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映画『ダークウォーターズ』(2019)の感想

映画『ダークウォーターズ』を映画館で観てきた。2019年製作、トッド・ヘインズ監督のアメリカ映画、上映時間は126分だ。主演のマーク・ラファロは環境活動家であり、この映画の製作者でもある。

デュポン社という化学メーカーはテフロン加工などのフライパンを作っている。その製造過程で出される化学物質で汚染された水をそのまま川に排水していたことが徐々に明らかになっていく。その水を飲んだ家畜である牛が突然暴れだしたり、犬が方向感覚を失いぐるぐる回り始めたりする。それらの水は生活用水でもあるため、地域住民に病気が見つかっていく。これ、どこかで聞いたことがあるではないか。チッソの水俣病とよく似た公害である。

マーク・ラファロ演じる弁護士のビロットは、ひょんなことから、この公害問題を調べ始めることになる。そもそも、彼の所属している弁護士事務所は企業弁護を専門としており、お金のない市民のために働くような組織ではなかった。

たったひとりの人物が行きがかり上、化学物質の化学記号まで突き止め、汚染水を飲んだ住民たちの身体検査をして、訴訟にまでたどりつく。

しかし、相手はロビー活動も難なくできる大企業であるため、そう簡単に物事は進まない。

途中、弁護士のビロットは、心臓発作か心筋梗塞で倒れる。地域住民の健康状態のデータを大量に集めたのだが、その分析に時間がかかり、裁判が進められなかったのだ。そのとき、上司から何度目かの減給を言い渡されている最中に倒れ、病院に運ばれる。

この映画で最も印象的なシーンはここだった。妻であるアン・ハサウェイが夫を擁護する理由が何とも言えない。かっこよくはない。しかし、確かな正直さ、誠実さがあるのだ。「わたしの夫は軍人の息子で基地の町を転々としていたから、子どもの頃、友達を作ることができなかった。わたしやあなたとは、大人になってから出会い、人間関係を作った。彼にとって、会社は単なる会社ではない」というような主旨のことを話していた。妻は、夫にとって、会社は「居場所」なのだから、簡単に考えすぎないでほしい、と上司にはっきりと物申したのだ。会社に依存しているのは夫の弱みでもあるが、これはどこにもいけない彼が仕事を投げ出すことはなく、働き続ける忠誠心の表れとも言える。

病から回復した彼は、弁護士として法廷に立っている。裁判は今も現在進行形で進められている。この映画は、ほぼほぼノンフィクションなのだ。

この映画の唯一の失敗は、アン・ハサウェイが若返ってしまうところにある、と思う。90年代のださい感じから、現在が近づくにつれ、どう見ても垢抜け、若くなってしまっているのだ。

この映画を製作し、参加した俳優さんたちは、みな勇気がある人たちなのだと思う。実際に訴訟に参加している人たちも、映画のなかに出演していることが、エンドロールで種明かしされるので、最後までお見逃しなく!

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