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詰将棋フェスティバル オンライン作家部門 解答発表

バーチャル詰将棋作家の駒井めいです。

「詰将棋フェスティバル」と題した詰将棋作品展を開催しています。
下記の3つの部門に分けて行い、全19作が2022年2月12日に出題されました。

(1) ビギナー部門
(2) オンライン作家部門
(3) 複数解・ツイン・変同解部門

既にビギナー部門の解答発表が完了しています。

今回はオンライン作家部門の解答発表です。
他部門に関しましては、下記のスケジュールで行っていきます。

2022年
4月9日:(3) 複数解・ツイン・変同解部門 解答発表(前半)
4月16日:(3) 複数解・ツイン・変同解部門 解答発表(後半)

また、多くの方から短評をいただきました。
心よりお礼申し上げます。

オンライン作家部門 解答発表

紙媒体の専門誌よりも、インターネット上での発表が主である方の作品を出題する部門です。

① keima82 作

【 作意手順 】
21桂成、16馬、24王 迄3手。

【 作者コメント 】
 狙いは逆王手をかけさせる不利感、最終図で合い駒が効きそうな不安感、複数の紛れ筋などです。
・紛れ1 ▲24玉△45馬▲21桂成で詰みそうですが、二手目△22玉でダメです。
・紛れ2 三手目▲16香は△14飛!が唯一の受け。以下、▲同香は△同飛成で逆王手が振りほどけませんし、▲43玉は△13玉で耐えています。
 なお、作意最終手▲24玉に対して△34金合は、▲同角に△同馬と取り返せないため、無駄合いで、そのまま詰み上がりとなります。

【 解説 】
 開王手ができる形(バッテリー, Battery)が2つある双玉作品。初手は攻方13桂を動かすか、攻方34王を動かすかのどちらか。とりあえず攻方王を動かして開王手をしてみよう。初手24王・25王・35王・43王・44王と五通りある。初手43王と遠ざかるのは、45馬、21桂成に23玉と逃げられて詰まない。23の地点の利きを外さないように初手24王と開王手をすると、2手目45馬には3手目21桂成迄で詰むが、2手目22玉と逃げられて詰まない。従って、初手は21桂成として22の地点に逃がさないようにする。

途中図 1手目21桂成迄

2手目13歩合は3手目同香成迄なので、3手目16馬と香を取るしかないが、この瞬間に攻方王へ逆王手がかかる。次なる問題は3手目だ。攻方王への逆王手を解除しなければならないので、分かりやすく3手目同香と馬を取ってみよう。

失敗図 3手目16同香迄

4手目同飛成は5手目24王迄で駒余り、4手目13銀合には5手目23角迄と駒が余らずに詰む。これで正解かと思いきや、3手目同香に対して4手目14飛合と逆王手をする強烈な受けがある。

失敗図 4手目14飛合迄

これに5手目同香としても6手目同飛成で再び逆王手がかかって逃れている。戻って3手目では24王と逆王手をかわしながら、2回目の開王手をするのが正着。

詰め上がり図 3手目24王迄

受方16馬の利きで4手目34金合などと逆王手をする受けがありそうだ。しかし、攻方17香が受方12玉を間接的に睨んでいる。受方16馬は香のラインから外れることができない。専門用語で言うなら、受方16馬は攻方17香でピン(Pin)された状態。つまり、4手目34金合には5手目同角と取って問題なく、これは無駄合になる。従って、3手目24王迄で詰め上がりとなる。
 開王手2回にピンを活かした詰め上がり(ピンメイト, Pin-mate)。作意の逆王手に加えて、詰んでいるのか不安になる詰め上がりも面白い。しかし、本作の見所は何と言っても紛れだろう。まずは初手でどちらから開王手するかという問題があり、3手目には16同香に14飛合という強烈な逃れ筋がある。ただ、作意自体に大きな驚きがあるわけではない。紛れを読んでくれたかどうかで、本作の評価は大きく分かれるだろう。それでも、終始緊張感のある濃密な内容に仕上がっていると思う。

【 短評 】
keima82-17手が上限のところ、あえて3手で出してみました。
風みどり-keima82さんだから何か狙いがあるはずなんだけれど……もしや誤解している?
springs-22歩を取られては詰まないので21桂成が第一感。そうすると後は一直線でした。詰め上がりが狙いでしょうか?
天月春霞-2手目を移動合にするのは流石に難しいか。
カワセミ-まさか3手詰とは思いませんでした。3手目16同香に14飛の中合いに感動しました。
かいりゅーになりたい-16馬に素直に同香同飛24玉と考えてしまいそう。
金少桂-双玉ならではのトラップがある油断できない作品。14飛疑似中合の出る紛れが特に良い。大道棋的思想の作品で、普通詰将棋としてどうかは微妙かもしれないけど、大道棋教室担当としては好みの作品。というわけでようこそ大道棋の世界へ!(強制召喚)・・・実はこういう感じの作品は大道棋にもあって、双玉問題で香2枚のロケットに中合といえば森昭生氏の双玉なし⑥問題。

