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H&Mのバイトで学んだ3つのこと




当時19歳。
飲食店のバイトしかしたことなかった。

駅ビルの「いらっしゃいませえええ」タイプの販売員はしたくない。
そうなったらファストファッションしかない

※ファストファッション=短いサイクルで世界的に新作を大量生産・販売するファッションブランドやその業態(ユニクロ、GU、H&M、ZARAなど)


運命なのか悪運なのかその時のH&M公式ペーにはたった1店舗しか求人が乗っていなかった


ダイバーシティ東京プラザ店



お台場のど真ん中で初めてのアパレル店員が始まる。

わずか1ヶ月で辞めたファストファッションでの実体験。


優しいギャルとメガネをかけたスパイダーマン




ファストファッションの朝は7時から始まる。
早い、早すぎる。
朝6時過ぎの新橋駅は静かなのにゆりかもめには意外と人が多い。
ゆりかもめ特有の静かな車内には全員が全員気を失ったように眠っている

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何百枚と衣類が詰まった1平方メートルほどの大きな段ボールが毎朝3〜5つ届く。


朝の7時から10人がかりですべての服を一枚残らずハンガーにかける。
簡単なTシャツならまだいい。女性もののビキニなんて最悪だった。
全部色似てるし形も似てるしどれがセットなのか正直わかんない。


ハンガーかけをしながら傷がないか検品をし、
サイズごとジャンルごとに仕分けをし、
全てにタグを付け、掃除にミーティングとしていたらあっという間に11時のオープン時間になる。



そう、アパレル業は意外と肉体労働が多い。
華やかさは一切ない。「この新作可愛い」と思う暇もない。
毎日が戦争だ。



日雇いバイトが飛ぶこともザラにある。
人数が減ったら当たり前に時間内に終わらない。

朝の仕分け作業だけ出勤に来るメガネの地味そうな男性がいた。
私たちが3着を終わらせている間に10着を終わらせる。
私たちの中のスパイダーマンはメガネの彼だった。

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スタッフ数がとにかく多い。
その分個性豊かなメンバーがそろっている。
新人に厳しい190センチの筋肉質なゴリマッチョ(中身は乙女)、
全身タトゥーの金髪姐さんに、陽キャど真んみたいなアイドル顔のキラキラ男子。

女性陣は基本ギャルが多い。もしくは元ギャル。
ギャルは基本つるむ。
休憩室に5人以上溜まっていると怖くてなかなか入れない。(ギャル悪くない)

一度だけギャル姐さんたちおランチを食べた。
新人でぼっちの私に気を遣ってくれた。
ギャルの恋愛の掟を教えてもらった。

ギャルは優しかった。
見た目で判断したらいけないと学んだ。


行列にすぐ怒る客




土日のお台場の混みかたは凄まじい。
レジは5台稼働しても入り口まで列が続き、
フィッティングルームは約20人待ちになる。

待ち時間が延びれば伸びるほど人々のイライラも募る。

そのイライラは試着望む本人だけでは決してない。
娘の試着を待つ家族も例外ではない。

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レディースフィッティングルームは全部で7つ。

次々と試着希望の客が来る。
試着点数を確認し、荷物を預かり部屋に案内する。
その後は膨大な量の返却物をハンガー掛け、
左耳で無線から飛んでくる指示を聞きながら右耳でサイズ違いを希望する客の要望を受ける。





