見出し画像

農と食がめぐり続ける、やさしい世界をつくる「めぐるめくプロジェクト」記者発表会&イベントレポート【前編】

左から70seeds(岡山)・三菱地所(広瀬)・シグマクシス(田中)・ロフトワーク(宮本)

この度、これからの食と農を考える「めぐるめくプロジェクト」が始動しました。このプロジェクトは、三菱地所・ロフトワーク・シグマクシス・70seedsの4社と、これからの食産業や農業・水産・畜産業を担う地域の生産者や加工者等が、豊かな食や社会を構築する活動です。
 
食と農を通じて「やさしさ」がめぐる社会が作れないか、という問いを起点に集まった私たち。2022年9月29日に、キックオフイベントを東京大手町の3×3 Lab Futureにて行い、いよいよ活動スタートとなります。
 
当日は、宮崎県宮崎市と奈良県曽爾村の生産者に加えて、様々な角度から食と農に関わる方々をお迎えし、2部構成でイベントを行いました。前半は、主催者である4社と地域からの参加者がプロジェクトに込めた想いを語る記者発表会。後半は、生産や加工といったタベモノヅクリ(※)に取り組む生産者と多様な食と農の視点をもつ参加者が共に新たな食の価値創出を目指す交流会「めぐるめ倶楽部」を開催しました。

※タベモノヅクリ:めぐるめくプロジェクトで定義している「食の生産・加工」を表す言葉。食べ物+モノづくりの造語。

日本の食と農の未来は“明るい”と伝えたい

第1部の記者発表会は、三菱地所の吉村よりスタート。
 
吉村「三菱地所が開発を進める『(仮称)内神田一丁目計画』において、大きな役割を担うのが食と農の産業支援施設です。その施設を活動拠点とするコミュニティとして『めぐるめくプロジェクト』を立ち上げました。2025年の建物竣工に先立ち、全国各地の食農共創拠点や、共創の活動を推進する自治体とのネットワークを広げ、イベントなどを通じて同じ想いをもつ仲間を増やしていきたいと考えています」

三菱地所 プロジェクト開発部長 吉村

続いて、プロジェクトの発起人として中心で活動してきた三菱地所の広瀬より、まちづくりを生業とする三菱地所が、なぜ「食と農」に取り組んでいくのかなど、プロジェクトの背景も含めて説明しました。
 
広瀬「三菱地所は、これまでも地域と都市の有機的な関係づくりに取り組んでおり、なかでも、“食”は重要な役割を担っていると感じています。一方で、これまでの取り組みを経て、地域と直接のつながりを持つ重要性の高まりを感じ、今回のプロジェクトでは、地域における生産や加工といった食と農のバリューチェーンの上流にフォーカスを当てたいと思っています」

三菱地所 広瀬

話のなかでは、これまで「食糧の安定供給」を担ってきたバリューチェーンにおける、生産者と生活者の距離の遠さや分断を指摘。“食”は単純な栄養摂取という側面にとどまらず、コミュニケーションの手段や学びの機会としても大切な役割を担っている、と参加者に語りかけました。そして、その多様なニーズに応えるためにも、個別の地域や生産者、加工者との双方向のつながりが大切になってくる、とプロジェクトの根本にある視点を提示しました。
 
広瀬「食糧自給率の問題、フードロス、就農者の減少、世界的な食糧危機。私たちの暮らしのなかで、日々、食の課題が突きつけられています。こういった話題を耳にすると、私自身もひとりの消費者として『日本の農業には危機が陥っているのではないか』と不安になることもあります。ただ、今回のプロジェクトで地域をめぐって『本当にそうなのかな』と感じたのも事実です。食を通じて地域を元気にしたいという想いを持つ食と農のチャレンジャーは全国各地に存在しているし、そういったチャレンジャーをサポートする共創施設も全国に生まれつつある。より解像度高く地域に目を向けてみれば、『日本の食と農の未来は明るい』と感じており、その明るい“希望”を発信するプロジェクトにしていきたい」
 
