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紙をすいてブックカバーを作った話と、人生の選択について

「和紙、つくりたいかも」

皆さん、人生で一度は、このように思ったことがあるのでは?


私の「人生で一度はやりたいことリスト」の中に、長い間、「紙をすいて和紙をつくること」が鎮座していた。

YouTubeで偶然見つけた、和紙職人が紙をすいている様に、どうしようもなく心惹かれてしまったのだ。


でも、紙をすくのって、山奥の水が綺麗なところでないとダメで、そういう場所は車でないとアクセスが難しいでしょ?

そう思い込んでいた、生粋のペーパードライバである私は、和紙づくりに対して勝手にハードルを感じ、ずっと後回しにしていた。


そんな折、「ひので和紙」さんに出会った。

なんと、東京に、紙すきを体験できる場所があるではないか!!


新宿駅からJR青梅線で武蔵五日市駅へ。そこから送迎車で工房までアクセス可能。

車がなくても、1時間半ほどで紙をすきに行ける場所が、東京の西多摩にあったのだ。


というわけで今回は、今秋「ひので和紙」さんを訪れ、紙をすいてきたことについて書く。

結論だけ書くと、「皆さん、ぜひ一度紙をすきに行ってみてください! めちゃめちゃ楽しいです!」という気持ちだ。とても良い経験だった。



ひので和紙さんの工房。
なんと、オーナーが一から手作りした小屋とのこと。
工房の内装。
木材の温かみと、外に見える自然の瑞々しさが良い。



ていねいに紙をすく。


ひので和紙さんでは、紙すきに関して、様々な種類のワークショップを開催している。


オーナーによると、和紙で作る「結婚証明書」や、彩豊かな「パステル和紙」のワークショップが人気とのこと。

ひので和紙さんのHP(https://hinodewashi.tokyo/cn3/pastel.html)より、
パステル和紙。


数あるワークショップの中から、今回私は、「ブックカバーづくり」を選択。

本好きには、どうしても見逃せないワークショップだった。

ひので和紙さんのHP(https://hinodewashi.tokyo/cn3/bookcover.html)より、
和紙ブックカバー。

本を包み込む和紙の風合いが、なんとも素敵ではないか。早速、紙をすいていく。


和紙の原料は、コウゾという木を切り、皮を剥いで、それを煮て叩くことで作られる。

今回は、コウゾを細かな繊維状にしていただいているところからのスタート。(コウゾの原料作りから体験できるワークショップもありました)

漂白済みの真っ白なものと、素材そのままの色合いの茶色いもの、2種類の色を選ぶことができる。私は白を選択した。


紙すきの道具、簀桁(すけた)。
こちらに繊維を流し込んで紙をすいていく。
発泡スチロールの板で、ブックカバーのサイズを調整する。


まずは、簀(す)を水洗い。

ひので和紙さんには、汲み取り式の井戸がある。ポンプで水を汲み上げながら、簀を全体的に濡らしていく。

井戸の前で記念撮影。


続いて、コウゾの繊維を、水と混ぜていく。こちらが、簀桁に流し込むための材料になる。

このとき、繊維のダマが残っていると紙にムラができてしまうため、しっかりとかき混ぜていく。

桶の底に手を這わせるようなイメージで、
全体に水流を起こして混ぜる。

均等に混ざったら、のりを加えてさらに混ぜ、いよいよ簀桁へ。


まとめて一気に流し込むのではなく、少量を掬い取り、少しずつ層を重ねるように流し込むのがコツだ。

完成した時のクオリティに特に影響する作業ということで、
慎重に流し込む。

端から端まで均等に水が行き渡るように、簀桁をくるくると回転させながら、丁寧に流し込んでいく。

繊維入りの水を流し終わった状態。
全体の厚みが等しくなるよう、細かく継ぎ足していく。


そして、ここからは模様づくり。

カラフルな糸を、先ほど水を流し込んだ簀桁の上に配置することで、模様を描く。糸を切って、ピンセットで慎重に置いていく。

今回は「秋」をテーマに、銀杏・紅葉・どんぐりのデザインにした。
スピン(栞紐)も、好きなだけつけることが可能。

糸を置いたら、その上に重ねるように、繊維入りの水をかけていく。こうすることで、糸が剥がれないように接着するのだ。

水をかける勢いが強すぎると、
糸がふわっと浮き上がって模様が壊れてしまう。
繊細な作業が求められる工程だ。


少し時間を置いたら、最後に、和紙を簀桁から、乾燥させるための木板に移す。

簀を板の上に置き、上から刷毛で撫でるようにして板に貼り付ける。
和紙が破れないよう、最後まで気を抜かず丁寧に。

これで全ての工程が終了!

