見出し画像

#10 おばあちゃんだけど、時々転生代行救世主やってます

「誰か居るの?」
  暗闇の奥から声が聞こえ、カチャリという音と共にうっすらと明かりが中に入ってきた。逆光のため顔は分からないけれど、声や影からどうやら若い女性のようね。ただ、かなり警戒してるみたい。さて、どうしたものか…
「にゃあ~ん」
 場にそぐわない間伸びした鳴き声が足下から聞こえた。そして、軽く跳ねる音がしたと思うと、1匹の黒猫が明かりの方へと駆け出していった。
「え?」と漏れかけた声をシロちゃんが背後から口を塞いで止める。
「クロが気を引いてる内に」
 そう耳元で囁くと、シロちゃんは私を解放して近くにあったダンボールの山の陰に身を潜めた。私もそれに倣う。
「え、猫?どこから入り込んだのかしら?」
 女性は驚きの声をあげたが、特に気にした様子も無く、猫好きなのかその場に屈んでクロ君の頭を撫で始めた。
 彼女がしゃがんだ事で外からの明かりが更に中に入ってきたので、先程よりも中の様子がよく見えるようになった。
 石造りだと思った硬い床は、打ちっぱなしのコンクリート床で、壁も天井も同じ造り。そして壁にそって簡素な棚が並んでおり、その隙間を埋めるかのようにダンボールの山が乱立している。察するに倉庫か物置って所かしらね。
 で、問題の入口を塞いでるあの女性なのだけど、しばらく猫の頭に堪能していたかと思ったら急に立ち上がり
「いけない!サキシマさんの所に書類持ってかなきゃいけないんだっけ」
 スっと立ち上がると、入口脇の辺りを手探りし始めた。きっとあの辺りに部屋のスイッチがあるんだろうけど、今明かりをつけられたら流石に私達も見つかってしまう。
「にゃあ」
 クロ君が一声上げ、近くの棚に飛び乗った。そして、そこにあった紙らしき物を咥えると部屋から飛び出して行ってしまった。
「えええ?!ちょっと待って!無断持ち出し禁止よ~!」
 女性が慌ててクロ君を追いかけていく。そして足音が聞こえなくなるのを確認してから、私達はその場から立ち上がり、一応入口から用心しつつ外を確認してみた。
「どなたも居らっしゃらないみたいねぇ」
「うん…」
 部屋の外は左右に通路が伸びていて、一見どこかの会社内のように思えた。天井には簡素な電灯が等間隔に付いていて、廊下を明るく照らしている。しかし窓が1つも無くて、今が昼なのか夜なのか、そしてここがどういう所なのかも分からない。それにしても…
「思ってたよりも静かだね」
「そうねぇ…ミクベ神様が「柱が崩壊し始めてる」なんて言ってたから、もっとテンヤワンヤの大騒ぎだと思ってたんだけど」
 地下界は、なんというか…普通だった。とはいえ、ここは一応異世界。私が生きて暮らしていた世界とは違う世界なんだから、もしかしたら非常時なのかもしれないけど、先程の女性の様子から見て、危機が迫っているようには思えない。
 だからと言って、私達は殺されてしまった地下界のミクベ神に力を与えるために、彼?を見つけ出して宝石を割るという使命がある。気を抜いてはいられない…んだけど…
「うーん、この世界のミクベ神様がどこに居らっしゃるかくらいは聞いておけば良かったわねぇ」
 少なくとも頭は破壊されてないようなんだけど、殺してしまった人はその死体をその場に放置したのか、はてまた別の場所に移動させているのか、まったく検討がつかなくてお手上げ状態。
 とにかく今はこの世界の情報が欲しい。
「とりあえずクロと合流して、その後に話が聞けそうな人を探そうよ」
 シロちゃんの提案に私は頷く。さっきのお嬢さんから聞けたら話が早いのだけど…

  #11につづく

 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?