それは間違いなく私のミスだった。

空室を見落としていた。





フィッティングルームの1番奥、7番目の部屋が空室にも関わらず
それに気が付かなかった私は次の客を通せずに仕事に追われていた。もちろんわざとじゃない。


しかし客はそこを見落とさない。
今かいまかと順番待ちにフラストレーションを募らせいる。
どこが空室なのかを見落とさない。


空室にも関わらず通さない私に怒りが爆発した父親がいた。


「てめふざけてんのかこのクソアマ。1番奥あいてんじゃねえのかよ!!!」


突然の怒鳴り声に私はもちろん順番待ちの客の視点が一点に集中した。



すぐに7番目の部屋を確認しに行った。
確かに空室だった。
カーテンが8割閉まっていたので余計気がつかなかった。

「申し訳ありませんでした。確認不足でした。」

静かに謝罪をし先頭の客を案内する。




謝罪だけでは父親の爆発した怒りは止まらない。


「クソガキてめえ、仕事もできねえのかよ。目ついてんのかよ。こんな簡単な仕事もできねえならやめろよクソが」

高校生の娘と母親が焦った顔で止めにはいる。しかし怒号は止まらない。



その時の私は何を考えたのだろうか。


父親の怒号と同じ声量で

「大変申し訳ございませんでしたあああああ!!!ご迷惑おかけしましたああああああ!」

と頼まれてもない土下座と腹立つ顔で対抗した。


父親の怒号はぴたりと止まった。
困惑の表情を浮かべたのを見て(勝手に)勝利を確信した私は死んだ目で仕事に戻った。


娘の「お願いだからもうやめて」と父親に懇願する声が聞こえた。




「変人には更なる変人を」


また1つ学んだ。

価格と利用客の質は比例する


心の広さと財布の大きさは同じだと信じている。
持ち金が少なくても財布が大きい人間は多くても、財布が小さい人間は持ち金が少ない。


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H&M ジャパンでは下着、アクセサリー、ベルトや靴やバッグなどの小物の返品交換はできない。
もちろんタグのない商品も。
会計の際に必ず声がけするように1番最初の研修時に口うるさく教育を受ける。


ある日の閉店10分前。
お財布の小さい男が来た。

その関西弁を話す財布の小さい男は『タグなし』の商品の返品を求めてきた。
商品の汚れを訴えている。



昨日付けのレシートは確かにある。
しかしタグがない。
当然返品どころか交換もできない。
「店でできた汚れ」なのか「客がつけた汚れなのか」
誰にも証明できない。



男は返金だけをひたすらに訴え続けた。
対応した男性社員はタグがないものはどんな理由でも返金できないと跳ね返し続けた。



最初は腰の低かった男の態度がどんどん変わってくる。
口調が荒れ声が大きくなってきた。

閉店し他の客がいなくなった後も話し合いは終わらない。



ついに男の怒りが爆発した。
「対応が悪い」「お前が悪い」「能無し」「ナメてると潰すぞ」
今にも首を絞めそうな勢いで詰め寄る。


体格の良さと日焼けした肌も相まって半グレにしか見えない。

マネージャーを今すぐ呼んでこいと、叫ぶ喚く怒る。
マネージャーは本社に行く日。店舗には来られない。


緊迫した空気の中、他の従業員は閉店後の店内の整理を続ける。

誰もそちらを見ようとしなかった。




ラチが開かない状況に痺れを切らした男の怒りは
他の従業員にも飛び始める。



最初に見つかったのはレジ近くのレディース用品周辺を片付けていた外国人のアルバイト1。

「ねえ、君はどう思う?こいつの対応。意見を聞かせて」


1番最悪な絡みかたじゃん。
ただ怒鳴られるのではなく発言を求められている。
授業かこれは?居眠りを詰める教授なのか?


アルバイト1は賢かった。
「僕はまだ入ったばかりで正しい対応が分かりません。」
普段は流暢な日本語を話すはずの彼はカタコトの日本語で逃げ切った。


あきらめた男は次のターゲットを探そうと周りを見渡す。

その瞬間フロアにいるスタッフ全員がしゃがんで棚に隠れ始めた。

私も同様にサングラスの棚に隠れ落ちている商品を整理するフリを始めた。


「誰かいないの?スタッフたくさんいるの見えてるよ。隠れてないでさあ、このクソ男の対応について意見聞かせてよ」


その日の店内は運悪く綺麗だった。
そんなにたくさんの量は落ちていない。
とっくに片付けは終わっている。

しかしここで立ち上がると鬼に見つかる。
30分ずっと同じ棚を整理し続けた。

全てのサングラスのレンズを無駄にピカピカに磨いた。



中学生の頃、授業で当たられないように名札のついたジャージを必死に隠した記憶がよみがった。



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ようやく施設の警備員が到着し後日対応することで落ち着いた。

タグのない首元にファンデーションの汚れがついた800円のTシャツは返金対応で収まったらしい。



誰がいつ汚したものなのか。
そんなの全員わかっている。




心の余裕は人間性を表す

お台場の潮風を受けながらまた1つ学びを増やした19歳の私であった。




①ギャルは結構優しい
②変人には更なる変人を
③心の余裕は人間性を表す


19歳の夏、たった1ヶ月しかいなかったファストファッションでの経験。
結構大事な事を教えてくれたお台場に感謝してます。



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