2〜3日ほど自宅で乾燥させることで、和紙のブックカバーの完成だ。



和紙にふれて感じたこと。


人生初の和紙づくりを終えて、私は今、とても清々しい気持ちに包まれている。

紙をすく行為に、焦りは禁物だ。少しずつ、ゆっくりと、丁寧に手を動かすことが求められる。

和紙の状態をよくよく観察しながら、出来上がりがどうなるかを想像し、時間を忘れ、丁寧に作業する。

この営みが、とても楽しくて、とても贅沢に感じた。

タイムマネジメントに追われるばかりの毎日、こうして時間を忘れ作業に没頭することは、心身ともに豊かにしてくれる。


工房の天井にぶら下がる、パステル和紙の作品。
奥の照明も和紙で作られている。


ワークショップとして原料や道具を用意してもらった状態ではあるけれど、「自分の手で紙を作れる」という事実に、何か勇気づけられたような思いがある。

普段、生活していて、紙の作り手を想像することはない。大量生産される紙は、人の手で作るものというより、機械によって製造されるものという印象だ。

そんな紙を、他ならぬ自分の手で、じっくり時間をかけて、作り上げたということ。

そのことが、何もかも工業製品化し、モノから人の温かみが失われている現代において、とても頼もしく感じられた。



人生が変わるきっかけは、必ずしも劇的じゃない。


ワークショップの中で、紙の作り方を教えてくださったオーナーと、色々お話しさせていただいた。

グラフィックデザインの職に就く傍ら、30年以上も和紙づくりを続け、気づけばそれが生涯の仕事になっていたと語るオーナー。

和紙づくりを始めたきっかけは、テレビ番組で、牛乳パックを使い家庭で和紙をつくる方法を知ったことだという。

牛乳パックで和紙をつくるところから始め、恵比寿のアトリエで紙すき教室を開き、やがて西多摩に拠点を移し、新しい和紙づくりの道を日々模索している。


ひので和紙さんの工房は、緑に囲まれていて、とても気持ちが良い。
こんな心落ち着く場所が、東京にあるなんて。


オーナーのお話を伺い、人生を変えるきっかけは、何も劇的なものだけではないのだと思った。

私は心のどこかで、「人生のターニングポイントというのは、劇的な瞬間でなければならない」という先入観を持っていた。

例えば、インドに行って価値観をひっくり返されるとか。宝くじで1億円を当てるとか。バーでたまたま視線が合い、その瞬間お互い恋に落ちるとか(?)。

そういう、世間に流布する、典型的な人生の転換点のイメージを、なんとなく頭に持っていた。


しかし、ひので和紙のオーナーのように、テレビ番組をぼーっと観ていて、「なんかこれ面白そう」と思うだけでも、人生の歯車が動き出すことはあるのだ。

そう考えると、人生を左右するような劇的な出会いをいつまでも待ち続けるのは、勿体無いことであるように思える。

そうしている間に、実は人生を変え得る小さな可能性を、幾つも見逃してしまっているのではないだろうか——?

過度なドラマティックさを期待するのではなく、あらゆる”普通のこと”にアンテナを立てて、大事に日々を過ごすこと。

今回の和紙づくり体験は、これまでの自分の生き方を、見つめ直すきっかけにもなった。



素敵なブックカバーができました。


それでは最後に、今回作った和紙のブックカバーをご紹介して、このnoteを終えることにする。

優しい風合いの、秋らしい素敵なブックカバーができました。



↓ひので和紙さんのInstagramがとても素敵なので、ぜひ一度覗いてみてください!



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