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心に植えられた永遠の花。

学生の時、関わった舞台の本番前に「差し入れはお花にしてね💐」などと厚かましく公言していたほど、私は花が好きだ。家にはたいがい花を飾っており、ふと花が視界に入ると、その可愛さにクスッと笑みがこぼれる。「お花とお菓子、プレゼントされるならどっちがいい?」と聞かれれば、私は迷うことなく、花を選ぶだろう。しかし、私と花との関係はちょっと複雑だ。

「人生に一度は一生忘れない恋をする」とよく言うが、私にもそんな恋をしたことがある。と、大々的に書くと、さもドラマチックな恋愛をしていそうだが、全くもってそんなものではなかった。とにかく私は、彼のオモワセブリに翻弄されており、振り返ると面白いくらい脈がなく、彼もしつこい私によく付き合ってくれたな~なんて感心してしまうのだが、彼の心に別の人がいるとわかっていても、私は彼のことが好きで好きで仕方がなかった。

私と彼はよく飲みにいっていたのだが、2回だけ、飲むため以外の、つまり”デート”があった。

一度目は、お花見。大好きな桜だった。

二度目は、映画館。観た作品は「花束みたいな恋をした」

その後、紆余曲折あって私はフラれ、彼とはサヨナラした。

そして、その彼は花屋に就職をした。

映画をご覧になっている方はお気づきかもしれないが、「花束みたいな恋をした」の作中には「女の子に花の名前を教わると、男の子はその花を見るたびにその女の子を思い出してしまう」という話をしている場面がある。

花を見ると、苦しい記憶もあわせて彼を思い出す。花屋に行っても思い出す。図らずも、純粋に好きなだけだった花が、花自体が、意味を持った特別な存在となってしまった。彼は私の貴重な2年間を奪ったうえに、心に永遠の花を植えていった。ただの典型的なダメな恋が、一生忘れられない恋に変わってしまった。


とある先日、殺風景な職場に、1輪のチューリップが飾られた。
ふんわりにじむ赤いチューリップだった。
すると、雑談などあまりかわさず、ピリピリしてることも多々あるこの職場で、皆が微笑みながらチューリップを話しをしだした。仕事はチューリップが現れる前後で何も変わっていないのに。それ以降、職場には常に花が飾られている。

花には、人の心を潤す力がある。
そしてまた、心の隙間にそっと入り込み、住みつく力も持っている。

家の花が枯れる頃になると、変わらず私は花屋に寄り、飾る花を選ぶ。
きっと、新しい恋人ができたとしても。







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