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詰将棋フェスティバル 複数解・ツイン・変同解部門 解答発表(前半)

バーチャル詰将棋作家の駒井めいです。

「詰将棋フェスティバル」と題した詰将棋作品展を開催しています。
下記の3つの部門に分けて行い、全19作が2022年2月12日に出題されました。

(1) ビギナー部門
(2) オンライン作家部門
(3) 複数解・ツイン・変同解部門

既にビギナー部門とオンライン作家部門の解答発表が完了しています。

今回は複数解・ツイン・変同解部門の解答発表です。
二回に分けて行い、今回が前半です。
後半に関しましては、下記のスケジュールで行います。

2022年
4月16日:(3) 複数解・ツイン・変同解部門 解答発表(後半)

また、多くの方から短評をいただきました。
心よりお礼申し上げます。

複数解・ツイン・変同解部門 解答発表(前半)

複数の作意手順から構成される作品を出題する部門です。
この部門ではフェアリー詰将棋(変則ルールの詰将棋)も出題されます。

① 藤原俊雅 作

■ 協力詰
先後協力して最短手数で受方の玉を詰める。ばか詰とも呼ばれる。
■ 受先
受方から指し始める。

【 作意手順 】
a) 65飛、64桂、66玉、76金 迄4手。
b) 45馬、54桂、56玉、57金 迄4手。

【 作者コメント 】
 Fadil AbdurahmanovicのH#2(Mat 2nd Prize 1980)からアイデアを得て作図。Line pieceを取りつつ攻方王にcheckもかけてしまう初手が狙いで、それによって2手目の桂の移動先が限定される。また(初手の意味付けを考えれば必然とは言え)、Battery destructionにもなっている。
 もっと派手な展開したかったという悔いも残るが、将棋の駒では難しかった。受先にありがちな玉方持駒無しの条件を付けずに済んだ点は良かったと思う。

【 解説 】
 これは協力詰というルールなので、受方は自らが詰むように協力する。普通の詰将棋では、受方は自らが詰まないように抵抗する。攻方が王手をしたときの受方の対応が普通の詰将棋と異なる。4手という偶数手数に戸惑うと思うが、これは受方から指し始めるという意味。初形で受方玉に王手がかかっていなければ、受方は初手でかなり自由に指せることになる。例えば、初手81飛と盤上の受方駒を動かすのも、初手98歩と受方持駒を使って盤上に駒を打つのも、どちらも合法手だ。
 まずはa図(出題図)から解いていこう。

a 初形図

受方の手番だが、攻方の手番だと仮定して何か王手を試してみることで、詰手順を探っていこう。例えば、攻方66桂や56桂を跳ねて開王手をするのは魅力的に見える。3手では詰まなそうだが、5手なら詰みそうだ。
・54桂、58玉、68飛、47玉、48金迄
・64桂、77玉、75飛、66玉、76金迄
など詰手順は色々考えられる。実際には4手で詰まさなければならないので、読んだ詰手順を基に、受方が初手で玉の逃げ道を狭めるような手を指して、残り3手で詰ませられないか考えてみたい。しかし、この発想では正解に辿り着けない。受方玉は上部への逃げ道が結構あるので、いくら受方が協力してくれると言っても、4手で捕らえるのは難しい。受方玉が詰みやすい地点に逃げてくれればいいが、そのような地点はあるのだろうか。なかなか見えにくいが、実は出題図から攻方65飛を除去して先手番だと仮定すると、64桂(あるいは44桂)、66玉、76金迄で詰む。

a 仮想初形図 出題図から攻方65飛除去
a 仮想詰め上がり図 3手目76金迄

攻方65飛が詰みを妨げているわけだ。
 もう作意は分かっただろう。出題図に戻って、初手は65飛と攻方飛を取る。

a 途中図 1手目65飛迄

攻方王へ王手がかかるので、見えても選びにくい手だ。これは協力詰なので、特にやりにくい。受方は自らが詰むように協力するルールなので、攻方王に王手をかけるような手は、詰まないように抵抗しているようにしか見えない。しかも、攻方65飛・66桂は開王手ができる形(Battery, バッテリー)。それを壊してしまうのは、攻方の戦力を削いでいるようにも見える。受方が協力しているようには到底思えないが、受方玉が66の地点に逃げられるようにするにはこれしかない。さて、2手目はどうすればよいだろう。出題図から攻方65飛を除去して先手番だと仮定したときの詰手順は、64桂/44桂、66玉、76金迄であった。攻方王への王手を防がなければならない局面なので、2手目は64桂に決まる。

