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盲学校からの発信「盲学校ってどんなところ?」

盲学校って目の見えない子の通うところというイメージがあると思うのですが、それだけじゃないんです。

今回は盲学校歴10年の僕が、盲学校について知っている範囲で説明していきます。というかもっと早くに紹介すべきだったと後悔しています…。

盲学校にはどんな人が通っているの?

盲学校というと全く目が見えない=全盲の子が通っているというイメージがあるかと思います。僕も盲学校に来る前はそう思っていたのですが、視力や視野、まぶしさなどで見えにくさはあるものの目で見て拡大した文字を読んでいる=弱視の子もかなりいます。

見えない・見えにくくなった時期も、生まれつきや学校で学んでいる途中、働き出してから、徐々に進行していく中で、事故で突然などそれぞれです。

後で説明しますが、多くの盲学校では、幼稚部から小学部・中学部・高等部まであります。高等部には、あん摩マッサージ指圧師やはり師・きゆう師の国家試験合格を目指す理療科や、柔道整復科、理学療法科、音楽科、などもあり、年齢層も様々です。僕の母親より歳上の60オーバーの方に歴史を教えたこともあります。

そのように幼児から大人まで幅広い年齢層の方が通っていることや、かつての担任と校内で気軽に出会えるのも盲学校の魅力のひとつだと思います。

また視覚の障がい以外に、知的障がいや発達障がい、聴覚障がいや肢体不自由などを併せる重複障がいのある子もいます。

盲学校にはいろんな子が通っているのです。

どうやって勉強してるの?

教科書はそれぞれの見え方によって、点字の教科書や拡大教科書、通常の教科書、iPadなどに入った教科書のデジタルデータなどを使います。さらにルーペや拡大読書器などで文字や図を拡大して読む子もいます。

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(画像は愛知県立名古屋盲学校より)

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(画像は東書Eネットより)

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(画像はENJOYDAISYより)

見え方は本当にそれぞれなのです。

点字や拡大文字になるとページ数や冊数が増えて重くなるので、持ち運びは大変です。

(画像は記者撮影より)

黒板の板書は、弱視の子は単眼鏡という片方の望遠鏡のようなものを使って見て写します。
プリントは点字や、それぞれの子の見え方に合わせた文字フォント・ポイント(大きさ)のものが配られます。

授業の内容は、基本的には通常学校の教科書通りに進みますが、見えに配慮した様々な工夫があります。

どんな工夫があるの?

各教科での工夫を一部ですが紹介していきます。別の記事「触ってわかる工夫 まとめ」「音でわかる工夫 まとめ」にも一例が掲載されています。

国語では、全盲の子は小学校1年生で点字の読み書きを習います。点字を指で読むためには練習が必要なのです。漢字も習います、将来、音声を使ってパソコンを使うときに漢字変換が必要になるので、漢字の音訓読みや熟語を知っておかないといけないのです。

数学では、そろばん(玉が簡単に動かないように工夫されたもの)や触れる立体の図形や点図を使います。視覚障がい者向けの珠算検定もあるんですよ。目盛りが触れる定規もあります。

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(画像は広島中央特別支援より)

社会では、点図や立体コピー(線が盛り上がって触れる図)の地図を使ったり、石器や土器、模造刀や火縄銃の模型、大仏や寺院、お城などの模型など触れる実物教材や音声資料を使います。

理科の化学では、感光器という光の強弱を音の高低に変えて教えてくれる道具を使って実験したり、生物では動物の頭の骨を触って観察することを通して動物の体の仕組みを考える取り組みなどがあります。

英語は耳で聴いて覚えるのが得意な子は大活躍です。でも、数学や理科の記号もそうですが、英語も日本語の点字とは体系が異なり、覚えるのは大変です。

技術・家庭(情報)では、のこぎりや金づち、ねじ回しなどの工具も使います。ディスプレイの表示を拡大・白黒反転したり、音声で読み上げることでパソコンも使用します。調理実習もありますし、手芸なども行われます。

体育はサッカーやバスケットボール、野球、バレーボールなどの球技は見えの問題で難しいことが多く、ゴールボールやフロアバレーボール、グランドソフトボール、サウンドテーブルテニスなどの視覚障がいスポーツが行われます。陸上競技や水泳も行われいます。

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(画像は全国盲学校フロアバレーボール大会より)

音楽が好きな子も多く、一度耳で聴くとすぐにピアノでその曲を再現してくれる子たちに何人も出会いました。音楽の道に進む視覚障がいの方もいますし、後述の音楽科が設置されている盲学校もあります。

美術(図工)が好きな子もいます。触って確認しながらつくれる陶芸は多くの盲学校で行われています。描いた線が触ってわかるように、線の盛り上がるレーズライターという紙を使うや、描いた線の上に木工ボンドを塗って固める、蜜ろう筆ペンを使うなどの工夫があります。

それ以外にも校内に点字ブロックが敷かれ右側通行になっていたり、廊下には手すりがついていたり、触れる校内地図があったり、棚や靴箱、机などに点字の名前シールが貼ってあったり、教室名を示す点字シールや鈴などの目印があったりと、子どもたちが学習したり生活したりするための環境が整えられているのです。

自立するための教科「自立活動」

自立活動というのはその名の通り、自立するために必要な力を身につける活動のことです。支援学校や支援学級以外では耳慣れない言葉ですが、自立活動の学習指導要領も出ています。

いろいろな項目があるのですが、盲学校でよく行われている内容は以下のようなものです。

①弱視(弱視の子がルーペや単眼鏡、拡大読書器などを使いこなして見る練習や見る力を高めるビジョントレーニングなど)

