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「毎日の歯磨き」から全身の健康へ 新たな疾病予防を目指すNOVENINEと第一生命の挑戦

Plug and Play Japanのプラットフォームを通して出会った第一生命保険株式会社(以下、第一生命)と、株式会社NOVENINE(以下、NOVENINE)。両社は先進テクノロジーと歯科治療を融合させた新たな取り組みを目指し、およそ1年にわたる協議を経て、浜松市が主導する官民連携プロジェクト「浜松ウエルネス・ラボ」*のフィールドにて、社会実証研究を実施することになりました。
今回、NOVENINE 代表取締役社長兼CEOの竹山氏と、第一生命 Dai-ichi Life Innovation Lab アシスタントマネジャーの吉村氏に、協業のきっかけや、協業するうえで感じた課題、今後の展望についてお話を伺いました。

*浜松市は2020年から、人生100年時代を見据えた持続可能な都市づくりとして「予防・健幸都市」の実現に向けた官民連携プロジェクト「浜松ウエルネスプロジェクト」を開始し、その一環として「浜松ウエルネス・ラボ」ではさまざまな企業が浜松市のフィールドで社会実証事業等を実施しています。


【プロフィール】

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オーラルケアは、将来的な重大疾病予防につながる

濱田:
NOVENINEは口臭測定電動歯ブラシ「SMASH」を提供していますが、口臭から何が分かるのでしょうか。

竹山氏:
口腔の疾患は、全身の疾患と結びついています。例えば歯周病は、動脈硬化症や心筋梗塞、早産・低体重児出産、糖尿病などさまざまな全身疾患と因果関係があることが明らかになってきています。
全身疾患を予防し健康寿命を延ばすためには口腔健康を保つことが重要ですが、歯周病や虫歯のほとんどは早期段階で自覚症状がないため、治療のタイミングを逃してしまいがちです。

先進国では歯科医師や医院などさまざまな口腔インフラの機能や制度が充実していますが、日本は社会保障は整っているものの、欧米諸国に比べて予防習慣が確立されていません
その背景には、予防習慣につなげられるような充分な情報が得られないため危機感を感じられず、日々の行動に紐付けられていないことが考えられます。
早期に適切な情報を得て適切な治療を受けていれば、年齢を重ねても健康な歯を維持することはできます。

5月末に販売を開始した「SMASH」は、歯磨きという日々の習慣から口腔内状況が可視化でき、適切な情報を得られることで人々の口腔に対する意識を変え、行動変容へとつなげたいという思いから開発した製品です。

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NOVENINEは「歯科医療を通じて予防医療をアップデートする」をミッションに掲げ、2021年5月末に世界初の口臭が測れるスマート歯ブラシ「NOVENINE SMASH」の販売を開始した。

濱田:
第一生命は、以前からオーラルケアに着目していたのでしょうか。

吉村氏:
第一生命グループでは従来、結婚や出産などのライフイベントなどをきっかけに、お客さまやご家族の病気・ケガへの経済的な保障を中心に提供してきました。しかし、人生100年時代を迎え、医療やさまざまなテクノロジーが進歩する中、生命保険に加えてQOL(Quality of Life=生活の質)の向上に資する、もっと日常に寄り添った価値を提供できるのではないかと考えるようになりました。
そこで当社グループは、事業領域を4つの体験価値(保障、資産形成・承継、健康・医療、つながり・絆)へと拡げ、人々が将来にわたって安心して、豊かで健康な人生を送れる“well-being(幸せ)”に貢献できる存在を目指すことをビジョンに掲げました。健康・医療の領域ではデジタル技術に強みを持つスタートアップなどとの協業を加速し、健康増進・疾病予防に貢献するサービスへの挑戦を始めています。

その中で、オーラルケアは生活習慣病の予防の一つとしてかねてより注目していました。例えば、ご高齢の方は口腔内の健康が崩れると、ドミノ倒しのようにQOLがどんどん下がってしまうことが指摘されており、これは「オーラルフレイル」と呼ばれます。予防するためには若いうちから適切な「口腔ケア」を行う習慣を持つことが必要で、お客さまの将来にわたるwell-beingに貢献するため、当社として見逃せないテーマの1つでした。