ここに、プロジェクトの始動に向けて各地域との信頼関係を築いてきた広瀬の強い想いが、込められています。
 
私たちが『めぐるめくプロジェクト』を通して見据えるのは、産地の挑戦や食への好奇心の最高の伴走者となり、様々なプレイヤーと、前向きな変化をつくりだすこと。そしてその先にある、社会の幸せとひとりひとりの幸せが広がっていく世界です。

地域から見える景色、連携地域紹介

プロジェクト説明に続いて、今回地域から参加した宮崎県宮崎市と奈良県曽爾村の紹介に移ります。
 
まずは、宮崎市農政部・農政企画課の増元さんから、温暖な気候で豊かな食と農に恵まれた宮崎市の紹介がありました。きゅうりやピーマン、トマトは全国1位の生産量を誇る他、「やまいき黒皮かぼちゃ」や「佐土原ナス」などの宮崎市固有の伝統野菜などの資源も豊富です。
 
増元さん「宮崎市では最近、嬉しいニュースが続いています。まず、2023年5月に開催される先進7カ国首脳会議(G7)の農業大臣会合が、宮崎市で開催されること。そして今回、三菱地所とエコッツェリア協会と連携協定を結び、付加価値をつけた農作物や加工品づくりに取り組んでいくことです。大変光栄だと思っております。距離としては遠い宮崎ですが、このプロジェクトを通じて東京とつながれることを楽しみにしています」

宮崎市農政部 農政企画課 増元さん

宮崎で『MUKASA-HUB』を運営する一平ホールディングスの村岡さんからも、宮崎、そして九州全体が都市とつながる可能性をお話しいただきました。『MUKASA-HUB』は廃校をリノベーションし、ローカルベンジャーの拠点やカフェなどを併設。地域の寄り合いの場として活動してきました。これまでの活動に加え、今後はさらに「食」に力を入れていくと言います。
 
村岡さん「今回のプロジェクトをきっかけに、これまで以上に“地域の食の活性化”につながる取り組みをしていく、新しい形の地域ハブを目指していこうと考えています。地域を「食のチカラ」で盛り上げる、フードビジネスの地域拠点となっていく予定です。具体的には、希少な伝統野菜を残していくために伝える機会を作ったり、地元の生産者や加工者の方への支援・相談の場所にしていくことを考えています。宮崎はもちろん、九州全体に対する取り組みとして広めていきたい。MUKASA-HUBから『食』を通じた地元創生を目指していきます!」

一平ホールディングス 村岡さん

続いて登壇したのは、奈良県曽爾村の髙松さんと森さん。曽爾村は、奈良県の東部に位置する人口1,341人の村です。曽爾高原をはじめとした自然豊かな地域資源、漆塗りや獅子舞などの文化的な資産に恵まれています。しかし、多くの他の地域と同様に、高齢化と人口減少の課題に向き合っていることも伝えられました。
 
髙松さん「1960年には4,000人以上だった人口が、現在では1,400人を割っており、このままでは40年後には300人を割るという推計も出ています。なんとか曽爾村の暮らし、営みを未来につなげていきたい。『心身健美』をスローガンに掲げ、地域の人自身が村の豊かさを実感できる村づくりに取り組んでいます」
 
地域にある資源を「村の人のために」どう活かせるのかを10年ほど前から議論し、挑戦している曽爾村。焼酎や柚子胡椒、玄米コーヒーなどの商品開発なども積極的におこなっています。また、地域おこし協力隊などの制度を活用し、少しずつ新規就農者も増えているようです。

奈良県曽爾村 企画課 髙松さん

そのような中で、新規就農者や移住者からの「加工品を製造できる場所がほしい」という声を受け、使われていなかった村の農産加工場を改修し、2020年7月にオープンしたのが「そにのわの台所katte」。運営コーディネーターの森さんは、その役割を以下のように説明します。
 
森さん「活動のひとつとして、規格外となってしまったトマトを、トマトソースにしています。農家になろうと移住してくる人たちも最初からうまくいくわけじゃない。規格外になってもkatteで買い取れば農家さんの安心につながります。その他にも、高齢化で人手不足の農家さんのお手伝いや、新しく事業を始めたい人へのキッチンの貸し出し、コロナをきっかけにマルシェや全国配送も始めました。村内外をつなぐハブのような役割です」

