ふたつの星

恋って面倒ですね。
生きるって複雑ですね。
嫌いなあの子が大切な友達になったり苦手な店員さんが仲のいいお客さんになったりする。
好きで好きでたまらない彼からのたった一言に泣いたり笑ったり悲しくなったりしてる。
大好きも愛してるも惜しみなくその愛しい声で届けてくれる彼からのお休みのあとに大好きの一言がついていない日ってだけでこんな文章を書き残しちゃうあたしが一番面倒ですね。
あたしが若くて無知で馬鹿な女の子の頃に起こったあの憎たらしい事件のせいで子供が産めなくなったことを彼が知ったら幻滅するでしょうか。
不思議でどうしようもないあたしの病気のことも過去もまだなにも知らない彼に愛されている今のあたしは本当の意味で愛されているのでしょうか。
涙が出るほど好きな人にあの冷たい目を向けられる日がいつか来るのでしょうか。
幸せで満たされていて不安で怖くて寂しいこの日々は一体いつまで続くのでしょうか。
ずっとあたしのことを好きでいてねって抱きしめてやりたい気持ちと早くあたしを嫌いになってよって突き飛ばしてやりたい気持ちが混在するこの心がもうすでに彼のものになっているのが可笑しくて笑っちゃいそう。
アスファルトに寝転がってお互いの過去をぽつりぽつりと話しながら見上げた星空も流れ星も朝日が昇ってオレンジが差す空も朝焼けでピンクに染まる雲も全部友達との素敵な思い出になったのに隣にいるのがもしあなたならもっと、なんて思っちゃうあたしは残酷かもしれませんね。
彼女たちのおかげであたしは笑って過ごせているのに彼のことばっかり頭にあるのはどうしてでしょう。
自立したもの同士で余裕のある落ち着いた恋愛がしたいなんて言っておいて中学生みたいな恋愛をしているのはどうしてでしょう。
だけど、どこに行ってもだれといても夢の中ですらあなたのことばかり考えているあたしのこの溢れんばかりの愛情を注ぐ先があなたでよかったと心の底から思うのです。
あなたのいびきも赤子みたいなふにふにのほっぺたも暑すぎるくらいの体温も全部あたしだけのものでいてほしいの。
あたしのわがままを仕方ないなって聞いてくれるのも休日に夕方まで寝ているあたしを外へ連れ出すのも朝起きて一番におはようを言うのも全部あなただけにしたいの。
何度伝えてもどれだけの言葉を尽くしても足りないくらいの好きが溢れているのに愛してるって言わないあたしから離れないでいてね。
本物の星空を見に行くのはきっとまだ先だからこの部屋の星柄のカーテンで我慢してね。
まだ完璧じゃないあたしの部屋が少しずつあたし色に染まっていくのを一緒に見てね。
そこに少しずつあなた色が入っていくのにもちゃんと気付いてね。
そうやってだんだん混じってこうよ。
美味しいものを食べたときの顔も笑ったときに潰れる目も左頬にだけできるえくぼも匂いや癖や体温も全部ちゃんと覚えて。
いつか消えてなくなっちゃうあたしたちだけど何光年も先からいつかの瞬きを届ける星みたいにずっとずっと後まで消えない記憶を残して。
きっとまたあたしの腕に増える墨色の絵にあなたの面影を残したいから簡単に離れちゃ嫌よ。
あたしの体が得体のしれないものに蝕まれて鼓動が止まってしまう時にもきっと隣りに居て。
あなたの愛がどれほどか証明して。
あたしの愛がどれほどかも証明してあげるわ。
だから決して短くない時間を頂戴ね。
大好きよ。
まだ愛してないけど。ね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?