ゼロからマーケットを作る苦悩。未来を開拓する鍵は担当者の熱量

濱田:
オーラルケアに特化したサービスを提供している企業は他にもあるように思いますが、今回NOVENINEと協業にいたるきっかけは何だったのでしょうか。

吉村氏:
Plug and Play Japanのスタートアップピッチに参加した際、“口が臭い”というなんとも身近な切り口で発表されていたNOVENINEに目が留まりました。「口臭」という多くの人に刺さるキーワードの訴求力と、「歯磨き」という日常行動に紐付いたプロダクト&サービスの独創性に惹かれ、思わず声がけさせてもらいました。

オーラルケアは、重大疾患(がん・心筋梗塞・脳卒中など)の予防にもつながる重要な日常生活行動であり、毎日丁寧に歯磨きをし、定期的に歯科健診に行くことが理想だと言われています。オーラルケアの重要性が明らかになってきている一方で、これまでの行動や習慣を変えることは難しく、歯科健診も普及が十分とは言い難いのが現状だと思います。お客さまの日常に寄り添うようなアプローチを当社が模索する中、歯磨きという身近な習慣をきっかけに健康課題を解決していくNOVENINEのコンセプトや熱い想いに惹かれました。

濱田:
NOVENINEにとって、保険業界と協業するうえで感じたメリットとは何でしょうか。

竹山氏:
現在の健康保険制度の構造が時代と合っていないという点について、以前より課題に感じていました。医療費が増大している中で、2025年問題後、2040年になる頃には、民間保険に切り出していかなければ国自体が破綻するような状況がくると思います

歯科治療の選択肢として、セラミック治療など自由診療で払っている金額を他国のように民間保険でカバーできれば、大きな変化をもたらすことができます
また糖尿病や関節リウマチなど、生活習慣病をカバーしている保険の付帯サービスとして含めることも可能だと考えています。

濱田:
数ある生命保険会社から、なぜ第一生命と協業しようと思ったのでしょうか。

竹山氏:
多くの企業と協業可能性を探りましたが、情報を提供したものの話が進まなかったり、歯科のマーケットポテンシャルが不明ということで頓挫したりすることも多々ありました。
そのような中で、第一生命は私たちと膝を突き合わせて同等の立場で話をしてくれ、約1年をかけて両社のやりたいことや、現実的に出来ることを擦り合わせていきました。
このプロジェクトは、歯科に関連する保険が未だ整備されていない中で、ゼロからマーケットを作っていくと共に、日本の医療経済にメスを入れられるような重要な取り組みだと捉えています

濱田:
やはりマーケットが開拓されていないと賛同や理解も得られづらかったわけですね。

竹山氏:
ヘルスケア系のピッチコンテストであっても、「本当に歯周病と全身疾患は相関があるのか」という質問を多くもらいました。私たちにとって、口腔疾患と全身疾患が密接に関連していることは当たり前の概念ですが、根拠を示すエビデンスやファクトを踏まえながら、周りの理解を獲得していくのに苦労しました。

実際に商品ができるまでは、「本当にできるのか」「それを実現できるマーケットがあるのか」など、取り組む以前の話になってしまうことが多くありました。さらに、保険業界の特性上「とりあえず出してみて様子を見る」ということもできません。

また担当者によっては、人事異動や上司に言われてご担当されている方もいるので、どうしても取り組む熱量にばらつきはあります。プロジェクトを前に進めていくうえで、担当者の熱量というのは非常に重要だと痛感しました。
スタートアップとしては藁をも掴む思いでアプローチしている中で、スタート時点では双方の目的が一致しているように見えても、進めていく中で大手企業側の考えが見えず、守りつつも積極的な姿勢を保ちながら進めていくことに非常に難しさを感じたこともあります。
そのため真摯に対応していただける大手企業に関しては、安心感をもって将来の協業を含めたPoCを考えていけるので、第一生命との出会いは非常にありがたく感じます。

