パリパラリンピックの視覚障がい競技 まとめ
2024年夏、パリオリンピックがスタートし、パリパラリンピックの開会式が迫ってきました。
東京パラリンピック、北京パラリンピックに引き続き、パリパラリンピックの視覚障がい競技について紹介していきます。
パリパラリンピックで、視覚障がいの方が参加できる競技には、5人制サッカー、ゴールボール、パラ陸上競技、パラサイクリング、パラ馬術、視覚障がい者柔道、パラローイング、水泳、パラトライアスロンの9つがあります。東京パラリンピックからの変更はありません。
9つの競技について、僕自身の経験談なども含めながら、それぞれ紹介していきます。日本パラスポーツ協会作成の各競技のガイドデータも掲載していますので、そちらも参考にしてみてください。
1.5人制サッカー
(画像はパリ2024パラリンピックより)
5人制サッカー(日本ではブラインドサッカー、ブラサカとも呼ばれる)は、視覚に障がいのあるアスリートのために考案されたサッカーで、音の出るボールを使用して行います。
パリパラリンピックでの会場は、エッフェル塔スタジアムです。
(画像はパリ2024パラリンピックより)
音と声だけが頼り…なのにまるで見えているかのような動きに度肝を抜かれます。フェンスを生かしたプレイや、スイスイ玉乗りしているようなドリブル、ボールを持った選手と見えているキーパーの一瞬の駆け引きなど手に汗握る瞬間の連続。そして静寂を破るゴールの瞬間の歓声。
詳しいルールや試合の様子などはこちらの日本ブラインドサッカー協会の動画を見てみてください。
ちなみに5人制サッカーは、2004年アテネパラリンピックから採用された競技で、これまでブラジルが全大会で金メダルなんだそうです。
僕自身も過去にブラインドサッカーを体験したことがあります。フロアバレーボールやグランドソフトボール、ゴールボールなどの視覚障がいスポーツで前衛をしてきたので、感覚的には慣れる部分もありますが、それらに比べて圧倒的に3次元の動きが多く、触ってわかる目印も少なく、正直かなり難しかった記憶があります。
そして、今回のパリパラリンピックには、なんと、盲学校時代の教え子が日本代表に選ばれているんです。一緒にフロアバレーボールやグランドソフトボールを全盲プレイヤーとしてプレイし、世界史や日本史を教えたあの子が…。これは嬉しすぎます。もう観戦するしかありません。
(画像はパラサポWEBより)
という訳で、5人制サッカー日本代表から目が離せません。
2.ゴールボール
(画像はパリパラリンピックより)
ゴールボールは、視覚に障害のある人を対象に考えられた球技で、パラリンピック特有の種目です。バスケットボールほどの大きさで鈴の入ったボール(でも重さはバスケットボールの2倍ほどで1.25Kg)を使用します。
詳しいルールなどはこちらの日本ゴールボール協会などの動画を見てみてください。
ゴールボールは盲学校時代に体育の授業に応援に呼ばれてよくプレイしていました。
コート内の各ラインには、触ってわかるように凸凹(床とテープの間に紐が通されています)があります。これを触って自分のポジションに戻ったりするのは、ネットで位置や向きを確認できるので、僕のやっている視覚障がいスポーツのフロアバレーボールに似ています。
フロアバレーボールからゴールボールへ進まれた方もいます。
ただボールが硬くて痛いんです…フロアバレーボールの強烈なアタックは問題ないんですが…あとボールに回転がかかっていて腕や脚で防いでも上に跳ねていくんです。5人制サッカーもそうですが、3次元の動きはなかなか難しいのです。
全員アイシェードで見えていない状態なので、複数の選手が連動して動き、誰が投球をするのか分からなくしたり、パスでも音を立てずに直接手渡しすることで、ボールのありかを曖昧したり…といった音のフェイントなど騙し合いも見どころです。
またハイボールなどの反則をした後のペナルティスロー、サッカーのPKような1対1の場面は…緊張で手に汗握ります。
ゴールボール日本代表にも、フロアバレーボールの知人と盲学校時代の教え子がいます。
(画像はパラサポWEBより)
数年前に日本代表に選ばれたその教え子の投球を受けたことがありますが…恐ろしい威力で怖すぎました。球を転がすという言葉では言い表せない迫力があるんです。そんなゴールボール、注目の競技ですよ!
