実録!モラハラサバイバー5

モラハラはいつ始まるのか

 思い返せば、まだ彼氏彼女だったころ。
夏休みに北海道旅行に行ったことがある。カーフェリーで、彼の愛車パジェロと共に。約1週間かけて、北海道をぐるりと一周する旅だった。
付き合って間もなくはあったが、お互い結婚を意識していたこともあり、長時間一緒にいることのお試し期間の様な雰囲気もあった。

 旅行はおおむね楽しかった。ただ、事ある毎に、「これ食べたら、また太っちゃうよ」「お尻大きい」「足太い」「大根足」「枝毛酷いね」「肌荒れが・・・」などの言葉を投げかけられ、行程の半分ほどで、私は少し疲れていた。
広大な北海道の道中で置いて行かれても困るので、札幌に入った時に、「ここからなら最悪自力で帰れる」と、意を決して彼に伝えた。
「あなたと一緒にいると、自分が少しずつ嫌いになる。もっと自分を好きになれる相手と付き合いたい」
後に触れるが、私は関係を終わらせることが最高に苦手だ。これだけのことを、ちゃんと言えた自分を褒めてあげたいくらいだ。
しかし、彼はそれを笑い飛ばした。
「考え過ぎだよ」
「ほんとにそんな風に思ってたら言えない」
「かわいいと思ってる」

 「おまえは橋の下で拾ってきた子だ」
今では聞かなくなったが、一昔前、いろんな家庭で親がこどもに言ったセリフだ。
私は、ずっとそのことが心に引っかかっていて、親子関係のわだかまりとして残っていた。
大人になって、あれは傷ついたと母親に言った時にも
「考え過ぎ」
「言った時の反応がかわいいからつい」
と、言われた。
私が気にし過ぎる性質なのかもしれない。逆にゴメンと、考え直し、札幌から1人で引き返すことはなく、そのまま旅は続行された。
でも、やっぱり後になって、これがモラハラの前兆だったと思い返す。
彼は、相手を貶して、貶して、「こんなダメな私でも、あなたは抱いてくれるのね」的に縋ってきてくれる関係が心地いいんだ。
外見、産まれ、育ち、家事能力、育児…色んな所で日常的にダメ出しをされ、私は少しずつ少しずつ、自分を損なわれていった。
一番身近にいて、一番自分を想ってくれているはずの人。そんな人から常に「おまえはダメだ」と呪文のように言われ続ける。それは気付かないうちに、自分の中の自己肯定感をすっからかんにする。
 思えば精いっぱいの気持ちを伝えた北海道で、彼は一言も「ごめん」とは言わなかった。モラハラは夫婦関係にヒビが入って始まるんじゃない。その人の気質、志向だ。
考え過ぎなんかじゃない。やっぱり自分を好きになれない関係は不健全だ。

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