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地域内外の交流が新たなチャレンジにつながる!食卓会議を初開催。曽爾食卓会議 レポート 後編

時折雪が舞う1月上旬、めぐるめく事務局と、全国各地で食や農に携わるプレイヤーの合計9名で奈良県曽爾村を訪問。午前中は曽爾村の食農拠点を訪問するフィールドツアーを行い、実際に畑を見学し、採れたてのほうれん草をその場で試食するなど、曽爾村の魅力を自らの足や目で体感しました。(フィールドツアーについて、詳しくはこちらのレポートでお伝えしています)

午後は、訪問メンバーと曽爾村の方々が集まって地域内外の交流会、通称「食卓会議」を行いました。

食卓会議とは…めぐるめくプロジェクトが行う、地域へのフィールドツアーや交流会を通じて、地域間の学び合いを生み出すプログラムです。地域内だけではなく、地域外からの多様なプレイヤーの関わりが、地域内に新たな食と農のチャレンジを生み出す循環につながることを目指しています。

今回は、曽爾村で行われた地域内外の交流会の様子をご紹介します。当日は、お互いのチャレンジを発信・共有し合う場と、これからの「やってみたい」を話し合う場の2部構成で行われました。

お互いのチャレンジから新たな気づき、学びを得る


最初は、参加者それぞれの自己紹介と現在の活動についての発信から始まりました。まずは、曽爾を訪れた地域外のメンバーからスタートです。ここでは簡単に、それぞれが話した内容をお伝えします。

三菱地所 広瀬(めぐるめくプロジェクト事務局)

三菱地所の広瀬は、めぐるめくプロジェクトの発起人です。私たち事務局を代表して、現在の食と農における課題感、そしてこのプロジェクトを通じて何を実現したいのかを語りました。
 
「経済合理性を追求していった結果、今の食と農のバリューチェーンの各プレイヤーは分断されてしまっています。困り事を相談したり、新たなチャレンジを応援したり、みんなで地域の食と農のことを考える場。各領域や地域の枠を超えて仲間が増えていくことを目指しています」
 
めぐるめくプロジェクトを立ち上げる前に、広瀬はこの1年間で8回ほど曽爾村を訪問しています。このプロジェクトには、農の豊かさの食の在り方や、またそれを続けていくことの困難さなど、曽爾村から学んだことが凝縮されています。

70seeds 岡山(めぐるめくプロジェクト事務局)

70seedsは「次の70年に何をのこす?」をミッションに、メディアの運営、PR/ブランディング支援事業をしている企業です。代表の岡山自身が数年前に富山県舟橋村に移住し、地域の野菜のブランディングなどを行ってきました。
 
「始めた時には、“ブランドなんて、本当にできるの?”と村の人から言われていました。ブランディングが成功するためのポイントは、「何を」じゃなく、「誰に」届けるものなのか、をしっかりと考えることです」
 
そう話す岡山は、半分に切るとハートの形をしているカボチャを「舟橋ハートかぼちゃ」と名付けて発信するプロジェクトを始動。「地域の子どもたちに届ける野菜」として訴求したことでメディアにもたくさん取り上げられました。

合同会社HOC 濱さん

HOC濱さんはランドスケープデザインを軸に、建築から商品パッケージのデザインまで、幅広い分野で活動する神奈川のクリエイターです。濱さんは「ものづくりをするときに領域を問わず相談をされるような存在になりたい」と話します。
 
食品ラベルのデザインを手がけた実績のある濱さんは、「食は一つのコミュニケーションツールにもなりうる」と語りました。
 
「赤ちゃんでも、“おいしい”はわかる。ストーリーが一緒に食べられるような、そんなコトづくりをしていきたいと思います」

ナオライ株式会社 三宅さん

ナオライは、“時が経つほど価値が高まる”という、唯一無二のお酒を醸造している会社です。「浄酎」と名付けられたそのお酒は、純米酒を「低温浄溜」という独自の技術で「浄溜」することで、時間が経つごとにお酒の深みが増していくんだそうです。
 
