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紅白歌合戦2020-JUJU待ちの私と約束のヒール

 一つ一つの音楽が胸に迫る。こんなことって今まであっただろうか。こんな年だったからなのか。自分の心が色々な思いをキャッチするようになったからか。昨年より、自分に少しは想像力が備わったからだろうか…。

 昨年末の紅白歌合戦。コロナ禍で史上初の無観客で行われた。年末の風物詩も、抜本的にスタイルを変え、何とか開催にたどり着けていたような気がする。どういう風になるのか、と思いながら観ていたが、極力人と人の接触を避けたせいか、歌を聴かせることに主眼が置かれており、一つ一つを堪能出来てとても良かった。

 私は何といってもJUJU待ち。JUJUの歌声が聴きたくて、ネットで曲順を確認しながら彼女の出番を待った。

 彼女はあの日の約束通り、ハイヒールを履いて登場した。紅組だけど白の帽子、白のパンツに白のヒール。女の私から見ても相変わらずかっこいい。

 JUJUは緊張しているようだった。歌前の司会者とのやりとりでは少し声が震えていたようだし、大泉洋に「代わって欲しいぐらい」と言った。この場まで来て「代わって欲しい」って、本当に自然体な人だなと思った。嘘のない人だと思った。嘘のない人から出た言葉は「少しでもやさしさをちょっとでも届けられたらいいなと思って今日は馳せ参じました」。デビュー17年。紅白に馳せ参じた謙虚な人がそこにいた。

 歌唱曲は「やさしさで溢れるように」。春馬くんファンの皆さんは、「これは泣いちゃうな」と思っただろう。現に私もそう思った。春馬くんの姉のような人が、あの歌詞を、やさしさを伝えるように歌ってくれるのならば、そこにはその思いを受け取って流す涙があるに違いなかった。

 すると歌の直前、うちの母が言う。「JUJUは春馬を思いながら歌うんかな」。母上、歌前に言う言葉としては実に反則であるぞ。実際のところ人の気持ちはどうかわからないけれども、きっとJUJUは思い出さずにはいられないだろうし、春馬くんファンも思い出さずにはいられないだろう。私自身もそれを口に出すと、春馬くんがいないという現象が輪郭を帯びてしまうから敢えて言葉に出さなかったというのに。

 でもな、あの夏以降、うちの母がそういうことを言うのは初めてだったのだ。私が「春馬くんが、春馬くんが・・・。」と言っても、淡々と次の2つだけを返して来た。「この世界に(春馬くんが)飲む水がなくなってしまった」、そして「人より(身も心も)美しく生まれすぎた」。悲しくてやりきれない私に、同列に感情で返さず、冷静にその2つを繰り返した。そうやって落ち込む私を諭していたのか、と大晦日になってようやく気づいた。

 さて、JUJUの歌は猛烈に胸に迫った。あんなに歌前のやり取りでは声が震えていたのに、歌になったら持ちうる感情を全て爆発させたのかというくらい、JUJUは心で歌っていた。JUJUを取り囲む円を描くように設置された数多くの棒の上にはライトが光り、まるでキャンドルのように見えた。春馬くんに、JUJUがここで歌っているよ、と空からでも分かるように照らしてるんじゃないかと思えたりもした。やっぱり、JUJUの歌声を聴きながら春馬くんを思った。

 JUJUは歌い終わって、涙をこらえているような気がした。そうだろうな。私だって泣きそうだよ。でも私も泣くのは我慢した。泣くより笑顔で年を越さねば春馬くんに笑われてしまう。春馬くんが教えてくれたように口角を上げて元気に新しい年を迎えなければ、そんなことを思った。

 JUJUの他にも素敵な歌をたくさんのアーティストが伝えてくれた。MISIAは圧巻だったし、大好きな郷ひろみ(1回ライブに行ってから大好きです)や玉置浩二(1回ライブに行ってからリスペクト)も素晴らしかった。特に玉置浩二はオーケストラバージョンで、ベートーヴェンの交響曲第6番「田園」のパッセージをはさみつつ「田園」を披露しており、オーケストラとの巧みな掛け合いが素晴らしかった。玉置浩二の「田園」ってこんなに元気が出る曲だったか、と少し驚きだった。そしてその歌唱力と音楽の持つ力に心が震えた。

 年が明けて、私は一番にディズニー映画の挿入歌「A Whole New World」をダウンロードした。紅白で二階堂ふみと氷川きよしが歌っていた曲だ。そして記憶を遡ると2019年の紅白で木下晴香と中村倫也も歌っていたのだ。その時に、中村倫也の歌のうまさと、木下晴香の透明感あふれる高音に癒されたのを思い出した。どうせならばとこの2人のVerのものをダウンロードした。

 聴きながら、ああ、春馬くんにも歌って欲しかったな、と思った。あの高音で歌われたら、思わず、魔法のじゅうたんでさらってくれ、って思っちゃうだろうな(笑)。でもダメダメ。もうそういうループから抜け出さないと。この曲のタイトル通り「A Whole New World」=未知なる世界を見るための一歩を踏み出さないと。それは決して春馬くんを忘れるとか、横に置くとかそういうことではない。春馬くんの素晴らしさは素晴らしさとして、それを携えながら、生きていく上での心の栄養を、未知なる世界からすくいあげて前に進んでいくということ。そしてこの世の中に、一筋の光と夢を求めるということ、そういうことに他ならない。

 私の地域は年明けと3連休、大寒波に見舞われた。雪かきしては翌日には同じだけ積もり、また、雪かきをするという無限ループに陥った。除けた雪の同じ分だけ降った翌朝は絶望した。スノーダンプで痛めた膝は腫れあがった。そんな中でも、助けてくれる人はいるし、応援してくれる人もいる。雪の轍に車のハンドルが取られて焦って泣きそうになったけど、車の中ではNight Diver や A Whole New World が音楽の力を見せつける。あれ?年明けから、ガックリからの光とか早速感じているじゃん、私!と思った。意外に小さな光はあちこちにあるのかもしれないな。今までそういう感覚が薄れていたのかもしれない。今年はこんな調子で小さい光を見つけていきたいと思っています。