまで大浴場の温泉に浸かり眠気と疲れを癒やした。

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