森昭生 作 詰パラ 1957年6月

37手詰

ののの-まず3手目同香に対しては1四飛同香同飛で逆王手で不詰という紛れが良い。そして最終手2四玉に対して一目で逆王手が出来る形で瞬間不詰と思ってしまった。そして1番いいと思ったのが、この作品は3手詰なのに考える量が7手詰と同じ量あるという事だ。つまり3四金には同角同馬とすると玉が抜かれる。この7手まで読む事で3手詰だという事が分かる。「ピンに逆王手を加える事で手数を変える事なく読む量を増やす」ここは新しい発見だった。今回の作品展の中で個人的最高作品です。
モチルダ-濃密な三手。脳が錯覚する感覚が楽しい。
上谷直希-不思議な詰め上がり。
山路大輔-これで詰んでいるとは…不思議な詰上がり。3手でここまで旨味が出せるのは凄い。
占魚亭-バッテリー解放×2(桂・香バッテリー、ロイヤル・バッテリー)&逆王手 with ピン。

② 綾瀬研 作

【 作意手順 】
35桂、同銀、54角、34玉、46桂、同香、
45角、43玉、44歩、同銀、54角、34玉、
24と、35玉、25と 迄15手。

【 作者コメント 】
 KlasincThemeです。駒井様のブログを拝見し、このようなテーマがあると知り創作してみました。初形と10手目を比較すると香が3枚の駒をあたかもすり抜けたように見え、面白いと思います。

【 解説 】
 本作の狙いは初形と10手目の局面対比である。初形の受方41香は10手目では46の地点に移動しており、他の駒配置は一切変わっていないように見える。

途中図 10手目44同銀迄
初形図

受方41香が46の地点まで直接移動するには、初形の受方43玉・受方44銀・攻方45角を三枚とも一旦退かして、香が通過した後に元の位置に戻すという手間が必要になる。そんな離れ業がなぜ成立しているのだろうか。
 本作の原点となっているKlasinc Themeから説明しよう。Klasinc Themeとは「駒Aが目的地点まで移動する際、それを邪魔する駒Bを一旦退かし、駒Aが通過した後に退かした駒Bを元の地点に戻す」という一連の手順を指す[1]。元々はチェス・プロブレムのテーマだ。このとき、通過する駒Aは線駒(チェスならQ・R・B、将棋なら飛・角・香)が基本であるが[2]、広義には線駒でなくともよい[1]。
 本作に話を戻そう。「受方41香を46まで移動させるのに、邪魔になっている受方43玉・受方44銀・攻方45角の三枚を一旦退かし、受方香が通過した後に、退かした三枚を元の地点に戻す」という手順構成になっている。これはKlasinc Themeそのものなのだ。但し、香の通過を邪魔する駒は一枚なのがこのテーマの基本形だが、本作では一気に三枚まで拡張している。本作はKlasinc Themeの基本形を単純に詰将棋で再現したわけではなく、高度に発展させた形で実現している。
 本作の面白さが分かったところで、成立原理について解説していく。まずは、受方41香を46の地点まで移動させる目的だ。それは初手から54角、34玉、24と、35玉と作意と同様に進めていくと判明する。次に25ととすると、46玉と上部へ逃げることができる。

失敗図 5手目25と迄

54角から攻めていく前に、46の地点を予め封鎖しておく必要があるわけだ。これが受方41香を46の地点まで移動させる目的。
 次に、受方43玉・受方44銀・攻方45角の三枚を退かす手順を見ていこう。初手54角とすれば2手目34玉とするしかないので、受方玉・攻方角については簡単に退かすことができる。問題は受方銀だ。初手から54角、34玉と進めてから3手目35歩とすると、4手同銀なら作意に合流する。しかし、4手目同玉で詰まない。受方銀をどのタイミングで退かすかというと初手しかなく、初手は35桂が正着。

途中図 1手目35桂迄

2手目同銀の一手に3手目54角、4手目34玉と進めれば、受方41香が46の地点まで移動するための道ができた。

途中図 4手目34玉迄

 満を持して5手目46桂を実行して6手目同香と応じてくれれば成功する。ここで問題なのが、6手目同銀の対応だ。よく見てみると46の地点が封鎖されているので、7手目24と以下作意と同様に進めて早く詰む。6手目同香が作意で、これで受方41香を46の地点まで移動させることができた。

