飲み会帰りの「トイレ行くので先に帰って」という気まずさ回避方法について

「すいません、トイレ行くので先に帰っててもらっていいですか?」

飲み会帰りなどに、たまたま帰宅方向が一緒になっただけの人と強制的に別れることができる常套句だ。緊急を装いながら、相手もOKを出せざるを得ないテクである。

しかし、この技が通じないタイプが二つある。

一つは強靭なタフネスを持つポジティブタイプ。「全然待ちますよ」と笑顔で承諾してくれたり、「私もちょうど行きたかったんですよ」と同調して着いて来きてしまう。肉体的に技が通じないのである。あと、関係ないけど、こういうタイプの人はだいたい歯が白い。

もう一つは同じ考えを持つネガティブタイプ。普段からトイレエスケープを使用しているため、相手が「すいません、トイレ……」と言った瞬間にすべてを察する。後に遺恨を残す可能性がある。先ほどとは逆に精神的に技が通じないのだ。私はもちろんこちらのタイプである。

厄介なのは前者より後者のタイプだ。なぜならポジティブタイプはあくまで善意と歩み寄りで成り立っている。しかし、ネガティブタイプが厄介なのは、「もしかしてトイレ行くってことは、この人は私のこと嫌ってるのか?」と疑ってしまうからである。なぜなら自分自身がこのトイレエスケープを使用するからだ。自分が使う技であるからこそ相手の気持ちがわかる。そして相手の気持ちがわかるから自分が傷つく。「我思う、ゆえに我あり」のように負が入れ子構造になっている。自分ながら不憫。

そしてこの手のタイプは、自分が傷つきたくないから先出しで行動しているズルい考えの人が多いので、相手に攻撃されるのは絶対に嫌なのである。断固拒否。当たり前である。なんでこっちが傷つかなければならないのだ。目には目を歯には歯をではない、目も歯も先にぶん殴ったほうが勝ちである。その精神力で我々は生きている。傷つくくらいならしんそくで攻撃をしかけていく。ようは身勝手な人間なのだ。

ちなみに私は相手が嫌いだから別れたいわけではない。あくまで一定の距離感を保ちたいだけなのである。「あ〜飲み会楽しかった」で終わって帰りたい。そこで、帰り道に気を遣うようなシーンを生み出したくないのだ。

このトイレエスケープが難しいのが、本当にトイレに行きたくて、優しさで「先に行ってていいですよ」と言ってくるアンチトイレエスケープというトラップを仕掛けてくる人もいるという点だ。

実に紛らわしい。もし優しさで言うのであれば、「私はあなたのことを嫌ってるわけではなく、本当にトイレに行きたいだけです。あなたが電車に乗り遅れるのが申し訳ないかなと思いまして。でも、もし一緒に帰ってくれるのであれば、待っていてもらえると私はうれしいです」くらいきちんと説明してほしい。それくらいの釈明がないとネガティブタイプは勘繰ってしまうのだ。

また、厄介なのがネガティブタイプ同士が帰り道に一緒になるパターンである。お互いに居合い斬りのタイミングを待つような事態が発生してしまう。

10年以上前に勤めていた会社の飲み会帰り、明らかに向こう側もネガティブタイプだとすぐに認識できる人と帰り道が一緒になった。

駅までの道中、「出身はどこですか?」「最近、天気いいですね」「今って仕事忙しいですか?」というような鍋のアクをすくうような上辺だけの味のない会話が延々と続いていた。

駅が近づいてきたとき、お互いに伝家の宝刀である「すいません、トイレに行くので先に行っててください」を抜く気配を感じていた。どちらが斬っても良いのだ。ただ、どちらが先に斬りだすのかが重要である。

改札を抜けて駅構内に入った瞬間に、私はすばやく、

「すいません!トイレ行っていいですか?」

と刀を抜いた。しかし、切り口が甘かった。「先に行ってください」という大事なワードが抜けていた。

しかし、大丈夫だ。相手もネガティブタイプである。このまま身を任せれば空気を察して帰っていくはずだ。そう安堵していた。しかし、

「あ、え、うん…じゃあ私も……」

という予想外の一言が返ってきた。どいうこと!?!?!と思って、相手の顔を見ると、私と同じく「やってしまった」という焦り顔をしていた。

どうやら相手も改札を抜けたら、刀を抜こうと思っていたようだ。しかし、私がコンマ1秒だけネガティブをかましてしまったせいで、面食らってテンパってしまってトイレへの同行をテイクオフしてしまったようだ。宇宙まで飛んでけタコ野郎。

ネガティブ同士の居合い斬りはまさかの両者、打首で幕を閉じた。もちろんその後の電車は一切盛り上がることはなく、各自スマホを触って解散した。

そもそもであるが、飲み会などの帰り道は、全員がそこそこ仲が良いなどがなければ、現地解散にするべきだと私は思っている。

もちろん帰りの電車で仲良くなる人もいるだろう。そういった機会を求めている人たちは一緒に勝手に帰ってもらって、我々のようなネガティブタイプは先に帰らせてほしい。なんだったら本当の解散10分前から徐々に店外に放出していって欲しい。逃走中のハンターみたいに。

なによりも最悪なのが、帰り道に「え!最寄り駅同じじゃないですか?」なんて発覚したときだ。その人の存在が気になって、気軽にガールズバーなどに行けなくなってしまう。なんのために独身をやってると思ってるんだ。

ただし、途中でも言ったように、私の性格がものすごく厄介なのが、相手から先に「トイレ行くので先に帰ってください」という刀を抜かれた場合に私は非常に傷つくことになる。ああ、この人は私のことが嫌いなんだなと思って、一瞬で殻にこもってしまう。もうその人と関わりを持てなくなってしまう。

ええ、自分勝手なのはわかってますよ。だから言ったじゃないですか、目には目をなんてものはなくて、目も歯も先にぶん殴ったほうが勝ちだと。私はあなたよりも先にしんそくの刀であなたを斬る所存である。

おっと、何度も言うが勘違いしないでほしい。私は帰りに一緒になったあなたのことが嫌いなわけではない。ただ、気まずい空気で1日を終わりたくないだけである。だから、素直に私に首を差し出して欲しい。何度も言うが、私はネガティブで傷つきやすい。だから貴様の首を私に斬らせてくれ。


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