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Happy Halloween & Birthday!

 「誕生日はハロウィンの日なんだ。」と、かぼちゃの串揚げをかじりながら彼は笑った。ビール1杯だけ飲んだら帰るぞと言っていたのに、結局これで4杯目。隣でレモンサワーを飲む私もほろ酔いになったから、やっと彼に誕生日を聞くことができた。

 私、23歳、入社2年目。彼、32歳、係長。初対面の印象は「笑わなくて怖い人だな」だった。でも、私がお客様からのクレームの電話にうまく対処できなかった時、あまりに鮮やかに解決してくれたその日から、私の彼への思いはがらっと変わった。第一印象が最悪だった人をどんどん好きになる典型的なパターン。

 彼も私も、木曜日に残業をがんばって、金曜日は早く帰るパターンが多かったから、木曜日の仕事帰り、一緒にラーメンを食べたり、一杯飲んで帰ることが増えた。1対1で話すと、この人たくさん話すし、たくさん笑うんだなと気づいた時には、きっと私はもう彼のことが好きだったのだと思う。

 ある木曜日に、珍しく彼が残業せずに退社してしまったので、私が拍子抜けしているところにメールがぽろり。「本屋に寄りたいから早く出たけど、仕事終わったらメシ行こう。」
 会社役員の送別会が終わって、2次会に向かうみんなの流れからそっと離れて、一人で駅に向かっていた私に駆け寄って「俺も2次会行きたくないんだよね。一杯だけ飲み直して帰ろう。」

 こんなことが続いたら期待するよね、一方通行ではないはずだと。「今日はハッピーアワーに間に合うから2杯飲んじゃおうか」、「駅前にオープンした店に寄ろうよ」という私には、いつでも笑顔でOKだった彼。でも、「またハロウィンの頃に、かぼちゃの串揚げ食べようよ」と言ったら、「ソース二度漬け禁止だぞ」とごまかした時、私の中にわずかに冷たい風が吹いた。

 心の違和感を確かめたいような、怖いような、そんな日々を過ごしていたある日、社内スケジュールの係長欄の更新に気づいた。「10/15~21結婚休暇」と。いつも休暇の目的など書かない人なのに、この時だけはっきりと。

 私は木曜日の残業をやめて、一人で泣いた。好きだったのは私だけなんだ。毎週二人でご飯食べていただけで、ただの部下の一人なんだ。でも一応、私も女なんだけど。結婚前にもう一度だけモテたかっただけ?奥さん、かわいい人なんだろうな。でも、もし、奥さんより私の方が早く彼に出会っていたら、違う未来があったかもしれないのに。

 休暇明けの彼には、同僚たちと一緒に、「ご結婚おめでとうございます」と笑顔で伝えた。私は静かに仕事だけに集中し、日々を過ごすうちに、彼は関連会社の新規事業プロジェクトに駆り出され、顔も合わせなくなった。

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 当時のあなたの年齢もはるかに超えて、とても久しぶりにあなたを思い出したのは、先週行った串揚げ屋さんのかぼちゃが美味しくて、お店にはハロウィンの飾りもあったからです。

 あれから元気でいますか?失恋の時には泣いたけれど、あなたと仕事帰りに何度も一緒にビールを飲んだ日々を、今とても懐かしく温かく思います。恋が深まる縁はなかったけど、人生の色彩が豊かになりました。ありがとう。明日はお誕生日ですね。Happy Halloween & Birthday!