途中図 6手目46同香迄

 ここで気になるのが、6手目同香迄の局面で7手目24とを実行したらどうなるか。これは8手目同銀と応じられて詰まない。受方銀が24の地点に利いているのが問題だ。この銀は例えば44の地点に戻ってくれればよい。6手目同香迄の局面で44X、同銀のような手順はできないので、受方銀の利きを逸らすのに少し工夫する必要がある。それが7手目45角で、角を元の地点に戻す。これに対しては8手目43玉と、玉も元の地点に戻すしかない。これで持駒の歩を活かすことができる形になった。9手目44歩に10手目同銀とすれば、銀も元の地点に戻って、24の地点に銀の利きが無くなった。

途中図 10手目44同銀迄

結果的に、初形から受方41香が46の地点に移動しただけの局面が出来上がる。「移動しただけ」と言っても、初形の受方41香は直接46の地点に移動はできない。初形と10手目の局面だけを先に見れば、一体何が起きたのか不思議に思うことだろう。10手の間で色々と駒が動いたが、結果として残ったのが、初形から受方41香が46の地点に動くという僅かな違いだけ。手順を知った後でも、不思議なことに変わりはない。さて、これで11手目54角を実行して、最後は25と迄で詰め上がりだ。46の地点は受方香で封鎖されているので、今度は逃げられる心配がない。

詰め上がり図 15手目25と迄

 言いたいことは既に述べたが、本作の面白さを改めて強調しておこう。それは初形と10手目の局面対比であり、受方香が三枚の駒をすり抜けたように見えるところだ。狙いの元になっているのはKlasinc Themeだが、それを発展的な形で実現しており、独創性は非常に高い。ただ、狙いを終えた11手目以降は玉を単純に追っていく手順でいまいちパッとしない。しかし、これだけ高度で充実した内容が盛り込まれているのだから、十分すぎるほどお釣りがくるだろう。何よりも驚きなのが、これほどの高度な狙いが簡単そうな機構で実現されているところである。作者の高い構想力が垣間見える作品だ。

[1] Helpmate Analyzer, Glossary of helpmate themes and terms, Klasinc Theme, https://helpman.komtera.lt/definition/Klasinc_theme
[2] M. Velimirovic and K. Valtonen: "Encyclopedia Of Chess Problems -Themes And Terms-" (2012)

【 短評 】
山路大輔-香車のワープ。軽快な構成手順が狙いをより際立たせている。
占魚亭-10手かけて受方香を46地点にワープさせる。流石ですねぇ~。
springs-香が3枚を飛び越えた!余分な装飾がないのでテーマが引き立っていると思います。
上谷直希-香車のワープ。4筋の3枚の配置が復元されるので、狙いがより際立つ。
カワセミ-香を移動させるだけでも難しそうなのにその後一旦香を除いて元の配置に戻す、そんなことできるんですね。個人的には一番好きな詰将棋でした。
keima82-攻方の角と玉方の銀の両方がスイッチバック。35の地点を埋めたいから銀をおびき出す→今度は24の地点に効いて邪魔だから元に戻ってもらう、というストーリーが組み立てられて楽しいです。
かいりゅーになりたい-ちょっとずつ変わっていく形ごとに意味があるのに感動しました。
モチルダ-香の移動だが、よく見ると間に3枚も。45角〜44歩〜54角の感触がこそばゆかった。
金少桂-46の退路封鎖が課題だが、初形から10手で41の香車が3枚飛び越えて46に!これが最近流行り始めたKlasinc Themeかな。
風みどり-手は限られているの結構悩んだ。と金を25まで引くことは考えていなかった所為。
天月春霞-この世に魔法は存在します!
★ 奇跡も、魔法も、あるんだよ。

③ ルパンdazo 作

【 作意手順 】
13飛、21玉、22歩、同玉、33飛上成、同銀、
31角成、同玉、33飛成、32銀、42銀、21玉、
23香、同銀、同龍、11玉、12銀 迄17手。

【 作者コメント 】
 初手12歩は22玉とされ失敗します。12飛は32の駒が金なら詰みますが銀なので足りません。3手目32飛成は同銀でわずかに足りません。13飛から33飛成さえ発見できれば解決します。

【 解説 】
 比較的コンパクトな初形。浮いている攻方21銀を起点に攻めていけそうだ。初手33角成は2手目22合なら3手目12飛、21玉、22飛成迄だが、単純に2手目同銀で詰まない。他にも難しい紛れはあるが、初手は13飛の限定打。