a 途中図 2手目64桂迄

3手目66玉に4手目76金迄で詰め上がり。

a 詰め上がり図 4手目76金迄

 次にb図を見ていこう。出題図に書かれた「b)77歩→桂」はツイン(Twin)と呼ばれる問題設定。この場合は「攻方77歩を桂に置き換えて、協力詰4手を解け」という意味になる。

b 初形図 a図の攻方77歩を桂に変更

a図では4手目76金迄で詰ませていたが、桂に変わって76の地点に利きが無くなったので、同じ手順で詰まないことは明らか。そもそもツインとは何が目的の問題設定なのだろうか。本作では配置が僅かに異なる2種類の図を解くことになる。それぞれが無関係な作意であれば、解く手間が増えるだけで、作品として何も面白くない。むしろツインで表現したことがマイナスの評価になるだろう。わざわざ特殊な問題設定を使うからには、それに見合った表現が求められる。ツインでは複数の作意の間に、何かしらの関連性を持たせることが基本となる。これによって複数の作意が単なる足し算ではなく、掛け算となって表現に深みをもたらす。もしこの作品がセンス良く作られているなら、a図と同様の狙いがb図では異なる手順で表現されていると期待される。随分とハードルを上げたが、本作はまさに期待通りの表現になっている。
 a図では攻方65飛を取ることで66玉を可能にするという手順であった。やはりb図で期待したいのは、攻方45馬を取って56玉を可能にする手順だろう。初手45馬と攻方王に王手をしてみよう。

b 途中図 1手目45馬迄

a図の作意に倣って、2手目54桂と攻方への王手を防ぎながら受方玉に対して開王手をする。3手目56玉と逃げて、4手目57金迄で詰め上がり。a図の攻方77歩をb図で桂に置き換えたのは、攻方65飛に紐を付けている意味もある。

b 詰め上がり図 4手目57金迄

 攻方には飛桂・馬桂のバッテリーがあり、一方のバッテリーを破壊して玉の逃げ道を作り、残ったもう一方で開王手をするという構成。2つのバッテリーの役割がa図とb図で入れ替わっていて、見事な対比が実現されている。そして、バッテリーを破壊するためには、攻方王に王手をかけなければならず、一見すると協力しているようには見えないという面白さがある。
 本解説では詳しく触れないが、作者コメントで言及されているFadil Abdurahmanović作を参考として示しておこう。

Fadil Abdurahmanović
2nd Prize, Mat, 1980

H#2 2 solutions

Solutions:
1) 1. Qxc8+ Rd8+ 2. Kxc4 Qd4#
2) 1. Qxh8+ Bg8+ 2. Kxd4 Rc4#

【 短評 】
風みどり-きれいなツイン。人を惑わそうといった邪念が見事にない。
天月春霞-歩と桂の違いだけでうまく対比が実現されている気がする。
上谷直希-玉配置がキー。配置もツインの構成も洗練されている。
springs-Batteryの破壊。この駒数の少なさで2解を制御できるのは驚き。
占魚亭-バッテリー破壊。取る駒と取られる駒・跳ねる桂の違いが明快で、上手く作られていますね。
金少桂-2つのバッテリーの用途が入れ替わる綺麗な対比。協力詰なのに玉方が受先の初手で王手をかけてくる一見非協力的な感じもユーモラス。
たくぼん-複数解やツインは対比性が見所だと思うので手順はさすがに面白く感じました。b)では初形85飛が無い図でも成立しますが、a)で初形27馬が無い図では作意の他に68玉、46馬、67玉、68金 迄の解があり27馬は必要。その点はほんのちょっと惜しいかも。またa)は4手全て6筋。b)は4→5→6→7なんていうのも面白く感じました。

② 占魚亭 作

■ 協力自玉詰
先後協力して最短手数で攻方の王を詰める。ばか自殺詰とも呼ばれる。
■ n 解
解が複数あり、指定された n 個の解を求める出題形式。
■ Orphan(谺)
フェアリーチェスの Orphan。本来は利きを持たないが、敵駒に取りを掛けられると、その駒の利きを持つ。
[ 補足 ]
・複数の駒から取りを掛けられると、それらを合成した利きになる。
・敵 Orphan から利きを写すこともできる。利きの転写は再帰的で、利きが増えた結果、更に多くの Orphan を巻き込み、相互に利きを増幅させることも可能。
・中立駒は中立駒を取れるので、中立谺はそれに取りを掛けている中立駒の利きを持つことが可能。更に現手番側の駒でも取れるので、味方の駒で取れる場合は、その利きを持つことも可能。

【 作意手順 】
1) 13龍、26玉、22龍、23角、28谺、49飛成 迄6手。
2) 36龍、17玉、35谺、28玉、46谺、57金 迄6手。

【 作者コメント 】
 狙いを実現するのに無理があることが確定したため眠っていたツインの素材を2解用に仕立て直しました。なんとかOrphanの使い方の対照(飛と角)が入り、それなりに形にはなった……かな?

