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盲学校からの発信「子どもたちの世界を広げる、科学へジャンプ」

科学へジャンプって聞いたことありますか?

視覚に障がいのある子たちがさまざまな体験するイベントなんです。3泊4日のサマーキャンプと地域版、そしてITワークショップの3つがあります。

僕も盲学校時代に地域版に携わらせていただいたことがある、思い入れのあるイベントです。

今回はそんな科学へジャンプについて紹介します。


科学へジャンプ・サマーキャンプ

サマーキャンプは、全国の視覚障害がある中学生・高校生に参加を呼びかけて、隔年で開催される3泊4日の合宿型のイベントです。

 「科学へジャンプ」は、2008年のサマーキャンプからスタートしました。 「視覚障害がある生徒のための科学へジャンプ・サマーキャンプ」として、全国の盲学校や視覚特別支援学校、 あるいは普通校に通っている視覚障害がある中学生と高校生に参加を呼びかけて実施されました。

科学へジャンプより

「目が見えなくても、あきらめることなく科学への夢をはぐくんで果敢に挑戦して頂きたい。」 科学という世界へ飛び込み、その楽しさを体験してもらいたい、そんな想いからスタートしたイベントです。

科学というタイトルですが、ワークショップの内容は理科や実験から社会まで、多岐にわたります。ホームページから最近の内容を引用します。

ものつくり 
 ・ラジオを作ろう
 ・ぶるぶる震える感光器を作ろう
理科
・博物館を五感でたのしもう
・網膜に像が映る仕組みを理解!
・月の秘密に迫ろう
実験
・気体の発生と性質
・炭酸カルシウムに含まれる二酸化炭素の量を実験で調べよう
IT
・タブレット端末を使いこなそう
・音楽をプログラミングしよう
・人工知能をプログラミングしよう
・音の形を調べよう
・地球の大きさを測る
数学
・アルキメデスの墓に刻まれた球と円柱の不思議な関係
・一筆書きを使って散歩道を見直そう
・立方体を手の中から紙の上に広げ、紙の上から頭の中に組み立てる
・統計的考え方で毎日を賢く暮らそう
社会
・身近な生活から社会をさぐる

視覚障がいの子たちが実験?IT?と疑問に思われた方もいるかもしれませんが、盲学校でも視覚情報を聴覚や触覚に変えた実験はたくさん行われています。画面拡大や画面読み上げ機能を活用したパソコンやスマホについても同様です。

地域の中学校・高校に通う視覚障がい児たちは、なかなか実験に参加できず記録係になったり、教科書などから実験内容を確認するだけで終わってしまうことも少なくないようです。

でも、科学へジャンプなら、視覚障がい教育のノウハウを活用し、視覚障がいの子たち1人ひとりが主役となって実験などのワークショップに参加できるのです。

サマーキャンプの取り組みはこちら報告書でも詳しく解説されています。

「科学へジャンプ・サマーキャンプ2008報告書」

「科学へジャンプ・サマーキャンプ2011報告書」

「科学へジャンプ・サマーキャンプ2014報告書」

「科学へジャンプ・サマーキャンプ2015報告書」

「科学へジャンプ・サマーキャンプ2017報告書」

「科学へジャンプ・サマーキャンプ2019報告書」

「科学へジャンプ・サマーキャンプ2022報告書」

科学へジャンプ・地域版

サマーキャンプの実施が大きな反響を呼び、科学へジャンプが全国のネットワークへ広がりました。 毎年、北海道、東北、関東、北陸、東海、関西、中四国、九州の8ブロックで視覚障がいの子どもたちが参加し、日帰りで午前・午後のワークショップに参加する地域版の催しが開催されるようになりました。これが科学へジャンプ・地域版です。

僕自身も盲学校時代にこの地域版に携わらせていただきました。ワークショップの講師もさせていただいたこともあります。

印象に残っているのは京都の街中を探索したワークショップです。

京都は歴史的な景観を守るために、建物の高さや形の規制、看板などの色が配慮があると聞いたことはありますか?

ワークショップでは、実際に会場の京都府立盲学校周辺を散策し、参加者は講師の話を聞きながら、地形や地名をもとに過去の歴史的背景を振り返ります。気分はまさにブラタモリです。

看板や自販機の色の話になると、参加者の視覚障がい児たちは各自のスマホを取り出し、写真に写った色を音声に変換してくれるアプリ(Color Say)が「茶色」と読み上げるのを聞いて、「おぉーほんまに茶色なんや!」と驚きの声をあげていました。

茶色の郵便ポストと郵便局の看板

(画像はさくさくふくしま散策より)

茶色に塗装された自販機

(画像はぶらり@web走り書きより)

他にも筑波附属視覚特別支援学校の鳥山先生による「骨は語る」や、沖縄県の美ら海水族館によるサメなどの標本を使ったワークショップ、地域の盲学校の先生方や博物館の学芸員さんによるワークショップも開催されていました。

どのワークショップも、耳で聴く、手で触るなどの目以外の感覚を活用して視覚障がい児たちがわかる、楽しめる内容になっていました。

他の地域でも魅力いっぱいのワークショップが開催されています。

(画像は科学へジャンプ・イン東京2022より)

(画像は科学へジャンプ・イン名古屋2019より)

(画像は科学へジャンプ・イン北海道2019より)

