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英語を読めない私が読むようになった、15年ぶりの運命の再会~大好きだからこそ、ずっとそばにはいられないこの想いを5,000字で語ってみた~

その出会いは、突然だった。
10年ぶり、いや15年ぶりかもしれない。
昔、ずっとそばにいた。大好きすぎて、他のものが手につかないぐらい。だから手放したのに、15年の時を経て、また目の前に現れた。


☆★☆

その日は、偶然にも、10分ほど完全フリーな時間が出来た。子どもが生まれてから、完全フリーな時間というのは本当に少ない。我が家はチーム育児を導入しているので、自分の自由時間を週末に確保しているものの、その時間はTo Doをこなすことが多い。作りおきの料理を作る、平日掃除できていない細かい部分を掃除する、来週からの仕事に備えて準備をする、勉強をする…などなど。どうしても、自分の自由時間には、やるべきことの予定を入れてしまう。

だけどその日は違った。偶然だったからこそ、ぽっかり完全フリーな10分間が出来た。特に何かすべきという予定も入れていない、完全フリーの10分間。

だからだろうか。私は久しぶりに、町の本屋さんに足を踏み入れた。本当に久しぶりだった。目的もなく本屋さんに行くなんて、何年ぶりだろうか。吸い込まれるように、本屋さんへ入っていた。特に何も考えていなかった。何かを読みたいとか、この本を買いたいとか、そういうのもなかった。ただ自然に「10分あるなら、久しぶりに本屋さんに入ってみようかな」、そういう気分だった。

本屋さんに入ってすぐのところに、本が積んであった。本屋さんが作ったであろうポップが並んでいるその場所で。ある本の表紙がこっちを向いていた。その本の名前は。

宮部みゆき『火車』



思わず声をあげそうになった。


なぜなら、私にとって特別な本だったからだ。


私が初めてこの本を読んだのは、中学2年生の時。そして中学高校時代、何十回、何百回と読んだ小説。大好きで大好きで、あまりにも読みすぎて、本はボロボロになった。そしてあらゆる描写を覚えた。終わりはもちろん、始まりも。そしてその他のシーンも。

この小説をきっかけに、当時中学生だった私は、宮部みゆきワールドにはまった。『魔術はささやく』『レベル7』『蒲生邸事件』『龍は眠る』『理由』『模倣犯』…宮部みゆきのミステリーを読みつくした後は、時代小説も読みあさった。正直、時代小説を読むのはあまり得意ではなかった。それでも、宮部みゆきの時代小説は別格だった。例えば、『幻色江戸ごよみ』の【神無月】は、是非とも一度読んでみて欲しい。読んで20年以上経った今でも、その話を覚えている。そして神無月になると必ず思い出してしまう。切ないような、なんとも言えない気持ちになったのを、今でも覚えている。

※ 少しあやかしが出てくるので、そういうの苦手な人にはおススメしづらいです。が、ホラーがめちゃくちゃ苦手な私でも、すっと読めました。というか、背中ぞくぞくはするのですが、それ以上に人の悲哀を感じられる作品です。短編集なので、サクッと読めます。




そしてそんな宮部みゆきワールドにはまった私が、何十回も何百回も読んだのが『火車』だった。とはいえ、最後に読んでから15年ほど経っている。なのに。その本が、今まさに、目の前にあったのだ。




でも、私がこれを読んだのは、中高時代。つまり約20年前だ。20年前の本が、なぜここに…?

もっと言うと、この本が出版されたのはさらに前だ。単行本が1992年7月、文庫本が1998年1月。今は2022年。20年以上も前に出版されたこの本が、なぜここにあるのだろうか?本屋さんの入口近く、つまり本屋さんのイチオシの本が並んでいるであろうここに。しかも、表紙を向けて。背表紙ではない、表紙を向けて。

これを、運命の出会いと言わずして、なんと言おうか。


本来であれば、すぐに買っていただろう。
だけど私は、迷っていた。
この本が大好きすぎて、本がボロボロになるまで、何百回と読んだことを思い出したから。
たとえ試験前であっても、ずっと読んでいた。
ハマるとは、そういうことだ。


今この本を買って、また同じことが起きない保証があるのか?
読みふけってしまわないという保証があるのか?


否。

読みふけるに違いない。

この本は大好きだ。だから買って手元に置いておきたい。
でも。
そうなると見えている。
この本をまた、何十回何百回と読んでしまう未来が。
この本を読んでいると、時間が溶ける。
今の私に、そんな余裕はないはずだ。

この本をそばに置いてしまうと、絶対読みふけってしまう。もうその映像がありありと思い浮かべられる。

だから、買わなかった。


☆★☆

という話をその日、夫にした。

夫「なんで買わんかったん?買えばいいのに。」
私「だって買ってもたら、絶対読むやん。読みすぎるねん。好きすぎて。その本を読んでたら、時間が溶けるねん。そうなるのが目に見えてるから、買われへんかってん。」

そしたら、夫が言ったのだ。

「時間が溶けるって、それが趣味ってもんでしょ。」


おぉ!確かに!!!
「これやらなきゃ」とか「これをやったら自分のタメになる」とか、そういうの全部抜きにして、ただ、好きだからそれをする。没頭する。それが趣味ってもんじゃないか。

改めて、そう思った。

とは言え。私はまだこわかった。
没頭してしまうことに。

☆★☆

その数日後。
夫が図書館へ行くことになった。
我が家は2週間に1回、図書館へ行く。
借りている娘の絵本を返却し、また新しい絵本を借りにいくために。
いつもは娘と一緒に行くのだが、その日娘は発熱していたので、夫だけが行くことになった。

思わず言った。
「宮部みゆきの火車、借りてきて。」

夫はニヤッと笑った。
「あ、やっぱり読みたいんや」と言わんばかりに。

そして図書館に行った夫から、ラインが届いた。
そこには、こう書いてあった。

火車はない、なぜか英語版ならある、と。

迷った。

火車なら、英語でも読むかもしれない。
…かもしれない…
読まないかもなぁ。
でも、読んでみないと分からないじゃんね。
だから、一歩踏み出そうと思った。

「英語版借りてみてもらってもいい?」と返事したのは、1分後だった。

ということで、英語版を借りてきてもらった。
これが、それ。じゃじゃーん!