【 解説 】
 協力自玉詰とは協力+自玉詰のこと。2つのルールが合わさっている。協力ルールは先程登場した。自玉詰では、詰める対象が受方玉ではなく攻方王になる。攻方は受方玉に王手をかけながら、最終的に攻方王を詰ますことになる。慣れないうちはなかなか感覚が掴めないだろう。加えて、「谺」という見慣れない文字が攻方の持駒に書かれている。フェアリー駒と呼ばれる変則的な駒で、Orphanと呼ばれる。本来は利きを持たないが、敵駒に取りを掛けられると、その駒の利きを持つという性質を持っている。また、2解と書かれているのは、正解手順が2つあるという意味。これは複数解と呼ばれる特殊な出題形式である。協力系のルールでは唯一解が基本なので、複数の作意解がある場合には、出題時に明示する必要がある。
 さて、出題図を解いていこう。

初形図

最終的に攻方王を詰まさなければならない。攻方王に逃げ道がどれだけあるのか確認しておこう。初形では36・37・38・48・56・58といくつも逃げ道がある。6手でこれらの地点を封鎖しながら、最終的に攻方王に王手をかけさせて詰ますことになる。これだけ逃げ道があると方針が立てづらいかもしれない。早速作意を見ていくことにしよう。初手は13龍で2手目は26玉と応じる。

途中図 2手目26玉迄

受方玉の利きで、攻方王は36・37の地点に逃げられなくなった。続いて3手目22龍と、受方玉から遠ざかるように王手をするのが意表の一手。4手目23角と合駒をさせるのが目的。

途中図 4手目23角迄

これで攻方王は56の地点にも逃げられなくなった。5手目28谺と温存していたOrphanを打つ。

途中図 5手目28谺迄

何故これが王手なのかを確認しておこう。攻方28谺は受方29飛から取りがかかっている。攻方28谺は飛車の利きを持っているため、受方玉に王手がかかっている。さて、6手目が最終手だ。受方はOrphanからの王手を解除しながら、攻方王を詰ます応手が求められる。6手目は49飛成。

詰め上がり図 6手目49飛成迄

何故これで受方玉への王手が解除されているのか。攻方28谺に取りがかからないように受方29飛を動かせば、攻方28谺は利きを持たない元の状態に戻る。標準駒では有り得ない受けなので、初めて見た人には驚きだろう。さて、6手目49飛成で攻方王に王手がかかった状態だが、本当にこれで詰んでいるのだろうか。48の地点に合駒をする空間はあるが、攻方は持駒がないため合駒で受けられない。攻方王が逃げようにも、受方23角・26玉・49龍・68角と様々な駒が利いている。従って、これで攻方王が詰んでいる。
 本作は2解なので、作意解がもう一つ存在する。問題はやはり同じで、どうやって攻方王の逃げ道を封鎖するか。そして、最後手で攻方王にどうやって王手をかけさせるか。初手は36龍と今度は龍を縦に動かす。

途中図 1手目36龍迄

これで攻方王は味方の駒が邪魔で36の地点に逃げられなくなった。王手を解除するだけなら、2手目は26合・15玉・17玉など複数の選択肢がある。協力して攻方王を詰ますにはどうしたらよいだろうか。正解は2手目17玉。この地点に逃げたのはOrphanで王手をしたいからで、3手目は35谺とする。

途中図 3手目35谺迄

先程の解ではOrphanを温存していたが、この解では早いタイミングでOrphanを使う。攻方35谺は受方68角から取りがかかっており、Orphanは角の利きを持っている。4手目28玉と更に上部へ逃げ、5手目46谺と追撃する。

途中図 5手目46谺迄

Orphanは今は角の利きを持っているために35から46の地点に移動でき、依然として受方68角から取りがかかっている。6手目はどうすればよいだろう。やはり受方はOrphanからの王手を解除しながら、攻方王を詰ます応手が求められる。6手目は57金だ。