科学へジャンプ・ITワークショップ

視覚に障害のある生徒・学生を対象に、最新支援技術を含むIT活用方法の研修やさまざまな支援機器の紹介、コンピュータの使用方法のレクチャー、機材の貸し出しによる自宅実習などを実施しているのが、学校科学へジャンプ・ITワークショップです。2018年の内容は次の通りです。

1.音楽をプログラミングしよう
講師:井上浩一(株式会社リコー)
単純な決まりに従った演奏命令を理解し,入力 → 演奏 → 修正のループを体験することで,コンピュータの命令通りに動かすことに興味を持ってもらうことを狙いとしました。
2.コンピュータシステムを作っちゃおう!
講師:小林真(筑波技術大学)
センサーやスピーカーとプログラミングを組 み合わせてミニコンピュータシステムを作りました。

(画像は科学へジャンプより)

(画像は科学へジャンプより)

ワクワクする魅力的な内容、そして同世代の見えない・見えにくい子と一緒に過ごす時間

少し長くなりますが、『科学へジャンプ サマーキャンプ2022報告書』から参加生徒の感想を引用します。

無題 中3女子(ロービジョン)
今回のサマーキャンプを知った時、初めは新潟ということもあり、参加をためらっていました。参加が決まった後にも向こうで友達はできるだろうか。ホテルは相部屋だろうか。こんなに難しそうなワークショップばかりなのに楽しめるだろうか。などと様々な不安が渦巻いていまし た。でも、最高の 2 日間を過ごした今では参加して本当に良かったと思っています。
行ったすぐの自己紹介から空気が和み、その後も毎回違う子との食事やワークショップを重ねているうちに一日目が終わるころにはすっかり仲良くなっていました。また、座談会でいつもはあまり人に話せないことや質問、上手な生き方などを教えていただくことができて勉強になりました。夜にも女子会をしたり、一緒に大浴場に行ったりと同じ部屋でない子ともとても仲良くなることができました。
二日目は前日とはまた違った距離でワークショップや食事などを楽しむことができ、今日帰らなければいけないということを認めたくありませんでした。二人が少し早く帰ったのがとても寂しく、惜しかったけれど、その後もみんなで最後まで楽しみつくすことができました。心配していたワークショップは全て手元でゆっくり触ったり、見たりしながら学習でき、分かりやすく面白く教えていただいたのですべてとても楽しかったです。
閉会式の時にはみんなキラキラ、にこにこしていて、もちろんすべてが最高だったけれど、そ れだけで来てよかったなと思えるほど、本当に素敵でした。今回のサマーキャンプで、将来の夢もまた少し固まり、自立への第 1 歩も踏み出せたと思います。今回学んだことを忘れずにこれから頑張っていこうと思います。みんなに会えたこと、こんなに貴重な体験ができたことを誇りに 思います。言葉では表せないほど本当に素敵な経験をすることができました。もし次参加できる 機会があったらぜひ参加したいです。
関わってくれた全ての方々、生徒の皆さん、本当にありがとうございました!

視覚障がいは身体障がいの中では数が少なく、盲学校以外で学ぶ子どもたちの多くは、同年代の同じ視覚障がいのある友人を持つ機会がなかなか持てないという話を聞きます。クラスの中で自分だけがルーペや単眼鏡を使うのが恥ずかしくて、通級指導で練習してもいざ自分の学校では出せない…そんなケースもあります。

一方、地方の盲学校でも生徒数の減少が問題になっていて、教室に机が1つ、2つしか並んでいない光景も珍しくありません。

感想からは同年代の子たちと密度の濃い、楽しい時間を過ごせた様子が伝わってきます。みんなそれぞれ見え方の程度や境遇は異なりますが、離れた場所で頑張っている子がいるという実感を持てることは次の日からの頑張るパワーをもらえます。「サマーキャンプの直後から、子供が見違えるように意欲的に物事に取り組むようになりました」と手紙をくれた保護者の方がこれまでに何人もいらっしゃるそうです。

また中学校や高校では、視覚障がい教員の専門性や施設設備の面から十分な合理的配慮が受けられず、理科の実験や体育の授業に思うように参加できないという話も聞きます。

感想にもあるように、そして紹介してきたように視覚に障がいのある子どもたちが、自分自身でわかる、できる題材に出会い、楽しんで取り組むことができるのも科学へジャンプの魅力なのでしょう。そんな盲学校をはじめとする視覚障がい教育がもっと広がればいいですね。

参考までに過去の盲学校紹介記事をいくつか掲載しておきます。

まとめ

視覚障がい児が参加するイベント、科学へジャンプについての紹介でした。

僕自身がワークショップの講師をしたときもそうですが、子どもたちが真剣に楽しんで取り組んでくれる姿をみてとっても嬉しかったんです。機会があればまたさせていただきたいですね。

本当に同年代の子たちと関わることができる貴重な機会なのだと思います。ぜひ今後も続いていってほしいですね。

サマーキャンプは4月末頃までに申し込みのようです。次回は2025年でしょうか。地域版は各地域の盲学校の先生方を中心に活動されていて、時期は様々です。詳細が気になる方、参加して見たい方はお近くの盲学校に問い合わせてみるのもひとつです。

またホームページに募集要項が掲載されますので、そちらも覗いてみてください(コロナ禍以降、一部更新されていないものもあるようです)。

この記事から科学へジャンプに参加し、聞いて触ってわかる取り組みや同年代の子たちとの出会いへ繋がったら嬉しいな…なんて思いながら記事を書いてみました。

気になる方はまず科学へジャンプのホームページを覗いてみてくださいね。



表紙の画像は科学へジャンプホームページより引用しました。