普段は広島で活動している三宅さんですが、「『Norai SONI蒸留所』を妄想している」と語ります。奈良の日本酒を原料にして関西近郊に販売していくことで、滞在型インバウンドの創出にもつながるのでは、と話しました。

株式会社トリ風土研究所 宮武さん

トリ風土研究所は、大阪でトリの専門家として鶏専門店とレストランを経営しながら、さまざまな企業の商品開発や生産者の6次化に伴走しています。めぐるめくプロジェクトの活動を知り、「関西圏で活動していたが、曽爾村の存在は知らなかった」と、今回の食卓会議で初訪問。
 
同社の商品開発の例に挙げたのは「河内鴨」。関西エリアで流通していた河内鴨を使ってコンフィを開発し、東京で食べてもらう機会をつくりましたが、一番のメニューはあえて東京では提供しなかったといいます。「大阪に来れば、さらにおいしいものが食べられる」と訴求することで、関西に足を運んでもらえるような仕掛けを行ったそうです。
 
宮武さんは、「曽爾高原のハイシーズンであるすすきの時期以外にも、人の流れをつくるために『曽爾高原山頂マルシェ』ができれば面白いですね!」と話しました。

みなとキッチン 大坪さん

みなとキッチンは名前の通り、港にある魚食をテーマにしたシェアキッチン。「もっと多くの人に「魚食」に触れてもらう機会をつくりたい」という思いで、富山県射水市の漁港の一角にある喫茶店を改装して開業しました。受け継がれてきた漁師町の歴史と食文化がいつか途絶えてしまうかもしれないという課題感から、魚食への関心を高めるワークショップを開催したり、商品のEC販売を開始するなど、魚食の輪を精力的に広げています。
 
「例えば、『曽爾村のトマト×射水のカニ=超うまいトマトソース』ができたり、『ほうれん草と鰤を物々交換』をしたり。地域間でつながって、みんなで面白がれたらいいですよね」
 
今回の曽爾村訪問をきっかけに、大坪さんは「地域同士で組みたい!」と話してくれました。

次に、曽爾村で活動している方々の自己紹介です。

トマト部会 寺前さん

トマトの生産が盛んな曽爾村。収穫は春夏のみですが、秋冬もしっかり準備し、1年をかけて育てるといいます。曽爾村のトマト農家が集い共同出荷する「トマト部会」の、最近注目の取り組みは、近畿大学とのコラボレーション。曽爾村にあるシェアキッチン・そにのわの台所katteを拠点として学生と共に開発した、規格外のトマトを活用したトマトソースが大変人気だそうです。
 
そんなトマト農家も直面する後継ぎ不足。トマト農家として新規就農をする地域おこし協力隊にも大きな期待が寄せられています。

ほうれん草部会 田合さん

高原の寒暖差によりとても甘くなった「大和寒熟ほうれん草」を作っている農家が集った「ほうれん草部会」。12月〜2月限定の大和寒熟ほうれん草は糖度10度以上のフルーツのような甘さです。
 
「ほうれん草は、おひたし以外にも食べ方がたくさんある」
 
そう言って田合さんが見せてくれたのが、曽爾村のほうれん草の素材の良さを最大限に引き出したレシピが詰まった「ほうれん草レシピ本」。パウンドケーキやキッシュなど20品にも及ぶレシピは、近畿大学の学生が考案したものだそうです。こんなにもたくさんの食べ方があるのか……!と会場にいたメンバーも驚いていました。
 


長野生産加工組合 びょうぶ山桜の郷 奥西さん

びょうぶ山桜の郷は、こんにゃくや味噌などの加工商品を販売しています。つい最近のビッグニュースは、こんにゃくを使った稲荷寿司が「奈良県の宝物グランプリ 素材・加工部門」でグランプリを受賞したこと!
 
