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『マチネの終わりに』と、過去の話。
およそ3年前、たまに一緒に時間を過ごしたコピーライターの知人と、最近読んでいる本について話していた。
彼はその時『マチネの終わりに』を丁度読み終わったくらいの時で、久しぶりに最後まで読むのがもったいなくて、ページをめくるのが苦しいくらいだったと言っていた。
そういえば彼はスナフキンのようだったな。物を書くことをプロとして仕事にしていたので、憧れでもあった。
「物書きになりたいから物を書くのではなく、書きたいものがあるから物書きになる。やりたい!ということでお金が生まれたらそれが職業になる。」
彼のこんな言葉は今でも私に刺さっている。
さて、そんな「マチネの終わりに」をその後手にしたのは、母がきっかけであった。1年前一時帰国した時に、面白かったからと「マチネの終わりに」の本を私にくれたのだ。母は、主人公の蒔野と同じくクラシックギターを愛している。
憧れの人と、母からのススメで、作品にとても興味が湧いていたが、その時はまだ、なんだか恋愛小説や映画があまり楽しめず、十数ページを読んだところで、止まってしまっていた。
しかしようやく時が来て、ページを捲り始めたら止まらない。最後までかなりのハイペースで一気に読み終えてしまった。
主人公の、ギタリスト蒔野とジャーナリストの洋子の恋愛。この物語では5年半に渡る2人のストーリーが綴られている。洋子にはフィアンセがいたにも関わらず、一時はそれを破棄し蒔野と結婚の約束もした。お互いがお互いを特別と想い、深い愛を持っているにも関わらず、二人は偶然なのか必然なのかすれ違いまくる。
驚くべきポイントは2人は5年半で実質3回しか会うことができていない。
運命なのか、いたずらと誤解で結ばれることなく、お互い違うパートナーと結婚して、それぞれに子供もできる。(後に洋子は離婚する)
2人は結ばれなかった環境の中で、それでも想像と違った幸福も確かにあって‥でも「なんでこうなっちゃったんだろう?」という想いも大いにあって‥ 大変切ない内容となっている。
私には3年前まで婚約者がいた。20代の後半全て、30歳になる手前まで、約5年一緒に生活してきた人だった。
私はこの人と一生一緒にいるんだと、一点の曇りもなく思っていたんだけど、何だか歯車が噛み合わなくなり、人生がずれて、彼は家を出ていき、違う女性と結婚し、すぐに子供が産まれたようだった。
その時はものすごくショックで悲しくてたまらなかった。馬鹿みたいに信じていたから裏切られた気持ちにもなったし、こんなにも胸をえぐられたのも人生で初めてだった。自分の至らなかったところを沢山責めもした。
大げさに聞こえるかもしれないけれど、よく小説で”景色がモノクロに見える”なんて言うけれど、本当にそんな感じで、いつもの景色が違うように見えていた。
「なんでこうなっちゃったんだろう‥」洋子の想いと同じであった。
でも私にとってこの別れは大きな学びとなった。
この失恋によって一時崩壊したことで、改めて精神的な自立について考えるきっかけとなった。一人で楽しめない人生なんて、誰かと共有したって楽しくない。
別れてから、色んな人と交流を持つようになって新しい世界も覗いた。そばに居てくれる母や友人へ感謝し、ひとり時間の過ごし方もより一層自分らしく深まった。
そしてこの失恋があったからこそ、オーストラリアに戻ってこれたっていうのもある。
より強く、自分らしくなれた。
私は前の自分より、今の自分の方が断然好きだと言い切れる。別れていなかったら、今の自分はいない。
元パートナーとは別れてから連絡を取ることはほぼ一切なかった。でも共通の友人からは、たま〜〜に、彼が変わらず自分の道を彼らしく進んで、幸せにやっているということを聞く。長年夢であった下北沢でBarを持つことも叶えている。
産まれた子供もきっともう大きくなっているんだろう。そこには確実な愛と幸せがあって、その子がいない世界なんて存在しない。
一度も会ったことはないけれど、すくすくと元気に育って、父ちゃんみたいに自分らしい、素敵な人になってくれって思う。
「マチネの終わりに」にはこんな一節がある。
人は、変えられるのは未来だけだと思い込んでいる。だけど、実際は、未来は常に過去を変えているんです。変えられるとも言えるし、変わってしまうとも言える。
毎日を生きる。自分の選択で積み重ねて未来を作っていってる。振り返る全ては過去だ。
あの3年前の過去を振り返る今、全てがモノクロだったあの時期も、私の人生に無くてはならない成長の時期となった。
常に過去は変わるし、変えられるんだって思う。
彼が最後に一緒に住んでいたアパートを出ていく時、こんなセリフを残したのを今でも鮮明に覚えてる。
男って勝手でしょ?でも、これがおれからの愛だと思って。
ありがとう。当時は本当に分からなかった。でも今では心から分かる。過去が変わったから。
二人がお互い自分らしく楽しく生きるための最善の方法だったんだなって。
大きな愛をありがとう。
私は、今オーストラリアで、私らしく、幸せに生きてる。素晴らしいパートナーにも出逢ったよ。
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