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未来の学校をつくる3〈教育活動の裏付けはありますか〉

 今日は新しい学校を作るための教育活動の裏付けについてお話しします。学校づくりのバックヤードツアーのようなお話で、ちょっと小難しいお話ですが、記録として残しておけばもしかすると誰かの役に立つかもしれません。
 小台橋高校のセールスポイントは「キャリア教育」「選択科目」「交流プログラム」「課題研究」「ゼミナール制」です、と言っていますがその裏付けとなった調査をご紹介します。
 
 だいぶ前のことになりますが、平成16年3月にアンケート調査をしたことがあります。
 当時、お世話になった日本体育大学の本間啓二先生にご指導をいただき、桐ケ丘高校にいらした笹のぶえ先生に協力していただきました。懐かしいです。(杉森共和、笹のぶえ、本間啓二2004「チャレンジスクールの適応に関する一考察」日本進路指導学会第26回研究大会論文集)
 
 この調査はチャレンジスクールという不登校生徒を受け入れる学校のシステムが十分効果を上げているのかを検証したものです。ですからこの調査結果は新たにチャレンジスクールを作るときの裏付けの一つになると思うのです。
 
 対象者はチャレンジスクールである東京都立桐ヶ丘高等学校および世田谷泉高等学校の平成16年3月卒業予定者(桐ケ丘の2期生と世田谷泉の1期生です)で、卒業式直前に各クラスのホームルーム担任に配布回収を依頼し実施しました。内容は「高等学校で卒業を迎えることになった理由」で質問紙法により4件法で回答を求めています。107人からの回答を得、有効回答数は82件でした。
 質問のうち34項目を選んで8つの因子を抽出し因子ごとに平均値を算出しました。4件法の平均は2.5になりますからそれを超えると肯定的、それより少ないと否定的だと言えます。各因子の平均値を卒業に至った理由として支持が多かった順に並べると次のようになりました。因子名は構成する質問項目をまとめる形で名付けていますが、より説明に適うようにこの原稿を書く時点で新たに名付け直しています。

高等学校で卒業を迎えることになった理由

各因子を構成する質問項目は次の通りです。

①将来像を描いた 3.16
 生き方や人生について考えるようになったから
 職業や仕事について考えるようになったから
 大学や専門学校のような上級学校について考えるようになったから
②最適化して学んだ 3.05
 自分の学力にあった学習内容だったから
 興味のある科目が学習できたから
 基礎的な学習ができたから
 家庭がバックアップしてくれたから
③対人スキルの向上 3.04
 ホームルーム内での人間関係がうまくいったから
 同年次との人間関係がうまくいったから
 先輩・後輩との人間関係がうまくいったから
 授業内での人間関係がうまくいったから
 ホームルーム・年次に関係なく気の合う友人が見つけられたから
 教科担当の先生との関係がうまくいったから
④社会性の向上 2.91
 学校以外の活動が充実してきたから
 学校以外にも自分の居場所ができたから
 地元の友人が支えてくれたから
 趣味の世界が広がったから
 進路に対する目標が持てたから
⑤体験的授業 2.71
 体を動かしたり、作業をしたりする授業が多かったから
 進路のことを考える授業があったから
 将来のことを考えるような授業があったから
⑥学校のしくみ 2.66
 少人数制で教室に入りやすかったから
 メンタル面でのフォロー体制があったから
 2学期制だったから
 校則が厳しくなかったから
 いじめっ子や乱暴な子が少なかったから
 先生がいろんなことで相談に乗ってくれたから
 単位制で留年することがなかったから
⑦学習の支援 2.55
 分からないところが質問しやすかったから
 中学の頃苦手だった科目が分かるようになったから
 勉強が楽しいと感じられるようになったから
⑧生活健全さ向上 2.26
 昔の仲間とのつながりがなくなったから
 規則正しい生活習慣が身に付いたから
 健康に自信がついたから

 ①②③④⑧は生徒自身の成長に当たる項目であり、⑤⑥⑦は学校のシステムであるようです。そして、⑧以外の成長の因子が卒業を支えていることが分かります。⑧は、たとえ不健全な生活をしていても卒業できるか、回答した生徒にとって健全な生活が当たり前であるかのどちらかです。生徒を見た感じでは後者であるように思います。
 そして、⑤⑥⑦は生徒の成長を支えているのですが、よく考えると縁の下の力持ちと一緒でシステム自体は生徒の意識には上りにくいものです。逆に言うと、生徒たちは自分の成長を実感し卒業ができるようになった理由として挙げていると言えます。
 
 ここから、どのような学校を目指せばいいかわかってきます。つまり、
 
将来像を描かせ(①)、
最適化した学びを提供し(②)、
対人スキルを身に付けさせ(③)、
社会性を向上させる(④)
 
という教育活動を(たとえ生徒が意識しなくても)実施することです。そこで、小台橋高校のセールスポイントは次のようになっています。
 
①体系的なキャリア教育の授業が時間割に組み込まれていて将来像を描くことができます。
②約70科目の選択科目の中から、学び直しから大学進学まで興味関心に合わせて自分だけの時間割が作れます。
③入学直後に35時間の「交流プログラム」を体験し、対人スキルを身に付けることができます。
④学校外に飛び出す「本物体験」や「課題研究」を通して社会性が向上します。

 この4つに加えて「ゼミナール制によって自分の居場所ができます」ということがあります。これは、世田谷泉高校の1期生の土岐玲奈さんが著書の中でご自分の経験として

不登校経験者を積極的に受け入れる「非主流の後期中等教育機関」の一つであった高校に在籍している間は、化学準備室の居場所機能に支えられた。

「高等学校における<学習ケア>の学校臨床学的考察――通信制高校の多様な生徒に対する学習支援と心理的支援」福村出版2019

とおっしゃっていて、なるほど居場所が大事だと気付き、それがゼミナール制とゼミ室の設置につながりました。
 
 本校のセールスポイントの「キャリア教育」「選択科目」「交流プログラム」「課題研究」「ゼミナール制」はそのように一応の裏付けがあって進めてきたものなのです。生徒には気づかれにくい学校のシステム作りの更にその背景となっている裏付け作業の話でした。
 学校作りにはこれまでの教育の貴重な蓄積が必要です。でも未来の学校を作るのならば、ある程度でも教育活動の裏付けが必要なのではないかと思っています。過去の英知はうまく取捨選択して、未来につながる新しい良い取組みをしたいと思っています。


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