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ガチで、マジ

久しぶりに電車に乗った。
出勤で電車を使わなくなり、飲みに行くこともなくなっているので、最近はもっぱら車での移動が多いのだが、今回はやむを得ない事情が重なっての、久々電車での外出だ。

乗り換えの為に降り、ホームの椅子に座って本を読んでいると、前方からニヤニヤした男の子がこちらに向かって歩いてきた。齢、二十くらいか、若い男の子特有の痩せた身体付きの彼は、俺の横を通り過ぎ、後方に座っている女の子に声をかけた。どうやら知り合い、その中でも仲の良い部類に入る間柄の様で、楽しそうに話しを始めた。

「久しぶりやな!」
『久しぶりやなー!』
「どこ行くん?」
『ユニバ』
「ユニバ行くん?!3時から入るん?」
『年パス持ってるから』
「年パス持ってるん?まじで、ええなー、俺も行きたいなユニバ」

彼と初対面のホームで読書おじさんですら、この娘に好意があるんだろうな、とわかる口調。彼の声は弾んでいる。好きな娘に会えた偶然に、テンション急上昇の様子が、後ろから聞こえる声だけでうかがえるのだ。俺が初対面の時に見た彼のニヤニヤはその表れだったんだな、と今では理解できる。

しかし、この後起こる悲劇を、彼は知る由もなかった。

「最近どうしてるん?元気なん?」
『…してる』
「ん?謹慎?」
『ううん、妊娠、してる』

おぉ、

ここで
このホームで今日一の
カミングアウトー!!!

背中で聞いている読書おじさん(正確には耳をそばだてていた為ただ本を開いて座っているだけおじさん)ですら「えっ」と声を出しかけたほどだ。
彼の狼狽は明らかだった。

「ガチで?え、ガチ?えーマジかー、え!ガチ?ガチで?えーマジでかー、え、ガチ?まじかぁ。」

俺は、男が一瞬にして
ガチマジ連呼野郎に変身する場を
目の当たりにした。

その後の会話は、とにかく彼の言葉が上滑りしていた、という事だけ記しておこう。



急行列車が来るまでの、わずか3分の間の、奇跡。
彼にも、彼女にも、幸あれ。

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