まさかの英語!!!
ってか、英語の本があったとは、知らなかった。世界中で読まれているかと思うと、これまたとても嬉しくなった。


誤解しないで欲しいが、私は英語力がない。私の英語力のピークは、17歳~22歳あたりである。つまり、高2~大学卒業ぐらいまでだ。受験英語と授業での英語バンザイ。

社会人になってから、仕事で英語を使う機会は一切なかった。たまに行くプライベートでの海外旅行は、ジェスチャーで乗り切った。

それでも。
好きな本なら。この、宮部みゆきの火車なら。
英語でも読んでみたいと心から思った。

正直なところ、少し下心もあった。
日本語なら、読みふけってしまう。沼にはまってしまう。
でも、英語なら。読むのが大変だから、ある程度のところで切り上げられるんじゃないかなって。もしくは、あまり読まないんじゃないかなって。だって、英語の本なんて、中学高校大学などの授業で読むぐらいで、社会人になってから一度も読んだことがないのだ。というか、今までの人生、授業で必要な時以外、英語の本を一切読んだことがないのだ。30年以上。


手元に本があるので、娘のお昼寝中に、読んでみた。軽い気持ちで。5分ぐらいかなって気持ちで。

そしたら、最初の1ページを読んで、すでに沼にハマった。「そうそう、これ!」「あ、この表現は英語になるとこういう表現になるんだ!」の連続。

なにせ、大好きだった本だ。本の内容はだいたい覚えている、しかも詳細に。英語の意味が多少分からなくても、読めてしまうのだ。

印象に残っているシーンを、まるで答え合わせをするかのように、何度も読んでしまう。

大好きなシーンを、一部載せます。
ここのシーンだけで、半日は話せると思う。誰かとお茶でも飲みながら語り合いたいぐらい。

「死んでてくれ、どうか死んでてくれ、お父さん。そう念じながら喬子は頁をめくっていたんですよ。自分の親ですよ。それを頼むから死んでいてくれ、と。僕には我慢できなかった。その時初めて喬子のそういう姿を浅ましい、と感じてしまった」

“I'll never forget it”said Kurata, starating outside at the rain.
ー中略ー
’Please be dead, Dad, please be dead’ Her own father! It shocked me to the core… That's when I saw what sort of person she really was. And something burst inside me.”

宮部みゆき『火車』
”ALL SHE WAS WORTH" p227☆23

日本語と英語とで、微妙にニュアンス違いますよね。
この後もとてもいいのですが、長くなりそうなので、ここで切ります。

他にもこんなシーンとか。

「放火だ」
Arson.

これだけ読むと「は?」って思うのでしょうが、私にとってめちゃくちゃ印象深いシーンなんです。

他にも。
ここから先は、ネタバレもあるので、まだ読んでいない人は読み飛ばしてください。

Honma looked up from Shoko's date. Suddenly, he'd seen something. It was as if all the energy he'd used up looking for her all this time had ignited, rising ina a thin but steady fleme.
"What is it?" Wada said.
Shoko Sekine hadn't been Kyoko's first choice. Honma could have kicked himself.

”ALL SHE WAS WORTH" p281☆27

うわぁー、あの名シーンが英語に!英語だとかなりシンプルな印象です。全体的に、英語だと日本語よりシンプルになっている気がします。
あと、かなり最初ですが、このシーンも印象的。

A 180° turn…between January 25 and April 20,1990.
No, impossible.
ー中略ー
Like a different person…in a very short time.
ー中略ー
In any investigation, what was the first thing you absolutely had to do? Get a positive ID. ー中略ー
Do the name and the face match up?

”ALL SHE WAS WORTH" p50☆5

は!
書評の部分は、思わず丁寧語になってしまった。


英語版にも関わらず、読みふけった。
スキマ時間が少しでもあれば、読んだ。
通勤時間も読んだ。
296ページあるのに。

そして今、気が付いた。
この本を借りてから今日でなんとまだ3日目である。
うそやん、まだ3日目??
いや、祝日木曜日の午後から読み始めたので、実質まる2日だ。
まだ2日しか、この本を読んでいないの?

…と思うほどには、読み込んでいる。
英語を読めない私が。

大好きな本だと、言語関係なく読みたくなる、というのは新発見だった。韓流好きな友人が、韓国語を習い始めて、韓国語ペラペラになったことを思い出した。今ならすごく理解できる。それほど、好きという力は大きい。

これが世間一般で言われている「推し」のチカラなのか!!


15年ぶりに出会ったその本は、今、英語版となって私のそばにいる。
買うかどうかまだ迷っているけれど、英語版をすべて読んだら、日本語版を買ってもいいかなぁ。あぁ、でも沼にハマるのが見えてるんだよなぁ。

これからバタバタの一ヶ月半がくる。
来月9月は期末、仕事は今まで以上に頑張るべき時期になるし、プライベートではピアノの発表会もあるからピアノも練習したいし…だから読書の沼にハマっている時間はないはず。はずなんだけど…

むしろ、英語版を買おうかな!?
いや、日本語版と英語版と両方買うという手もありかな!?

好きすぎて、買うかどうか迷う日がくるなんて、思わなかった。
あぁ、どうしよう。
そう思いながら今日も私は、英語版を読みふけっています。

(5,224字)


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