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私が見た南国の星 第6集「最後の灯火」㉑

癌の予兆


 私の身体は以前とは違って、体力の限界を感じる時が多くなってきた。その原因は、あの悪性腫瘍のせいだ。自分で身体の異変に気がついた時は、もう既に癌が進行していた。「まさか、この私が・・・」癌に侵された人は誰でも同じことを思うだろう。でも、癌に侵されて初めて得た喜びもあった。そんな私の人生は、今でも海南島で足跡を残すことに希望を持っている。あの瞬間は、今でも忘れられない。
 2010年、上半期に左手小指の骨折がきっかけで、私の身体には次々と異変が起きていった。骨折した小指は、この島で半年近くのリハビリを受けても元に戻らなかった。悔しいが、もし日本で早期の治療をしていたら、今よりは治療の成果はあったと思う。でも、今となっては何を考えても意味がない。このまま私の小指は死ぬまで曲がったままと知った時には、言葉に言い尽くせないほどのショックを受けた。この海南島で生活を始めた時から、万が一の事は覚悟していましたが、でも、現実は私の想像よりも大変だった。今思えば、あの時の骨折は私に危険信号を送っていた。骨折の原因は、貧血だったと思う。部屋の中でパソコン業務をしていた時だった。何度も軽い目眩を感じた私は、作業を止めて寝室で暫く休んでいた。30分くらい横になっていたのだが、何だか急に息苦しくなり慌てて馮さんを呼んだ。ところが、彼女は少し離れた洗面所の掃除をしていたらしく、私の呼ぶ声が聞こえなかった。何度も呼んだが返事をしないので、我慢が出来ず部屋を飛び出した。廊下を走ったのは覚えていたが、その後の事は記憶がない。気がついた時にはリビングの床に倒れていた。
 まだその時は小指が骨折しているなんて、私自身も気がつかなかった。馮さんが救急車を呼んだらしく、酸素吸入をしながら病院へ搬送されたのだった。病院では救急患者が多く医師も不足していて、2時間半ほど放置されたままだった。折れ曲がった小指は腫上がり、医師の診察を受けた時には痺れで痛みも感じないほどだった。麻酔もなく、指の応急処置をした瞬間だった。
「あぁー、これは失敗かもしれない。直ぐレントゲン撮影をして」
医師は淡々と口走った。私は内心
「失敗?!嘘でしょ、この薮医者!」
と、腹立たしかった。そんな様子を見ていた馮さんは、
「わぁー、お姉さんは凄いね。あんなに曲がっていた指を引っ張られても我慢が出来るのだから」
「私だって痛いわよ。でも、痺れているから感覚があまりなかったの。痺れていたから麻酔は必要なかったかもね」
この時は、少し気分が落ち着いていたので冗談も言えた。骨折は、滑って転んだのが原因だと誰もがその時は思っていた。半年後にもっと恐ろしい状況になるとは知る由もなかった。やがて骨折した指は、治療法が無く、曲がった状態でも、いつしか自然に慣れてしまった。
 2010年も12月の初旬、日本からの訪問客を連れて海南島の名所を観光していた時だった。ものすごい貧血に驚いた私は、また半年前の骨折を思い出してしまった。少しベンチで休憩をしていたら気分も良くなり、皆さんに気づかれないように気を遣った。それでも、夜になるまでに数回の軽い貧血を感じた。そして、急にトイレに行きたくなり、自分の身体の異常に気づいた。
「やっぱり変だわ。どうしたのかしら」
なんだか不吉な予感が脳裏を駆け巡った。訪問客を見送った私は、慌しい年の瀬だったが、日本に帰国して検査をする事にした。

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