詰め上がり図 6手目57金迄

Orphanに慣れていない人は、またもや面食らう手かもしれない。何故これで受方玉への王手が解除されたのかが最初の疑問だろう。攻方46谺は受方68角からの取りがかかっているために利きを持っていた。6手目57金と角の利きを遮るように打つことで、攻方46谺は取りがかかっていない状態になって、利きを持たない元の状態に戻ったわけだ。さて、攻方王は受方57金から王手されているが、解除する方法はないだろうか。攻方46谺は利きも持っていないので、当然57同谺とはできない。攻方王は味方の龍・谺が邪魔になって36・46の地点には逃げられない。その他の地点も受方駒が利いている。従って、これで攻方王が詰んでいる。
 本作の主張はOrphanの使い分け。一方の作意ではOrphanを飛車の利きに変え、もう一方の作意では角の利きに変えている。しかし、二つの作意の間にそれ以上の関連性がなく、独立した二つの作品を解いた印象が強い。それぞれの作意はOrphanを活かした面白い手順なので、単解など別の方向で仕上げる方が良かっただろう。ただ、Orphanを対比表現に利用するアイデアには、開拓の余地を感じた。今後の展開に期待したい。

【 短評 】
springs-最後の1手で急に自玉が詰む感覚。
天月春霞-おるふぁん?初めて見た。1解目は49飛成で谷牙の利きをなくすのがフェアリーっぽい感じがした。2解目は谷牙が壁になって詰上がるのがユニークだと思った。2解の対比はあまり感じられなかった。
金少桂-対比性が弱く、単純に難解な手順を2つ探さないといけないタイプの問題。複数解の輸入元(多分)のチェスプロブレム的価値観にはそぐわないだろうけど、日本の古来の詰将棋的価値観で言えば有りかなと思う。ところでこの駒、なんで名前がOrphan(=直訳すると『孤児』)なんだろう・・・。
たくぼん-占魚亭さんの作品は対比性より手順がメイン。解答者を悩ます要因は筋が見え難いという事にあります。谺を使う作品で尚且つ6手と短かい手数ですので初手から谺を使いたくなる所ですが、36龍、17玉の普通の手順は見え難いし、13龍、26玉の手順に至っては5手目まで谺が出てきません。解図するのにかなりの時間がかかりました。対比性がある作品は1つ解けるともう1解はすぐ見えるので解答者には物足りない部分がありますが本作はガッツリ2つの作品を解けるという点で楽しませて(苦しませて)いただきました。
上谷直希-個々の着手を見るとOrphanならではの好手も見られるのだが、Orphanを見せたいのであれば序の2手は省いたほうがよさそうで、2解モノとするのであれば各所の統一感を優先したほうがよさそう。ベテランの方なので敢えて厳しいコメントといたしました。
占魚亭-自作。いろいろと詰めの甘さが目立つ……(苦笑)。改良図を作ろうと思いましたが創作の出発点からして訳ありなので、無理でした。

③ 駒井めい 作

■ 安南
味方の駒が縦に並ぶと、上の駒の利きは下の駒の利きになる。

【 作意手順 】
1) 31角、22飛成、同角 迄3手。
2) 31桂、24飛成、同龍 迄3手。

【 作者コメント 】
 受先でアンピンをして、並んだ駒に対して動かす駒を変える。

【 解説 】
 安南+協力+自玉詰という盛り沢山なルール構成。協力自玉詰は先程登場したので、新しいルールは安南。安南は駒が縦に並ぶことで、駒の性能が変化する変則ルール。初形でどの駒の性能が変わっているかを確認しておこう。まず、受方13玉・14歩と縦に並んでいる。受方14歩は玉の利きに変わっており、15以外に23・24・25の地点にも利きを持っている。また、攻方33飛・34王も縦に並んでいるため、攻方33飛が玉の利きに変わっている。初形では攻方33飛が受方玉に王手をかけているように見えるが、実は王手がかかっていない状態である。さて、受方32龍は攻方34王を間接的に睨んでおり、攻方33飛は動きを制限されている。専門用語で言うなら、攻方33飛はピン(Pin)されている。すぐには飛車を活用できない。
 状況が分かったところで、実際に解いていこう。

