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映画『オフィシャル・シークレット Official Secrets』(2019)の感想

ギャヴィン・フッド監督の映画『オフィシャル・シークレット』(2019)を映画館で観てきた。

2003年1月。英国の諜報機関GCHQ(政府通信本部)で働くキャサリン・ガン(キーラ・ナイトレイ)はある日、米国の諜報機関NSA(国家安全保障局)から送られたメールを見て愕然とする。
http://officialsecret-movie.com/story/

というわけで、この映画の舞台は、イギリスの諜報機関GCHQで、職場の様子を垣間見ることができる。まず、それが面白かった。スタッフは、みな語学が堪能で、盗聴して、重要な情報を文字起こしをして、レポートとして提出する、というのが主な仕事のようだ。盗聴という卑劣な違法行為も、仕事になってしまえば、淡々とこなす事務作業に過ぎない。

主人公のキャサリン・ガン(キーラ・ナイトレイ)は、中国担当である。彼女は台湾育ちで、北京語に堪能で、前職は広島で英語の先生をしていたという経歴の持ち主である。

イラクに大量破壊兵器が存在しなかったことは、もう誰もが知っていることである。当時の米国は、国連決議を無視して戦争に突入し、結局大国が戦争したければ、大義がなくても戦争できるのか、と唖然としてしまった記憶がある。当時の日本政府は盲目的に対米追従で、その思考停止は、気持ちがいいぐらい、清々しかった。(ただ、日本人ほど、米国を恐れている国はほかにないのかもしれない、とも思う)

キャサリン・ガンは戦争を止めるために、NSAのメールを友人を介して、メディアにリークする。彼女のリークを『オブザーバー』という新聞が一面で報道する。しかし、そこで新聞の校正係がNSAのアメリカ英語をイギリス英語に校正してしまい、NBCやCNNといったアメリカの大手メディアから、偽メール扱いされてしまう、という信じられないミスが描かれる。文を勝手に変えたら、引用にならんだろ。事実は小説より奇なり、というのはマジである。こんな阿呆なミスは創造できないし、私はうっかり者が、物語を展開させることが我慢ならないので、ちょいと不愉快になった。

(映画の『キサラギ』が今も昔も大嫌いなのは、うっかりがオチだったからである)

そして、凄腕弁護士ベン(レイフ・ファインズ)の登場である。この映画でもよくわかったのだが、裁判は始まる前に勝負がついているのだ。裁判が始まってからでは何もかもが遅い。

グレン・クローズ主演の『ダメージ』というアメリカのテレビドラマがあるが、あのドラマは弁護士事務所が舞台で、弁護士が主役であるにも関わらず、法廷シーンはほとんどない。裁判前に徹底的に調べ上げ、交渉したり、脅迫したり、ゆすったりして、裁判にまで至らせないのだ。裁判をしない弁護士が凄腕だということを私はあのドラマで理解をした。

この映画を観た誰かが、何かを選択をするときに、勇気づけられることを祈っている。私自身、ハンナ・アーレントのいう「凡庸な悪」にならぬように日々気を付けている。それぐらい私たちは容易に思考停止状態に陥る。仕事だから、常識だから、仕方がないから、と。しかし、本当にそうなのだろうか、と立ち止まって考えなければ、気がついたときには手遅れで加害者になっているのではないだろうか。ゆえに、立ち止まって、リスクを冒したキャサリン・ガンの勇気を讃えたい。

TBSラジオのSession22でも特集されていたようである。

あと、キーラ・ナイトレイの疲れた感じがとてもよかった。




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