そにのわの台所katte 森さん

すでに各地域で始まっている、食を通したまちづくりや地域活性の動き。地域のなかで動いているからこそ見える景色があります。『めぐるめくプロジェクト』との連携は、その動きをより豊かに、また持続的にしていけるのではないか。そんな期待を地域からも感じ、私たちの気持ちも改めて引き締まりました。

良いときも、悪いときも、手を取り合える仲間に

第1部の最後は、4社の代表と地域のお二人を交えてのトークセッション。キックオフイベントらしく、プロジェクトへの期待感を中心に話が進みました。口火を切ったのは、シグマクシスの田中です。

田中「楽しみにしているのは、個人や企業、地域が持っている価値や想いがクロスオーバーしていくところ。ますます世の中が楽しくなるのではとワクワクしています。あと、意外に困りごとって共有しづらいのかなと感じていて。それぞれの地域や個人で閉じられている困りごとも含め、共有していけるといいですよね」
 
その言葉を受けて、宮崎の村岡さんも、地域としての期待を伝えます。
 
村岡さん「先週、宮崎を大きな台風が襲い、隣町で農業をしている僕の同級生たちの作物が全滅しました。高齢化などの諸問題についても言えることですが、こういう困りごとがあったときどうすればいいのか。これは、地元だけで考えていたらきっと解決できないんですよね。地域と都市がつながり多様な人が集まって、良いものには光を当てて、困りごとがあれば寄り添って暮らしていける社会を作っていく。全国で頑張っている人たちの困りごとをみんなで解決できる、ソリューションセンターのような取り組みにになると嬉しいです」
 
同じく曽爾村の森さんが口にしたのも、このプロジェクトを通して“みんなで”考えることへの期待でした。
 
森さん「曽爾村は人口も少なく、農家さんもほとんどが80歳代。5年後、10年後には農業自体が曽爾村に残っているのだろうか、と日々考えています。新規就農者も増えてはいますが大規模にすることが難しく、まだまだ課題は多いです。その課題をみなさんと一緒に考えて、明るい未来につなげたい」

ロフトワークの宮本と、70seedsの岡山からも、未来への希望が語られます。
 
宮本「私は異業種連携も楽しみにしているところです。『めぐるめく』というプロジェクト名は、『めぐる=循環』という意味と、『グルメ』という言葉を掛け合わせています。日本語でグルメというと高尚なイメージがありますが、もっといろいろな分野に開いていきたい。食が専門ではない人たちも巻き込んでいけると、より良いプロジェクトになっていくのではないでしょうか」
 
岡山「たしかに、多様なメンバーであることは重要だと思っています。これまで東京の会社として地域に入り込んで支援したり、僕自身が地域の人間として農業をやってきたりしました。そのなかで、地域のなかにいないと見えないこともあるし、都市からの視点で生まれる可能性もあると気付きました。これまでは、どちらかへの偏りが大きいプロジェクトが多かったように思いますが、どちらの視点も持つメンバーで、先にある価値観の変革を共有できているのが、我々だからこそできる形なのかもしれませんね」

広瀬「東京で生まれ育った人間としては、東京ももちろんひとつの地域だと考えていますし、『消費して終わり』の東京であってはいけないという思いもあります。4社のそれぞれのアプローチやスキルが掛け合わさることで、地域にとって良い取り組みにしていきたいと思います」
地域と都市、生産者と生活者。暮らす場所や立場は違っても、それぞれの想いが重なる点が生まれる場所。「地方と東京」のような二項対立ではなく、手を取り合って輪のようにめぐる、プロジェクトの未来への展望を4社の代表と地域の方々で語り合いました。
 
ともに未来の希望を見据えた第1部の記者発表会が終わり、続いて第2部では、地域の生産者や食に携わる参加者、メディア関係者などが交流する試食形式の共創イベントが行われました。後編は、こちらからご覧ください。
 


 めぐるめくプロジェクトは、日本全国の地域との共創・連携を模索していきます。
ご興味をもっていただいた方は、公式サイトもぜひ覗いてみてください。
イベント情報や最新の取組みについても今後更新予定です。
めぐるめくWEBサイト) 


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?