見出し画像

#映画感想文325『関心領域』(2023)

映画『関心領域(原題:The Zone of Interest)』(2023)を映画館で観てきた。

監督・脚本はジョナサン・グレイザー、出演はクリスティアン・フリーデル、サンドラ・ヒュラー。

2023年製作、105分、アメリカ・イギリス・ポーランド合作。

アメリカで公開された時点で、話題作だったこともあり、前情報を仕入れた上で鑑賞した。映画の構造としては冒険的なところもあり、また音が非常に重要な役割を果たしている。

本作は人々の無関心さと自己利益がある領域に対する関心が描かれている。アウシュビッツ収容所の横で豊かな暮らしを享受するドイツ人家族には、ユダヤ人を焼く焼却炉の音が聞こえない。青空にのぼる黒煙も見えない。夜空を染める業火も見えない。彼らは見ないのか、見えていないのか、見えているのに無視をしているのか。母親、子どもたちがどこまでわかっていて、わざと無神経になっているのかがわからない。彼らの揺らぎを見たいのだが、なかなか出てこない。

ユダヤ人を効率よく列車で輸送して、効率よく焼くにはどうすればいいのか。人間は仕事となれば、官僚的に人殺しだってやってのける。そして、死を前にした女性を性的に搾取する。終盤、ドイツの要職についている夫が嘔吐を繰り返すのだが、彼は自分自身の非道さを自覚していたことが示唆される。

このドイツ人たちが特別に残酷で悪人ということはない。ただ、自分たちには優越性があり、特権を手にすることは当然である、という意識は人間を狂わせる。色鮮やかな口紅、毛皮、ワンピースの持ち主は、もうこの世にいないからと、平気な顔で自分のものにしてしまう。

アウシュビッツに収容所に忍び込み、りんごを置くドイツ人一家の使用人として働く女性。彼女はリスクを冒してでも同胞を救いたいと願っている。その夜のシーンの演出はアニメーションのようで、観客に不思議な感覚をもたらす。

そして、現在は、民族的トラウマを抱えたイスラエルが暴走している。日本でも、イスラエルのガザ侵攻に反対するプラカードを掲げている人を街で見かける。一人で叫んでいる人もいる。その勇気は素晴らしいと思うのに、わたしは自分自身と自分の仕事ぐらいにしか関心が持てない。自分を働かせるだけで精一杯だし、わたしが頑張ったところでどうにもならないと、どこかで思っている。このようなあきらめ、非力であるという思い込みは市民的な力を封じ込めてしまうのだが、それが為政者を増長させるのだろう。

ネタニヤフが強権的に政権維持を目的にガザの市民を殺し続け、それをアメリカが支援し、世界中が傍観をしている。この関心領域の狭さ。恐ろしいことに情報を遮断していたりもするらしい。(前からだけれど、わたしはメタ社が嫌い)

#blockout2024というハッシュタグはあまり好きではないが、意見を表明しないこと自体がリスクになり得る時代になったことは興味深い。自分の都合のいいときだけ、SNSを使うことも許されなくなっていくのだろう。

真っ赤なスクリーン、そして悲鳴のような音が鳴り響くエンドロール。それは魂の叫び、怨念のようでもあり、グレイザー監督の「映画は政治をラジカルに描くべきだ」という信念の現れだったと思う。

この記事が参加している募集

#映画感想文

67,197件

チップをいただけたら、さらに頑張れそうな気がします(笑)とはいえ、読んでいただけるだけで、ありがたいです。またのご来店をお待ちしております!