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映画『リスペクト』(2021)の感想

映画『リスペクト』を映画館で観てきた。アレサ・フランクリンの伝記映画で、ジェニファー・ハドソンが主演である。監督のリースル・トミーは本作がデビュー作であり、南アフリカ出身だ。

映画はアレサ・フランクリンの幼少時代から始まり、歌手として成功し、アルコール依存症に苦しみ、克服する過程までが描かれる。

わたしが印象深かったのは、生活が安定してきた頃、自分をサポートしてくれる夫と一緒にいるとき、これまでのトラウマが蘇り、それを夫にぶつけてしまうところだった。男性に対する嫌悪感がこみあげてくるシーンは印象的だ。

傷つけられたとき、その傷を自覚するとき、その傷に対する怒り、その傷からの回復、それはすべてバラバラに起こり、生じてくるのだなと。その苦しみは、豪邸に住んだからといって癒されるわけではない。

そして、アレサ・フランクリンほどの才能のある女性に対しても、男性は自分の力を誇示し、暴力をふるい、コントロールし、支配下に置くことに汲々とする。これは、男性性の中にある病なのだろう、と思わされる。

FRONTNOWのインタビューで、トミー監督は以下のように答えている。

トミー監督は以前、女性に焦点を当てた作品『Eclipsed』で評価を得られました。本作では、「女性として」という点で何か意識したことはありますか?

1つは映画の中で暴力がどう描写されるか。最近の映画では、暴力(バイオレンス)はエンターテイメントだとされていて、戦うシーンがフィーチャーされることもあるけれど、やはり私としては、女性目線で暴力を見たときに、物によっては非常にトラウマになってしまうような、ダメージを受けるような側面もあると思う。だから、私としては実際に人を叩いたり暴力を振るったりするところを見せるよりは、その暴力による影響っていうものによりクローズアップしたかった。心理的な部分に焦点を合わせた。

https://front-row.jp/_ct/17493907

監督の答え通り、暴力のシーンはそれほど多くはないのだが、男性の女性に対する暴力に満ち満ちた映画でもあった。

キング牧師、黒人の公民権運動、アレサの父親による布教活動など、アメリカの歴史的な側面も同時に学ぶことができる。

これまでも男性による女性への暴力を描いた映画はたくさんあったが、よくあること普遍的なこと、仕方のないこと、という風に描かれていたことが圧倒的に多かった。しかし、男性監督でも、女性監督でも、それが野蛮なことであり、是正されなければならないことだ、という視点が確実に入ってきている。(エドガー・ライト監督の『ラスト・ナイト・イン・ソーホー』でも同様の指摘がなされている)それ自体が救いであり、変化の過程の中にいるのだと思わせてくれる。アレサ・フランクリンの偉大さはもちろんのこと、それが、今、公開される意義なのだろう。


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