初形図

協力自玉詰なので、互いに協力して最後に攻方王を詰ます。通常は攻方から指し始めるが、受先なので受方から指し始める。とりあえず攻方の手番だと仮定して考えてみる。初手35王と攻方33飛の利きを元に戻すことで王手をかけて、2手目33龍と取らせる手順は、安南に慣れている人なら試してみたくなる。

仮想図 2手目33龍迄

しかし、3手目26王や46王と逃げられる他、3手目34銀と移動合で受ける余地もあって、これは上手くいかない。攻方王を動かさない手順を模索したい。残るは攻方33飛を活用していく方法。攻方33飛はピンされていて動けないので、受方が初手でピンを解除するしかない。手番を受方に戻して考えていこう。初手22龍などと利きを逸らしてしまうのが分かりやすい。

失敗図 1手目22龍迄

2手目23飛成に3手目同龍としても、4手目35王や44王と逃げることができて詰んでいない。攻方33飛が玉の利きに変わっていることを活かして、2手目24飛成とするのはどうだろう。3手目同龍には4手目43王と逃げられる。少し視点を変えて、31の地点に駒を打ってピンを解除してみよう。初手31歩とすれば、受方32龍は歩の利きに変わって、攻方33飛のピンは解除される。しかし、初手31歩では残り2手で攻方王を詰ませられそうにない。初手31銀とするのはどうだろう。

失敗図 1手目31銀迄

同様に攻方33飛のピンは解除され、攻方33飛が玉の利きに変わっているために2手目22飛成とできる。3手目同銀とさせれば、受方32龍の利きが復帰して、攻方王に王手がかかる。

失敗図 3手目22同銀迄

しかし、4手目44王と逃げられて失敗。
 ここまでくれば、もう分かったかもしれない。初手は31角が正解。2手目22飛成に3手目同角とすれば、今度は44の地点に角が利いていて詰め上がり。

詰め上がり図 3手目22同角迄

忘れそうになるが、25の地点は受方14歩が利いていて逃げられない。受方14歩は安南ルールで玉の利きに変わっている。
 2解なので、もう一つの解を考えていこう。やはり31の地点に何か駒を打つことになりそうだ。初手31桂がもう一つの正解。

途中図 1手目31桂迄

今度は2手目24飛成とするのが重要。攻方33飛が玉の利きに変わっているために可能になった着手だ。受方32龍は桂の利きに変わっているので、3手目同龍と跳ねることができて詰め上がり。43の地点には桂が利いていて逃げられない。

詰め上がり図 3手目24同龍迄

 受先で安南ならではの方法でピンを解除し、その後に受方龍の利きを復帰させるという構成。受方31X・32龍と縦に並んだ駒のどちらを動かすかというのが、それぞれの解で異なっている。また、2手目22飛成/24飛成と移動先が異なっているのもポイント。両方とも安南らしい動きになっていて、複数解と安南が上手く組み合わせられている。難点としては、24の地点には受方13玉・14歩の両方が利いていてダブっているところだ。これは複数解ではなくツインにすれば解決できる。

【 短評 】
上谷直希-龍の利きを何に変えるかどうか。
springs-31に駒を打ってピンを外すのは全く見えなかった。
天月春霞-安南ルールは何度か見たことあるけど、どの作品も予想外の動きが飛んできてびっくりしますね。初手で王を動かすパターンかと思ったら受先であれ?ってなった。31に打つなんてフェアリー素人には絶対思いつかない。
占魚亭-受方32龍の性能の変化と復帰の流れが簡潔に描かれていると思います。
たくぼん-初手角と桂で2手目飛が上と下と見事な手順。簡単ですがシンプルに表現されていて好感が持てます。これは好みです。
金少桂-受先初手の対比の分岐に安南が活きていて、ルールの組みあわせが見事。2手目の飛の動き先、3手目龍の利きの戻し方と全手順綺麗に対比されている。配置で14歩の重さを指摘する声もあったが、フェアリー慣れしていない人には見た目歩で軽く感じるし、これも安南ルールを活かした配置でうまいと思った。
★ 受方14歩の重さ及び代案については、YouTube配信にてシナトラ氏が言及していました。作者である私も気になっていた点で、様々な意見をいただけるのは大変有難いです。