途中図 1手目13飛迄

打ち場所が13の地点でなければならない理由は後に判明する。2手目12合は同飛成迄、2手目22玉は12銀成迄と早く詰むので、2手目は21玉が最善。3手目22歩から4手目同玉と、今打ったばかりの飛車に玉を近付ける。ここで5手目33飛上成と銀頭に豪快にぶつける。

途中図 5手目33飛上成迄

取れる銀をあえて取らないわけだ。代えて5手目32飛成と銀を取るのは、6手目同玉には33角成、21玉、11飛成迄、6手目13玉には31角成、14玉、12龍迄だが、6手目同銀や同香で詰まない。作意の5手目33飛上成に6手目21玉とかわす手には、23飛成、同銀、31角成、12玉、22龍迄で早く詰む。6手目は同銀が最善。続いて7手目31角成と攻方13飛に紐付けながら香を取る。

途中図 7手目31角成迄

7手目は代えて33同角成や33同飛成と銀を取りたくなるが、いずれも8手目同香とされて詰まない。作意の7手目31角成に対しては8手目同玉とするしかないが、玉を広い方に逃がしているようで不安になる。42の地点から脱出されたら流石に詰まないので、9手目は33飛成と銀を取りながら上から抑える。この手を実行するために、初手の飛車打は13の地点に限定される。

途中図 9手目33飛成迄

10手目32歩合は22銀迄、10手目21玉は23香、12玉、22香成迄。10手目は32銀と移動合をするのが最善で、玉の逃げ道を空けて延命できる。11手目22銀とすると12手目41玉と空いた空間に逃げられて詰まない。11手目は42銀と逆から抑えるしかない。12手目21玉に13手目22香と近付けて打つと、14手目11玉や12玉で有効な王手が無くなってしまう。13手目は23香と離して打つ。

途中図 13手目23香迄

14手目11玉や12玉は22香成迄で早く詰むので、14手目は同銀と応じることになる。15手目同龍と再度銀を補充すれば、16手目22合には12銀迄、16手目11玉にも12銀(あるいは22銀)迄で詰め上がり。

詰め上がり図 17手目12銀迄

 限定打の飛車が終始活躍する構成で、手順に一貫性がある。手順に駒を取ることでよく手が繋がっているが、駒取りの取り方は少し気になる。銀取りについては一度動かしてから取っているので、比較的気にならない。しかし、香取りについては盤面に最初から配置されている駒を取っているので、やや強引な印象を受ける。ただ、手順全体を見渡せば、盤面の飛角が捌ける気持ち良さが勝るだろう。特に5手目33飛上成と取れる銀を取らずに動かし、もう一方の飛車で後に取るという展開は面白い。

【 短評 】
モチルダ-一発叩いてダイビング。気持ちいい手筋物。
springs-初手から33飛成がハイライト。
山路大輔-初手限定打に続く33飛成が盲点でした。
かいりゅーになりたい-33飛車成から31角成と連続で大駒を捌いていくのは爽快でした。
上谷直希-13飛を守るように大駒を捨てていく。
金少桂-33飛上成の力業が見えにくく、筋に入りづらい。一間龍に持ち込めば簡単だが、そこにたどり着くまでが大変だった。
風みどり-一間龍はなぜか安心感がある。もうちょっと粘るのかと思った。
keima82-5手目あたりまでは中々の順ですが、駒をボロっと取っての収束は少々残念に見えます。収束に何か好手が欲しいところです。
占魚亭-初手に打った飛車の活用を目指す。平易な清算手順。
天月春霞-初手を13飛不成にしたいけど、限定打も悪くないか。

④ 鷺宮ローラン 作

【 作意手順 】
34銀、24玉、16桂、34玉、46桂、44玉、
35銀、43玉、34銀、32玉、43銀打、22玉、
23銀成、同玉、35桂、22玉、34桂 迄17手。

【 作者コメント 】
 玉の大回転を楽しんで頂く作品です。収束は打った進めた銀の邪魔駒消去で2枚桂による吊るし詰となり、気分も悪くありません。これだけ配置があって稼働するのは玉・銀・桂の3枚のみ。玉方に至っては玉しか動いていません。この不動を味と思っていただければ幸いですが如何でしょうか。

【 解説 】
 玉は22・24・32と上下に逃げ道があって、すぐには捕まらなさそうだ。仮に後手の手番だとすると、これらの三箇所に逃げられると詰まなくなってしまう。初手35桂は2手目22玉には23銀迄、2手目32玉には43銀、22玉、23銀迄を用意していて有力そうだ。しかし、2手目24玉と上部に逃げられる手に対応できていない。初手34銀打も2手目22玉には23銀打迄、2手目32玉には44桂、41玉、51歩成、42玉、43銀打迄だが、やはり2手目24玉と上がられて詰まない。初手は34銀と攻方55飛の利きを通しながら銀を捨てる。