「曽爾に来たら『こんにゃく食べようか』となるような、曽爾村の特産品になれるように」
 
賞味期限は、一般的なこんにゃくよりも短い2週間。短い期間に設定することで、一番おいしいときに食べてほしいと言います。期限の短さから、流通面で遠くに持っていくのは難しいため、「ぜひ曽爾村に食べにきてほしい」と語りました。

地域の「やってみたい」を、互いの立場の垣根を越えて話し合う

自己紹介に続いての座談会では、「今年やってみたいこと」がテーマ。それぞれが思い思いに、付箋にチャレンジしたいことを綴りました。
 
「BBQソースを作りたい」
「出張屋台をしたい」
「銭湯を継ぎたい」
 
こんな個人の思いベースの「やってみたい」から、
 
「子どもの食づくり体験」
「子どもと一緒に野菜をつくりたい」
といった、“子ども”というキーワードもたくさん出ていました。


書き出した後は、3つのテーブルに分かれて内容をシェア。テーブルごとに選んだ「やってみたい」について、内容を少し深堀りしていきます。今回は「子どもとの食づくり」「BBQソース」「遊び場を作る」の3つのテーマが決まりました。曽爾村の地域内からの発案に、地域外からも様々なアイデアが重ねられていき、最後に3つのテーブルごとに発表です。
 
【BBQソースを作りたい】
「僕らは、その土地の空気を感じながら、その土地の肉を味わうのがBBQだよね、と話していました。曽爾村では鹿が捕れるので、淡白な鹿肉に合うソースが作りたいですね。規格外のトマトベースに柑橘を合わせて、世界中に売りたい。まずはBBQソースを楽しめるイベントができたらいいんじゃないかなと思っています」
 
【子どもの食づくり体験を企画したい】
「私たちのテーブルで共通している一番の思いは「子どもに食への興味を持ってもらいたい」ということです。『こんにゃくを作り方から体験して食べれたら』『子どもが作ったこんにゃくを村の人が食べるのもいいんじゃないか』など、さまざまな意見が出ました」
 
【遊び場を作りたい】
「曽爾村の公園づくりについて話し合いました。大きい公園を作るのは大変なので『小さく始める方法もあるんじゃないか』『村人みんなが公園づくりに関われたら』という意見も出ました。管理が大変な村有林や私有林、小学校の跡地の活用になってもいいんじゃないかと思っています」

多地域間の共創が、地域内のチャレンジを加速する時代へ

地域内の生産や加工のチャレンジの循環「地域外からの多様なプレイヤーの関わりを生む循環」の場として企画された食卓会議。今回、訪れた地域外のメンバーと曽爾村の方々が交流することで、新たなチャレンジの芽が生まれることが期待されていました。
 
3つのグループそれぞれのメンバーがやりたいことを共有し、話し合う中で、「これ、一緒にできそう!」というワクワクが生まれている様子は、まさに私たちが見たかった光景でした。
 
地域内外から集う食卓会議。「はじめまして」の方がほとんどの中で、「こういったこともできるんじゃないか」とアイデアがどんどん前に進んでいくのは、きっと「食と農」という共通言語があるからだと感じました。
 
最後に広瀬が、食卓会議の感想と今後への思いを語りました。
 
「今日は記念すべき第一回。引き続き曽爾村で地域や食に関してみんなで語り合う場を重ねていきたい。こうやって、地域外のプレイヤーが交わることで、地域にポジティブな影響を生み出していけたらいいなと思っています。あと、『地域の文化祭』ができたらいいなと思っていて、地域と食が結びついた収穫祭のような祭りがあったら、地域内も地域外も一緒に盛り上がれるのでは……と勝手に妄想しています」
 
 
曽爾村訪問から約2ヶ月。トリ風土研究所の宮武さんが、曽爾村のほうれん草とこんにゃくを使ったおでんの屋台イベントを大阪で開催しました。ここでも一つ、新たな地域間のつながりが生まれています。
 
地域内に留まらず、地域の垣根を超えたつながりから、また次なるチャレンジの循環がはじまる、そんな予感にワクワクしています。

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