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歪だけれどあたたかい青春白書『戯けてルネサンス』

別れの季節であり、新しい季節への始まりでもある3月。今回ご紹介する戯けてルネサンス』は、新しい季節を迎える今まさに読んで欲しい作品だ。

失った青春を取り戻す

本作は、中学時代に壮絶ないじめを経験した主人公・再名生(さいみょう)が、夢に見た「普通」の高校生活を送るべく、知り合いが誰もいない高校へと進学するところから始まる。そして、彼が進学した先はなんと”共学になって間もない元女子校”だった。クラスの大半が女生徒で男子生徒は自分とおさげヘアをした江口入(えぐちいる)のみ。そんな予想もしてなかった女生徒だらけの学校で再名生が失った青春を取り戻す物語だ。

同級生はほぼ女子、そしておさげの男子

クラスの大半が女生徒だからといって、マンガのようなハーレム的展開は一切ない。さらには再名生の"いじめられていたという過去"が邪魔して、思うように同級生と会話ができない...。物語の冒頭は、そんな胸が苦しくなるような展開から始まるのだが、個性豊かでちょっぴり歪な同級生たちに囲まれて再名生は少しずつだけれど人との関わり方について学んでいく。

歪な同級生というのは入学初日から再名生を助けてくれた女生徒・冬香、そして唯一の男子生徒・江口入のことだ。

冬香はとにかく冷静沈着。感情よりもまず頭で考えるタイプで、何かとクラスで粗相をする再名生のことをサポートする。そんな彼女は兄が自殺したという複雑な過去を持っている。

そして、江口入。彼は、入学式初日からおさげ髪で登校してきて周囲を驚かせた。どこか掴めない不思議な雰囲気を漂わせているものの、クラスを客観視していて大人びた性格が印象的だ。冬香の幼馴染でもある江口入は、幼少期に母親がハサミで殺された出来事がトラウマで髪を切ることができない。

3人の共通点は「消失」

再名生、冬香、江口入。この3人には何かを失った経験がある。青春、家族...。2度と戻らないものに対して複雑な感情を抱える3人だからこそ、寄り添い、投げかけられる言葉があるのだろう。

再名生はいじめられていた過去の経験から、自分は必要のない人間、そして人間関係がうまく構築できないダメな人間...と思い込む拗れた心を抱えていたが、物語に進むにつれて冬香と江口入に導かれて変わっていく。例えばなんでも「ごめんなさい」と謝るクセが無くなったり、自分の思うことを素直に言えるようになったり...。側から見たら"当たり前”に見えるかもしれないけれど再名生にとっては大きな成長であり一歩なのだ。

環境や関わる人によって変わる

再名生の姿を見て感じたのは、人は環境や関わる人たちによっていくらでも変われるのだということだった。

本作の登場人物たちは高校生だけれど、再名生の高校生活は大人になった私たちにも勇気を与えてくれる。自分にはできない、向いていない...。そう思うことも今の環境や人と関わることで変わることができるのだという一歩前に進む勇気をもらえる。

戯けてルネサンス』は、この3人以外の生徒、そして生徒の家族にも焦点を当ててそれぞれの成長を描いている。

始まりの季節。今より一歩前に進みたいあなたにぜひこのマンガを贈りたい。

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