カズオ・イシグロ(2011)『夜想曲集 音楽と夕暮れをめぐる五つの物語』の読書感想文
カズオ・イシグロの『夜想曲集 音楽と夕暮れをめぐる五つの物語』を再読した。文庫本は2011年2月にハヤカワepi文庫より出版されている。翻訳は土屋政雄さん、解説は中島京子さんである。
はじめてこの本を読んだとき、ゲラゲラ笑いながら読んだ。滑稽さとおかしみがあって、その軽妙洒脱な文体に驚いたことを記憶している。
今回、再読して感じたことは、切なさであった。
「老歌手」と「夜想曲」は別れようとする夫側とその別れを受け入れる妻側の話だ。彼らの理屈もよく理解できないのだが、そういうものだと言われてしまえば、拒否はできなかったのだなと思わされる。
一番好きなのは「降っても晴れても」で、夫婦の痴話喧嘩に巻き込まれる要領の悪い男性が何とも、かわいらしく描かれている。
カズオ・イシグロの小説は、小説内の人物と人物の距離の取り方も絶妙なのだが、どこまで人物を描写するかといった塩梅も絶妙であるためか、いつも読後感はさっぱりとしている。それは心地よい反面、深入りしないことによる「つめたさ」にも繋がっているような気がする。これから、ほかの作品も読んで再考したいと思っている。
長編の『忘れられた巨人』なんかは全然わからなくて、途中で投げ出してしまったのだけれど、この短編集は旅のお供にもちょうどよく、お勧めである。
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