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『ナショナル麻布』

2024年4月6日土曜日のやや涼しげな朝。芳醇なバターの香りに空腹を刺激された私は、広尾駅前の行列ができるベーカリーであるTRUFFLEへ足を運び、焼きたての塩トリュフパンといくつかの惣菜パンを手に提げて、近くのブルーボトルコーヒーへ身を委ねた。白を基調とした清潔感のある店内は、土地柄もあってかこの地を一時的な拠点とする西洋人たちがそれぞれ爽やかな土曜の朝を満喫しているようだった。オリジナルブレンドのホットラテを注文した私は、順番待ちをするためにふと近くにあった無垢材の椅子に腰掛け、相席となった向かい側に座る親子に目を配る。30代中盤と思われる眼鏡をかけた推定日本人の父親は、未就学児と思われる娘に対して、聞き取れるわけがないほどの早口にどもり声を重ねて、児童向けの本を読み聞かせていた。その様子のおかしさと、口をぽっかりと開けていた女児の正直な反応に、思わず吹き出しそうになった私は、出来立てのフレッシュなホットラテを手に、近くの有栖川記念公園へ向かった。

土曜日の午前9時ごろにおける有栖川記念公園は、駐在員もしくは大使館職員の子息と思われる西洋系の男児と、親の資本力と執念によって入校が可能になったと想像されるインターナショナルスクールに通う推定日本人の男児が、英語を自在に操りながら仲睦まじく公園内を駆け回っていた。そんな彼らの様子を眺めながら、私がもし彼らの通うインターナショナルスクールに通っていたらどんな人生になっていたのだろうとか、外資系企業の日本支社で生き残るために私が身につけた付け焼き刃の英語力を情けなく思ったりとか様々な思いが渦巻く中、ノイズキャンセリングに優れたソニーのヘッドホンをさっと耳にあててSpotifyでTOTOの『Africa』を再生した。行ったことのないキリマンジャロやセレンゲティ国立公園を空想しつつふとGoogleカレンダーを確認した私は、本日の12:30から予定されている南青山で開催される友人の誕生日パーティーに持参する赤ワインをまだ用意していないことを思い出し、慌てて有栖川記念公園の隣にある輸入品を豊富に扱うスーパーであるナショナル麻布に駆け込むのであった。

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