3.パラ陸上競技
(画像はパリ2024パラリンピックより)
盲学校でも、地区盲学校陸上大会や通信陸上大会が行われています。陸上競技はトラック競技、フィールド競技、マラソンの3つがあります。
(1)トラック競技
トラック競技には、100m走(T11〜13 男子/女子)、200m走(T11〜12 女子)、400走(T11〜13 男子/女子)、1500 走(T11・13 男子/女子)、5000 走(T11・13 男子)、走幅跳(T11〜12 男子/女子、T13 男子)があり、それぞれ視力や視野の程度によってクラス分けがされています。
全盲の選手などは、目の代わりとなり、視覚から得られる情報を補う伴走者(ガイドランナー)とロープを握り並んで走ります。ガイドランナーは選手の安全を第一に、コース状況やタイム、周囲の様子などを言葉で伝え、フィニッシュラインへと導くのです。ただし、選手を先導したり、フィニッシュラインを選手より先に越したりすると失格となります。
(画像はニッポン放送より)
盲学校時代には陸上部で、全盲の生徒たちの伴奏として練習しました。練習ではつい生徒たちのペースを上げるためにも引っ張っていましたが、試合ではそういうわけにはいきません。短距離走などはその辺りの伴走のテクニックも垣間見えます。
走り幅跳びのT11クラスでは、見え方の差を無くすため選手は全員アイマスクを着用します。選手を助走開始地点に導き助走の方向付けをするエスコートと、競技中に助走の方向や踏切地点などを手拍子や声で伝えるコーラーの指示だけを頼りに、暗闇の中を走り、跳ぶのです。
(2)フィールド競技
(画像はSPORTS for SOCIALより)
(画像はニッポン放送より)
フィールド競技には、円盤投げ(F11 男子/女子)、やり投(F13 男子/女子)、砲丸投(F11 男子、F12 男子/女子)があります。
跳躍競技同様、エスコートとコーラー(兼任)が、投てきサークルに選手を導き、手拍子や声かけで投げる方向を知らせます。
(3)マラソン
視覚障がいクラスは、T11(全盲など)の選手は必ず、目の代わりとなって視覚から得られる情報を補い、安全に導く伴走者(ガイドランナー)と走らなければならず、T12の選手は単独走か、伴走者と走るかが選択できます。そのため、レースには単独走の選手と伴走者とのペアの選手が混在します。ペアで走る選手は伴走者(2名まで)とロープを握り並んで走るので、フォームを合わせるなどコンビネーションを磨くことが大切になります。またトラックとは違い、コースの凸凹や傾斜、曲がり角など共有しないといけない情報も多く、緊張感が高まります。
漫画『ましろ日』ではこのブラインドマラソンが描かれます。おすすめの漫画なので、気になった方はぜひ読んでみてください。
パラ陸上のルールなどについては、パラ陸上競技連盟や日本ブラインドマラソン協会のサイトを覗いてみてください。
4.パラサイクリング
(画像はパリ2024パラリンピックより)
(画像はパラサポWEBより)
パラサイクリングには、視覚障がいクラスのタンデムがあります。
2人が息を合わせて漕ぎ、ペースアップやコーナー手前の減速などのタイミングも合わせるコンビネーションから目が離せませんね。
競技とは別の話になりますが、僕が勤務していた盲学校には寄贈されたタンデム自転車がありました。以前はタンデム自転車は公道を走れなかったので、グラウンドでしか乗れなかったのが、ここ数年で全国で解禁されたそうです。
盲学校時代の子どもたちの夢に、「自動で動く自転車や自動車に乗りたい」というものがありました。車はまだこれからですが、タンデムで自転車に乗る夢を叶えてもらいたいですね。
5.パラ馬術
(画像はパリ2024パラリンピックより)
(画像はアイするスポーツプロジェクトより)
馬術のグレードIVやVでは、肢体不自由の選手と視覚障がいの選手が男女の区別なく競います。
視覚障がいの選手はグレードIVやVにクラス分けされますが、「コーラー」がマークの位置を声で知らせ、競技をサポートすします。このコーラーは最大13人までつけられますが、欧州などのトップ選手は、馬場の外に2人つける程度で演技ができ、それぞれ異なる音を発するピーコンと呼ばれる電子機器を使って練習しているそうです。こうしたアシスタントとのチーム戦も見どころなのだそうです。
6.視覚障がい者柔道
(画像はパリ2024パラリンピックより)