途中図 1手目34銀迄

2手目22玉には23銀打迄、2手目32玉には43銀打、22玉、23銀打迄。問題は2手目24玉の対応で、更なる問題として2手目同玉とする手も生じている。飛車の利きを通して好調そうだが、本当にこれが正解なのだろうか。2手目同玉と自然に対応した場合を見ていこう。

変化図 2手目34同玉迄

攻方55飛の利きで玉が上部に脱出できないので、何とかなりそうな雰囲気はある。とは言え、23・24・43・44と逃げ道はまだまだ豊富だ。3手目25銀とすると、4手目23玉には35桂、32玉、43銀、22玉、34桂迄、4手目43玉には35桂打、32玉、43銀、22玉、34桂迄、4手目44玉は56桂、43玉、35桂、32玉、43銀、22玉、34桂迄。玉が逃げる手に上手く対応できているが、3手目25銀には単純に4手目同香や同桂で詰まない。3手目は46桂とするのが正着。

変化図 3手目46桂迄

確かにこれなら取られる心配はないが、玉を逃げる手には上手く対応できているのだろうか。4手目23玉は34銀、32玉、44桂、41玉、51歩成、42玉、43銀打迄、4手目24玉は16桂、23玉、35桂、32玉、43銀、22玉、34桂迄、4手目43玉は34銀、32玉、44桂、41玉、51歩成、42玉、43銀打迄、4手目44玉は56桂、43玉、35桂、32玉、43銀、22玉、34桂迄。分岐は多いが、どうやら捕まっていそうだ。ここまで検討して、ようやく初手34銀に2手目同玉は詰むと分かった。
 戻って初手34銀に2手目24玉とかわす手を見ていこう。

途中図 2手目24玉迄

盤上に攻方銀が残っているので、一見するとこちらの方が早く詰みそうに思える。しかし、実際に読んでみると、簡単には捕まらないことが分かる。3手目は16桂で、これには4手目34玉と銀を取ってかわすしかない。

途中図 4手目34玉迄

不思議なことに、一度よろけて16桂を打たせてから34玉と逃げる方が延命できる。その理由は後に説明しよう。5手目は46桂だが、6手目は23玉・43玉・44玉の三通りの逃げ方あって、ここまで散々読まされてまだ読まされる。ただ、ここまで見てきた変化手順と似たところが多いので、それほど苦労しない。6手目23玉は35桂、32玉、43銀、22玉、34桂迄、6手目43玉は34銀、32玉、43銀打、22玉、23銀成、同玉、35桂、22玉、34桂迄。最善は6手目44玉で35銀、43玉、34銀と進む。

途中図 6手目44玉迄

実は6手目44玉の局面では、持駒に桂があれば7手目56桂以下早く詰む。しかし、作意では3手目16桂と持駒の桂を使わされてしまっている。2手目34同玉の変化と比べてみればよく分かるだろう。これが2手目で24玉と一度よろけた理由だ。ここまで進めばもう作意手順は分かっただろうが、一応確認していこう。9手目34銀に対して10手目44玉は35銀迄、10手目42玉は43銀打、41玉、51歩成迄。

途中図 9手目34銀迄

最善は10手目32玉で43銀打、22玉、23銀成、同玉と進む。

途中図 14手目23同玉

初形で玉は23の地点にいたのだが、驚くべきことに受方33桂の周りを一周して元の地点に戻ってきた。初形との違いは攻方45銀が消え、攻方16桂・43銀・46桂が設置されている。

初形図

持駒は4枚もあったが、銀と桂では利きのない箇所にするすると逃げられるために、準備が整うのに14手もかかってしまったわけだ。15手目35桂~17手目34桂と二枚跳ねてビシッと決まった。

詰め上がり図 17手目34桂迄

 7手目35銀~9手目34銀~13手目23銀成と打った銀を活用して最後に捨てていて、5手目46桂~17手目34桂と打った桂を跳ねて詰ましている。打った駒が見事に活用されている。3手目~12手目の玉を追っていく展開はやや中弛み感はあるが、13手目以降の爽快なフィニッシュのための準備だと思えば、そこまで悪くは感じないだろう。14手かけて玉が元の地点に戻ってくるのは意外性があるし、桂馬を使わせるために2手目24玉と一度よろける手も面白い。不思議な魅力を感じる作品だ。