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濱田:
大手企業側として第一生命では、協業を進める上で感じた課題はありますか。

吉村氏:
保険商品を開発する場合、信頼性の高いエビデンスと膨大なデータが必要になります。一方、歯科の領域ではそのようなデータが十分ではなく課題だと感じました。しかし、第一生命はグループ内にヘルスケアサービスを提供している会社もあるため、保険商品に限らず新たな価値提供に繋げることができます。まずはPoCというかたちで協業することで、当社グループとしてオーラルケアサービスの可能性を探り、次のステップへ繋げることを考えました。

データだけで人は動かない。”仲間集め”には共感と泥臭い行動力が重要

濱田:
PoCを進めていくうえで、社内の協力者を得られるまでに苦労されている担当者も多いように思います。どのように社内の理解を得ていったのでしょうか。

吉村氏:
担当者ベースで協業による価値創造の可能性を感じたとしても、社内関係者に理解されないことは多々あります。
本件についても、複数の部署へ説明してまわり、オーラルケアを切り口とする協業可能性を共有するとともに、ニーズ・課題の洗い出しを行いました。共通認識ができていない新たな領域では、さまざまな立場の意見を丁寧に集めることが大事ですし、担当者の熱量を伝えることが重要だと考えています。また、関係者に共感してもらえるよう、試作段階のプロダクトに触れてもらい、サービスを体感してもらうことを大事にしています。
今回のNOVENINEとの取り組みをきっかけに、同じ思いや考えを持った社員が複数の部署にいたことが分かり、大きく背中を押されました。

“仲間集め”に加えて重要なのは、プロダクトやアプリなどを試用いただくPoCの参加者をどのように募るかです。
当社のPoCは社内関係者やお客さまを対象に実施することが多いのですが、今回のPoCは不特定多数の幅広い利用者を対象にしたかったので、浜松市の社会実証事業のフィールドを通じて参加者を募らせていただきました。浜松市では歯周病健診の受診率低迷という課題があり、自治体や専門家の方々が口臭を切り口とした先進的な取り組みにご賛同いただいたことが大変ありがたかったです。

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濱田:
データだけでは人を動かす要素にはならず、ひたすら泥臭く行動を起こし、共感した思いを育ててもらうことが大切ということですね。
最後にお二人のビジョンについて教えてください。

竹山氏:
大きなビジョンとしては、日本における口腔に対する意識を変えていきたいと思っています。そのうえで短期的には3つビジョンがあります。
まず1つ目は、5月末にローンチした「SMASH」の認知と販売経路拡大です。
「SMASH」を起点に、消費者が継続的に利用できるようなサービスも提供したいと考えています。

2点目が、口腔ケア領域のカルチャー醸成です。
現代は変化が激しいため、当社が提供するサービスを通して、口腔ケア領域で新たなカルチャーを加速度的に作っていきたいと思っています。
新たなシステムを歯科医院に導入するだけでは大きな変化には繋がらないため、歯ブラシやフロスといった日常的に使用するプロダクトを再定義し、新たに開発することで、スタートアップとして大きなインパクトを与えていきたいです。
また、お客様が良い歯科医院に出会えるような、歯科版ミシュランのようなサービスも作れたら面白いなと思っています。

最後は、保険領域における歯科保健のイノベーションです。国内で民間の歯科保険ができれば非常に大きなゲームチェンジャーになります。口腔ケアを切り口に、健康維持・促進ができるような保険サービスをつくっていきたいと考えています。

吉村氏:
まずは当社として、お客さまのwell-beingへの貢献というビジョンのもと、口腔ケアを切り口にどのように日常に寄り添い、どのように将来にわたって貢献していけるかを、PoCを通じて研究・検討していきたいと思います。保険会社の本領である保険商品も視野に入れつつ、今回のPoCをwell-beingへの貢献に向けた新たな価値創造への第一歩にしたいと思っています。

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