見出し画像

Seattleへ。(3)

犬の様子が急変していった時期、私の心も、不安定になっていった。
仕事どころじゃなくなってしまっていて
犬の生活に合わせて眠れなくなっていたのも辛くて
1週間、病院に預けた。

自分の気持ちを落ち着けるために
体を休めるために。

最後の週末。
(もちろん、その時は最後だなんて思っていなかったけど)

2日前に病院から戻ってきたばかりだったウチの子は
週末を平和に暮らした。
少し調子は悪そうだったけど、昼頃には回復して
その日たまたま母が来ていたから
母の匂いも嗅いで。

犬用に作った野菜スープにドックフードの
ご飯をたべて
排泄もしっかりして
夜、一緒に寝た。
幸せな夜だった。

次の日。月曜の朝。
一緒に寝ていたはずの私のベッドではなくて
自分の小屋に戻って、静かに寝ているように見えた。

でも本当はもうひどくぐったりしていて
前夜まで食べていたご飯も、水すらも飲めなくなり
動けないのに発作が起きた。
耳の中も、下も白い。
開業時間開始とともに病院へ向かいたい。

動けないから、もうキャリーケースに入れることはできなくて
タクシーでどう連れて行くのかを必死に考えて
巨大なIKEAの袋にマットをひいてその中にいれて連れて行った。
タクシーの中で、サングラスの下で、涙があふれた。

病院でお医者さんに別室に連れて行かれるとき
それまで寝ていたのに
ふっと起き上がって
IKEAの袋の縁から
こちらを見た。

置いて行かないで、一緒に帰る。
と言っているような目だった。

その日は会社を休んだ。
疲れたなとおもって
病院の近くのスタバでコーヒーとケーキを頼んで
腰を下ろして一息ついた。

コーヒー、入れっぱなしで出てきちゃったことを思い出す。
やかんの水に火を入れて
そのあと、
火を止めたかどうか記憶がなくて
慌てて席をたち
持ち帰りの袋にコーヒーとケーキをいれてもらって
電車で帰った。

火は、ついていなかった。
コーヒーとケーキを食べて
泣いた。

夕方、お医者さんに電話をしたら
薬を注射して食欲ももどっているから連れて帰れるということだったけど
心配で1日様子を見てほしいと頼んだ。

翌日は在宅で仕事をして
夕方、病院に迎えにいくことにした。

しっかりしなきゃ
やさしくしなきゃ
仕事に集中しなきゃ
お金を工面しなきゃ
仕事で認められなきゃ
もうだめだ
泣いてちゃだめだ

もうずっと
泣いてばっかりで
惨めな人生に自分で自分を追い込んでいることに気がつき
大切なものを失ってしまうかもしれない恐怖で震える心と手を
深呼吸して、なんとか息をして

こんな状態はだめだ、変えよう

そんな決意をして、病院に犬を迎えにいった。

ウチの子は力のない目で、でもちゃんとおすわりをして診察台の上にいた。
脚がむくんでいた。少し、息も荒いように思った。
またIKEAの袋にいれて、タクシーで家に帰る。

タクシーの中ではずっと横たわって
息が苦しそうだった。

家に着いたら
ウチの子はもう起き上がることができなかった。

身体を伸ばせたほうがいいかなとおもって
2日前に届いた新品のクッションの上に横たわらせて
その傍らで私は仕事をした。
ぼーっと部屋の中とか外をみて過ごしていた。

なにかしたそうに
目でうったえてくる。

水かなとおもって水飲み場に連れて行っても
もうぐにゃぐにゃの体で、どこにも力が入らないようだった。
クッションに横たわらせてストローで水を飲ませた。
舌を湿らす程度の水。
薬を無理やり舌の上に乗せて、なんとか飲んでもらうようにした。

うっ

と何かをいいたそうにする。もう声は出ない。
起き上がりたいようだった。

療養中、薬のせいで興奮して動き回っているときでも
抱っこすると少し落ち着く様子を見せたから
だっこをした。

そうしたら、
息をしなくなった。

一瞬のできごとだった。

待って、待って、待って。
抱きながら話しかけるけど
反応は、もう、なかった。

震える手で
なんとか電話を手にして、必死になって
泣きながら、お医者さんに電話をかけた。

(ヒトは、パニックになると電話をかけられない。番号も探せない。)

気絶しただろうから痛みもないし、
鼓動はまだ聞こえると思うけど、
もう苦しくないはずです、と。

まだあたたかい胸に耳を当てると
とくっとくっと
音がした。

最後に痙攣をして、
動かなくなった。
力のなくなった身体の証拠のような
排尿。

静かで、やわらかい顔だった。

家に帰りたかったんだと思います。
私を待っていた。
いつもより早くお迎えにきてくれて、よかった。

お医者さんはそういったけど、
私は、混乱する頭で

それでも いきてくれているほうが いい

と思った。

この記事が参加している募集

#自己紹介

232,502件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?