【 短評 】
天月春霞-出た!ローランさんの宇宙流詰将棋。ことごとく読みを外される。
かいりゅーになりたい-解説配信を何度も見ましたが、未だに理解できてません。難しい。
モチルダ-玉の逃げ方が悩ましかった。打った桂を跳ねていくのが快感。
keima82-主な攻め駒が銀桂でスルスル行かれそうなため、独特の解きにくさがありました。2度目の▲34銀から1手溜めてその銀を捨てる順は良いですね。配置に関してですが、▲45銀は最初から持ち駒でも良さそうで、△11香はおそらく不要かと思いました。
★ 受方11香は不要のようです。全く気付きませんでした。
山路大輔-初手の銀捨てが味のある導入。打った銀を捨て、打った桂を再活用する展開が上手い。
金少桂-銀が脇役で桂が主役。主役の桂がどんどん跳ねていく展開は楽しい。収束の銀成捨てが入って引き締まった。
springs-33桂の周りを玉がほぼ一周。打った35銀と46桂を活用する収束が素晴らしいと思います。
上谷直希-桂跳ねが気持ちいい。もう少し捌きたい気もするがこれは作者も同じ気持ちだったのでしょう。
占魚亭-玉捌きに主眼を置いた作品かな? 手の流れは悪くないけど、詰上りが重い気がする。
風みどり-55飛が残ってしまうのはなんとかしたいところ。

⑤ 電子れいず 作

【 作意手順 】
26銀、同桂、14金、同玉、13桂成、同桂、
25角、同桂、17飛、同桂成、25金、13玉、
22銀不成、同玉、32龍、13玉、12桂成 迄17手。

【 作者コメント 】
 桂馬がいっぱい動きます。

【 解説 】
 盤上には攻方駒がたくさんあるが、よく見てみると詰みを邪魔している駒がたくさんある。攻方16角がいなければ、17飛、16歩、同飛、同玉、36龍、17玉、27金、18玉、38龍、19玉、28龍迄。攻方24桂がいなければ、24銀打、同歩、同銀不成、16玉、15金、26玉、35龍迄。攻方25桂がいなければ25龍迄。いずれも作意より早く詰み、一番邪魔なのは攻方25桂だ。とは言え、これらの駒は簡単には消去できそうにない。初手は26の地点に金か銀を打つ以外に王手のかけようにない。初手26金は2手目同玉なら35龍、16玉、17飛、同玉、37龍以下詰む。しかし、2手目同桂と応じられると、王手をかかる手がなくなってしまう。初手は26銀として持駒の金を残しておく。

途中図 1手目26銀迄

2手目同玉は35龍以下、2手目16玉は17銀、15玉、16金迄。2手目26同桂が最善で、3手目は14金と打つしか王手をかける手段がない。

途中図 3手目14金迄

4手目同玉が自然だが、4手目16玉も手強そうだ。4手目16玉は17飛、同玉、37龍、27香合、28金、16玉、27金、25玉、26金、14玉、17龍迄と、手数はかかるが作意よりも早く詰む。3手目14金に4手目同玉と応じるのが最善。5手目は12桂成あるいは32桂成と開王手をしたくなるが、これは失敗。5手目12桂成に6手目24合なら手数は長くなるものの詰むが、6手目15玉とかわして逃れている。5手目は13桂成が作意で、邪魔だった桂がようやく捌けた。

途中図 5手目13桂成迄

6手目15玉には25龍迄、6手目同玉には22銀不成、同玉、32龍、13玉、12龍、24玉、34飛迄。6手目は同桂が最善だが、25の地点に利きができてしまったので厄介そうに見える。7手目12桂成は8手目15玉でやはりダメ。可能な王手は他にもあるが、有効そうな手は7手目25角しかない。

途中図 7手目25角迄

8手目15玉は17飛迄なので、8手目同桂と応じる。9手目12桂成と今度こそ開王手を決行しても、15玉、17飛、同桂成(あるいは同桂不成)で詰まない。9手目は17飛と金を取るのが正着。

途中図 9手目17飛迄

攻方飛が受方桂に取られる展開なので、先に示した逃れ順とあまり変わらないように見える。しかし、玉の位置の微妙な違いが明暗を分ける。10手目15合には12桂成~13金迄。10手目は同桂成(あるいは同桂不成)が最善。なんと受方21桂が三連続で跳ねて17の地点まで来てしまった。11手目25金に13玉、22銀不成、同玉、32龍と進む。16手目11玉・13玉のどちらにも17手目12桂成(あるいは12龍)迄で詰め上がり。