視覚障がい者柔道は、基本的なルールについてはオリンピック柔道と同じです。ただ相手お互いに組み合った状態からスタートします。
相手の接近や攻撃を見ることができないため、相手の呼吸や気配、道着の握り方などから相手の動きを察知して技をかけ合う鋭敏な洞察力が試される競技です。
組んだ状態から始まるので、最初から技の応酬が続き、一本勝ちが多いのも視覚障がい者柔道の特徴です。
動画を見てもらうとその迫力が伝わるかと思います。
盲学校時代には、体育の柔道の授業がありましたが、技の練習までで実際に組み合った状態から試合はしたことがありません。笑。
試合の動画を見ていると、開始直後からいろんな駆け引きがあり、目が離せませんね。
7.パラローイング
(画像はパリ2024パラリンピックより)
(画像はアイするスポーツプロジェクトより)
正直パラローイングはほとんど知りません。未知の世界です。見えない状態で、漕ぐペースを合わせる、でもスピードは落とさないってかなり難しそうですよね。
8.パラ水泳
(画像はパリ2024パラリンピックより)
(画像はパラサポWEBより)
視覚障がいの水泳では、見えないため、壁の位置を知らせるアシスタントがいます。タッパー(タッピングバー)と呼ばれる釣竿などの先のスポンジで、選手の頭などを叩く「タッピング」で、見えない選手に壁を知らせるのです。
選手はこのタッピングを頼りにターンをするので、タッピングのタイミングがターンのタイミングに、そしてタイムに直結します。
盲学校時代は水泳部で生徒と一緒に泳いだり、タッピングをしたりしていました(こうして振り返ってみると、盲学校時代は大抵の部活動に参加していましたね笑)。
見えない状態で泳ぐと左右のバランスを取るのがとても難しくなります。僕自身も水泳を習っていましたが、目で見ながら無意識に左右のズレを修正しているんです。それが視覚障がいの水泳だと難しく、盲学校の子どもたちはコースロープにぶつかりながら進みます。まっすぐ泳ぐフォームの工夫を知らなければ気づかないポイントです。
それとタッピング、する方もされる方も慣れるまでは正直、恐怖心があります。僕自身も見えないゴーグルを着用して泳いだり、頭をぶつけて生徒と一緒にその痛みや恐怖心について語り合ったこともありますが…
そん僕の個人的な思い出はさておき、やはりこのタッピングのタイミングもタイムに直結する重要なポイントです(プールサイドへの激突への恐怖心を乗り越えた選手の皆さんの泳ぎもです)。
個人的には『闇を泳ぐ』を読んでからファンなになった、東京パラリンピック金メダリストの木村敬一さんの活躍を応援しています。
(画像はパラサポWEBより)
9.パラトライアスロン
(画像はパリ2024パラリンピックより)
(画像はMA SPORTSより)
最後は鉄人競技ともよばれるパラトライアスロン です。
今まで紹介してきたように見えない選手をサポートするため、ガイドがつきます。ランとスイムでは、伴走者とロープで繋がります。バイクはタンデムバイクです。
主役はもちろん選手、でもそれを支えるガイドとの連携からも目が離せません。オリンピックでは、選手だけでなくガイドも一緒にメダルを贈られるのだそうです。
(画像は毎日新聞より)
文字通り二人三脚で挑むパラトライアスロン 。選手はもちろん、ガイドとの連携も要チェックです。
まとめ
パラリンピックの競技紹介と言いながら、単に僕が自分自身の盲学校時代の思い出を振り返る記事みたいになってしまいました笑。
5人制サッカーやゴールボール、あるいは視覚障がい柔道の世界で僕が関わってきた子たちが活躍しているのを見ると単純に嬉しくなります。そんな意味でも今回のパリパラリンピックは個人的にとっても楽しみです。
またこれを機会に視覚障がいスポーツに興味を持ってくれる人が増えればいいなぁと思っています。僕自身がやっているフロアバレーボール(今年の8月には東京で盲学校の全国大会があります)やグランドソフトボール、サウンドテーブルテニスなどパラ種目になっていない、魅力的な視覚障がいスポーツがたくさんあります。
フロアバレーボールはマガジンも作っているので気になった方はぜひ覗いてみてください。
この記事が、読んでくれたみなさんが視覚障がいスポーツについて知る、興味を持つきっかけになれば幸いです。
参考にしたサイト
表紙の画像はAFP BB Newsより引用した、パリオリンピック・パラリンピックのロゴマークです。