④ springs 作

■ 強欲
駒を取る手を優先して着手を選ぶ。

【 作意手順 】
a) 65銀、53飛成、同玉、44金、同龍 迄5手。
b) 55銀、43角成、同玉、53金、同馬 迄5手。

【 作者コメント 】
 強欲ルールは余詰消しに利用しています。

【 解説 】
 強欲+協力+自玉詰というルール構成。強欲は駒を取る手を優先するルール。初形では受方54銀が攻方55飛・65角を取れる状態。受先なので受方から指し始める。強欲ルールにより、初手は55銀か65銀の二択になる。また、協力自玉詰なので、互いに協力して攻方王を詰ますのが目的。a図では攻方王は24・34・44・46の地点に逃げられる。受方に44龍と指させることができ、その龍に紐が付いていれば、攻方王が詰みそうだ。ただ、受方龍は受方玉が邪魔で、すぐに44の地点に呼べそうにない。受方玉を4筋から退かす手順が必要になる。そのように考えていくと、受方に53玉~44龍とさせるのは有力そうだ。これなら受方龍に対して自然に玉の紐が付く。初手は55銀と65銀の二択なので、今考えた手順が実現できるかを考えていく。

a 初形図

初手55銀は攻方飛が取られるが、攻方角の利きが通る。初手65銀は逆で、攻方角が取られるが、攻方飛の利きが通る。初手65銀と飛車の利きを通すのが正解で、以下53飛成、同玉、44金、同龍迄で詰め上がり。

a 途中図 1手目65銀迄
a 詰め上がり図 5手目44同龍迄

攻方の大駒が二枚消える気持ちの良い展開だ。
 さて、続いてb図を解いていこう。出題図に書かれた「b)26歩→24」というのはツイン設定。出題図の攻方26歩を24の地点に配置し直して解く。

b 初形図 a図の攻方26歩を24に変更

攻方王は26・34・44・46の地点に逃げられる。これだけだと詰手順を見つけるのは難しいかもしれないが、a図の作意が大きなヒントになる。a図は初手65銀から飛車を捨てて、最後は龍で攻方王を詰ます展開だった。センス良く創られているなら、b図は初手55銀から角を捨て、最後は馬で攻方王を詰ます展開だと期待される。もちろん本作は期待通りになっている。初手は55銀で、以下43角成、同玉、53金、同馬迄で詰め上がり。

b 途中図 1手目55銀迄
b 詰め上がり図 5手目53同馬迄

攻方には持駒がないので、6手目44合とは受けられない。過程は違えど、こちらも攻方の大駒が二枚消える納得の展開。
 初手で攻方飛角のどちらかが取られて、残った方を捨てて受方玉を動かすことで、受方龍馬のどちらかの利きを通すという構成。綺麗な対比が実現されている。また、どちらの作意でも大駒二枚が消えるため、実に気持ちが良い。手順構成は明快で、難しく考えなくても美しいと感じる作品だ。強欲ルールの付加は、初手を限定するためのもの。普通に考えれば、あまり良い使い方ではない。しかし、それが手順の明快さに繋がっており、結果的にはプラスに働いたように思える。それよりも気になるのが受方銀の役割。a図では単に攻方角を取るだけの役割だが、b図では攻方王が逃げられないように46の地点に利かす役割も担っている。非常に細かい点だが、この役割の違いは少し気になる。

【 短評 】
占魚亭-隙のないな手順構成。Feather mechanismとツイートで知り吃驚しました。
springs-自作。後で分かったのですが、Feather Mechanismは「線駒が取られるから、玉がある地点に移動できるようになる」ことが必要みたいです。そのため自作はFeather Mechanismっぽい何か、という感じですね‥‥‥
★ 本作はFeather mechanismというチェス・プロブレムのテーマを基に創ったようです。実際にはFeather mechanismとは異なるので、それに関する説明は割愛します。
天月春霞-強欲ルールを初めて知った素人でもわかりやすい明快な表現でした。
金少桂-攻方歩の位置で玉の脱出路が変わるので詰ます駒が変わり、それに対応して初手に取る駒が変わるという対応。一方の解で使う大駒がもう一方で全く働かないのは残念に感じる。
上谷直希-対比は明快。配置はもう少し洗練できるか(具体的案を提示せずに話してしまってすみません)。
たくぼん-強欲条件により初手が2つしかないけど、かえって対比が引き立ちいい感じがする。ただ私なら26歩配置を受方15銀にして2解とする図を選ぶかもしれない。

出題作の引用・転載

出題作を引用する場合の許可は不要ですが、全日本詰将棋連盟の指針を守っていただくようお願いします。

転載に該当する場合は、事前に作者から許可を得てください。
但し、YouTubeなどのライブ配信・動画に使用する場合に限っては、主催者(駒井めい @MeiKomai_Tsume)の許可を得ればよいこととします。