詰め上がり図 17手目12桂成迄

 桂馬がよく跳ねる作品で、特に受方21桂が三連続で跳ねるところは気持ちが良い。桂跳ね三連続の起点となったのが5手目13桂成で、攻方25桂は事あるごとに25龍や25角と龍角が連結するを妨げる邪魔な駒であった。玉を14の地点まで引っ張り込んで、ようやくこの攻方25桂が消去できたところで、今度は受方21桂が守備に大活躍する展開を許してしまっている。この攻防はとても見応えがある。桂以外の盤上の駒もよく捌けて、終始爽快な印象を与えている。

【 短評 】
占魚亭-桂捌きが心地よい、筋のいい作品。
天月春霞-桂馬がびよ~んびよ~んって感じでかわいい!
風みどり-桂馬の三段跳び。狭い所でよくぞ。
かいりゅーになりたい-相手の桂馬が活躍するとは思いませんでした。捨て駒たくさんとてもできれいです。
山路大輔-お互いの桂馬が跳ねまくる楽しい作品。21桂が3段跳するのが予想外でした。
上谷直希-すべての桂が跳ねるとは予想外だった。
springs-双方、桂がいっぱい跳ねる。24桂を跳ねたくてうずうずしました。
モチルダ-21桂の三段跳ねを主眼に、桂馬がぴょんぴょん。変化もしっかり作られてると感じた。
金少桂-こちらも桂が主役。攻防の桂が大活躍。21の桂の3連跳ねが圧巻。玉が上部に脱出する2手目同玉、4手目16玉の変化も手順に厚みを与えていて良い。
keima82-6手目から10手目の同一桂の3連跳躍が見どころ。実現するのは大変だったと思います。2手目と6手目の変化が難しかったです。桂の成生は限定したかったとは思いますが、中々難しそうですね。

⑥ 武田裕貴 作

【 作意手順 】
36馬、56玉、57歩、同玉、46角、同桂、
54龍、55角合、同龍、同飛、93角、75歩合、
同角成、同飛、58歩、同桂成、46馬 迄17手。

【 作者コメント 】
 攻方84竜を持駒歩1枚に変える手順が狙いです。盤上の竜より持駒の歩の方が価値が高いという不思議。そこに面白さを感じていただけたら。

【 解説 】
 初形では攻方55角に紐が付いていないので、初手46銀はやってみたくなる。2手目34玉なら54龍迄、2手目同桂なら44龍、56玉、46龍迄だが、2手目56玉とされて詰まない。初手23馬は2手目55玉と角を取ってくれれば75龍、44玉、45龍、53玉、43飛、52玉、54龍迄だが、2手目34玉とされると46角、44玉以下逃れている。初手は36馬とするのが正着。

途中図 1手目36馬迄

2手目55玉は54龍迄。2手目34玉は54龍、23玉、43龍、12玉、32龍、13玉、22龍迄。2手目は56玉と角を取らずに上部にかわすのが最善。この局面で仮に攻方55角がいなければ54龍、55合、46馬迄。この角が邪魔な存在であることに気付けるだろうか。そこで、3手目57歩~5手目46角として角を退かす。

途中図 5手目46角迄

角を退かすのが目的なら、5手目は代えて66角でも良さそうに見える。しかし、6手目同桂と応じられて、54龍、55歩合、同龍、同飛、58歩、56玉、46馬に65玉と逃げられてしまう。攻方69香の利きが受方桂で遮られてしまうのが問題で、5手目は46角と反対に動かすしかないのだ。6手目56玉は作意よりも早く詰むが、攻方角が邪魔になって54龍、55合に46馬とする手が消えていて少し悩ましい。7手目54龍に対して8手目55歩合なら45龍迄と別の詰ませ方があって問題ないとすぐに分かるが、8手目55金合はどうだろうか。実は9手目同龍として同飛、57金迄で詰むので、これも問題ない。5手目46角には6手目同桂と応じるのが最善だ。

途中図 6手目46同桂迄

この局面で攻方の持駒に歩など前に利く駒を持っていれば、58歩、同桂成、46馬迄のように詰む。しかし、歩は先程使ってしまった。とにかく攻方は持駒が欲しい局面。7手目54龍と合駒を伺うことになる。お望み通り8手目55歩合なら同龍、同飛、58歩以下。気になるのは角や桂のように頭が丸い駒だ。ただ、8手目55桂合は同龍、同飛、49桂以下簡単に詰む。8手目は55角合とするのが最も手数が長い。

途中図 8手目55角合

この角合は受方に角を渡してしまったことで生じているが、攻方にとってこの角は邪魔な存在であった。何とも不思議な攻防だ。攻方は9手目同龍として持駒を補充しにいくしかない。これに対して10手目56合なら66角なので、10手目は同飛とする。

