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熱意は磁石 | 読書日記『不毛地帯』

「戦後」の日本。この「戦後」の復興劇を1人の帰還した軍人を軸に描いた山﨑豊子『不毛地帯』。私はこの物語から日本の戦後の近代史を学び、壮大なスケールで展開されるストーリーに浪漫を感じた。

話のあらすじは終戦から始まる。元軍人の主人公である壱岐正がシベリア抑留、帰還し繊維問屋に就職、会社が発展して戦闘機の入札へ参入、そしていよいよ石油の獲得へ立ち向かうという長編小説。


第一章のシベリア抑留の場面で、捕虜となった人たちの壮絶な労働環境を知り衝撃を受けた。

以前ヨーロッパ行きの飛行機に乗るとシベリアの大地を上空から眺めることができた。そこには一面雪に覆われた凍りついた大地、もしくは凸凹に広がる丘が一面にあるのみ。70年以上経った今でさえもその光景からまさに「不毛地帯」という言葉を想像するに難しくない。

第二章の繊維業については戦後間もない当時、日本がこの繊維業によって経済復興をなし得たことを改めて知る機会となった。

戦後の繊維業の発展について私は学生の頃にトヨタ産業技術記念館という歴史記念館に訪れて触れたことがある。

今でこそトヨタと言えば自動車のイメージが強いが、元々は織物の機械を作っていた。ここでは創業当時の自動織機の実物を見ることができる。またかつての工場跡地が残されていて当時の赤レンガの工場の雰囲気をそのまま感じられる。この博物館を通じて私は、あのトヨタは元々この布を織る機械で発展したのだ、ということを目で見て知る体験をした。その体験と相まって戦後の繊維業の発展の勢いをより具体的に想像することができた。

後半の石油を巡る物語は手に汗握る展開。イランの鉱区を巡るロビー活動なんかはもう興奮しっぱなし。鉱区の入札に関する情報の奪い合いはリアリティ溢れる。コーランを用いて入札金額を伝える場面はドキドキが止まらなかった。

「なぜ日本は戦争に踏み切ったのか」という点。諸説あると思うが一つのきっかけとしてこの石油の入手を断たれてしまった、という側面があると思う。そこを起点にこの物語を捉えると戦後日本にとって石油を確保する手段を他国に頼らず日本独自で手に入れる、ということは並々ならぬ執念があったのだろう、と私は感じた。

石油発掘の場面で私はもう感動せずにはいられらなかった。ここに壮大な浪漫を感じたから。戦後復興に邁進するかつての日本魂がひしひしと伝わってきた。


なかなか読み応えのある長編小説ながら私は二度読み返したくらい、この物語に魅了された1人。

熱意は磁石
松下幸之助用語より
https://konosuke-matsushita.com/keywords/work/no8.php

時代は変わり新たな価値観に順応していくフレキシブルさも大事。それでも古き良き日本が抱いた復興に向けた熱、反骨スピリット、泥臭さみたいなものも大事にしていきたい。

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