途中図 10手目55同飛迄

これで捨てたはずの角が持駒として戻ってきた。依然として攻方は角以外の持駒が欲しい局面。ここで持駒の角を打ったとき、受方は角以外の駒を合駒してくれるだろうか。よく見てみると、受方は攻方に角を渡してしまったために、角が再び品切れになって角合ができない。あとは簡単…と言いたいところだが、どこから角を打つかに注意が必要。11手目84角とすると、66歩合、同角、56玉、46馬に65玉とされて詰まない。攻方角が攻方69香の利きを遮っていて、受方玉に逃げ道を与えてしまう。そこで11手目は93角と最も遠くから打って、後で角を成れるようにする。これで12手目66合には同角成迄で詰む。12手目は受方55飛の利きを活かして、75の地点に何か合駒をすることになる。先程も述べたように角は品切れで合駒ができないので、それ以外を合駒することになる。12手目75歩合が作意で同角成、同飛と進む。5手目で一度角を捨てているが、結局角を捨てることになった。

途中図 14手目75同飛迄

ここで6手目の局面と見比べてほしい。

途中図 6手目46同桂迄

攻方84龍が消えた代わりに攻方の持駒に歩が追加されている。この局面対比が作者の一番の狙い。待望の歩を入手できたところで、15手目58歩として同桂成、46馬迄で詰め上がり。

詰め上がり図 17手目46馬迄

ここで、12手目に歩以外の合駒をする変化が割り切れているのか気になるだろう。

途中図 11手目93角迄

12手目75飛打合は同角成、同飛、67飛以下、12手目75金合は同角成、同飛、67金迄、12手目75銀合は同角成、同飛、66銀以下、12手目75桂合は同角成、同飛、49桂以下、12手目75香合は同角成、同飛、59香以下。見事に割り切れている。
 本作の見所は、盤上の龍を犠牲に持駒の歩を入手しにいくところだろう。その過程は単純ではなく、盤上の龍を犠牲に角を入手する過程が途中に挟まる。これは受方に角を渡したことで生じている。ただ、受方は角が再び品切れになってしまう。これによって角の最遠打で合駒を伺えば、角以外の駒が入手できるという仕組み。龍→角→歩と駒が変換されていくロジックが実に緻密だ。龍や角は一般的に価値が高い駒だが、この作品においては盤上の龍よりも持駒の歩の方が価値が高いという状況になっている。更に、初形では持駒に歩を持っているのが見逃せない。歩を早々に使ってしまうことになるが、それを何としてでも取り戻しに行くというストーリーとなっている。手順全体で見れば、「持駒歩の復活」がテーマとも解釈できる。そして、この濃密な内容が、盤面10枚・持駒1枚とそれほど多くない駒数で実現されているのも強調しておきたい。誰が見ても素晴らしい作品であることは間違いないだろう。

【 短評 】
かいりゅーになりたい-たくさんのことが詰め込まれていて非常に濃ゆい。
springs-最後の合駒のやり取りがメインパートだとは思いますが、個人的には初手が指しにくかったです(34に逃がしたくない & 46銀がそれっぽい)。
天月春霞-初手46銀ではなく36馬なのは意外。捨てた角がすぐ合駒で出てくる流れが良い。
風みどり-解いた後、なぜ66角だと駄目なのか確認した。いつもながら少ない駒でよく練られている。
山路大輔-角合→角最遠打という手間をかけて1歩入手するストーリーが面白い。将棋世界年間選考で話題に出た作品もそうだが、手順展開・構図が上手い。これからの作品にも期待。
金少桂-収束の1歩入手のためにどんどん駒交換。角はなんとなく成れる93から打ってしまうが、なんとこれが限定。84から打つと66歩捨合で逃れなのが巧くできている。
占魚亭-最遠打(11手目)辺りからの逆算と推察。中盤の展開がいいですね。
モチルダ-手の繋ぎ方がきれい。スイッチバックとフェニックスがテーマ?角の打ち場所と合駒が限定なのも見事。
keima82-7手目からの合駒をめぐる応酬が楽しいです。「角があと1枚あれば…」という玉方の悲鳴が聞こえてきそうです。細かいながらも感心したポイントは、12手目の歩合が完全限定になっていること。こういったところでは香合や飛合等が割り切れず希望限定になりがちなのですが、本作はキッチリ同手数駒余りで割り切れています。
上谷直希-すでに作者名で解きたくなる域に入っている。
★ 専門誌でも活躍し始めている作者。既に注目の作家になっていますね。

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