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(画像は楽天市場より)

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(画像は東京医療センターロービジョンクリニックより)

②点字(点字使用の子が学習効率をアップするための点字の触読や書きの繰り返し練習、点字文書や試験答案のレイアウトなど)

③歩行(校内の教室移動や教室内の机や棚などの位置関係、白杖を使った歩行訓練など)

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(画像は国リハニュース 国立障害者リハビリテーションセンター専門情報誌より)

④ICT(音声や拡大でのパソコンやタブレット端末、DAISY録音再生機や点字ディスプレイの操作など)

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(画像はFUJITSU FMVサポートより)

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(画像はキャノンシステムアンドサポート株式会社より)

⑤ADL(ADLは日常生活動作のことで、衣服の更衣や洗濯、整理、買い物や調理、掃除など身の回りの訓練)

目が見えなくても日常生活のいろいろなことはできるのですが、そのためには触って確認するポイントを知ることややり方や道具の工夫が必要になります。それらを自立活動の授業やそれ以外の授業の中でも学んで練習していきます(例えば僕の社会科の授業では、社会科のことだけでなく、プリントのファイリングや点字の校正なども行います)。

多くが都道府県に一校なので

盲学校は都道府県に一校しかありません。家から学校まで何時間もかかる子もいます。そして見えない・見えにくいことにより移動が困難な子も多くいます。

そういった子たちへの通学保障として盲学校には寄宿舎が設置されています。寮のような環境で集団で生活する中で、異年齢の子とも交流し、また食事や更衣、洗濯、掃除、入浴など身辺自立のための力をつけていきます。

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(画像は福井県立盲学校より)

寄宿舎によってはメイク講座や服コーディネート講座のような取り組みを行なっています。

他の学校にはない学部・学科

幼稚部が設置されている支援学校は珍しいのではないでしょうか(幼稚部がない盲学校もあります)。

見えない・見えにくい子たちは、見えない故に周りの大人を真似したり、きになるものを見つけて近づいていくことは、そのままだと少なくなってしまいます。

幼い頃から音や触覚でいろいろなものに興味を持てるよう、遊びの中で気持ちを高めていく関わりがとても大事になるのです。

また地域支援の一環として、親子支援教室などを開催されている盲学校も多くあります。

また普通科以外に、職業課程の学科が設置されています。

理療と言って、日本で古来から視覚障がい者の仕事としてあったあん摩・マッサージ・指圧師、はり師、きゅう師の国家試験合格を目指すコースがほとんどの盲学校に設置されています(視覚障がいの方の仕事といえば理療がまず出てくるほどです)。

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(画像は福岡視力障害センターより)

また理学療法士(PT)や柔道整復師の資格を取るコースがある盲学校もあります。
数は減ってきていますが、音楽科を設置している盲学校もあります。音楽家として活躍されている視覚障がいの方もたくさんいますし、点字の楽譜もあります。

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(画像は鹿児島音協公演情報より)

進路はどうなっているの?

大学や理療科を受験する子から、就職する子、就労のための訓練をする施設に行く子、いわゆる作業所のような施設に行く子など、その子によって様々です。

視覚障がいの音楽家も弁護士も医者も政治家も教員も事務員もいます。

でも就労や進学に関しては、見えなさによる移動の困難さがネックになることも多いです(多くの盲学校には通学保障のための寄宿舎やスクールバスがあり、保護者が自家用車で送迎する場合もあります)。

視覚障がい者だけの施設もありますが、視覚障がい自体が障がい者全体からすると少ない割合なので、入る施設を探すのも大変なのです。

地域における視覚の支援センターとして

支援学校にはセンター的機能と言って、近隣の学校の支援教育をサポートする役割があります。

盲学校にもその役割があり、視覚障がい児の在籍する学校へ支援を行なっています。具体的には、地域の学校への巡回指導や研修会の実施、地域の学校から子どもが訓練を受けに来る通級指導、地域や各市町村指導主事、保健師や眼科への啓発活動などです。

入学を検討したり、視覚障がいについていろいろと聞きたい場合には教育相談も実施しています。無料です笑。気になる場合は気軽に近くの盲学校へ電話してみてください。無料ですので。

また医療と教育と福祉を繋ぐスマートサイト という取り組みもあります。詳細は別の記事「スマートサイト まとめ」をご覧ください。

盲学校のいいところ

まず同じ視覚障がいのある友だちがいるというのは、通常校にはない一番のメリットだと思います。

多くの盲学校には理療科があり、そこでは視覚障がいの教員が働いています。視覚障がいの大人から話を聞く機会もあるのです。

視覚障がいに配慮した環境やカリキュラムがあり、視覚障がいの専門性や理解のある教員がいて、見えないことで不自由さを覚えることは少なく、快適な環境で学ぶことができます。

反面、児童・生徒の数は少なく、なかなか集団が確保できない現状もあります。校区が広く、同じ地域の子も少ないでしょう。しかし、弁論大会や生徒会あるいは部活動などで活躍する子どもたちの様子を見ていると、少人数だからこそ、責任ある仕事や大勢の前で発表する機会などが回ってくるんだと考えることもできるかと思います(人数が多いとなかなか主役になれる機会は巡ってこないかもしれません)。一般校から来た子たちの弁論を聞いて少ないからこそ大変な機会が多く巡ってきて、それが成長に繋がる面があるよなぁと考えさせられました。

教員数も多く、寄宿舎やスクールバスがあるなど手厚い支援を受けられる反面、配慮のない環境や自分で支援を求めていく環境がなく、卒業後の進路でギャップに苦しむことも多いかしれません。

盲学校にも通常学校にも、どちらにもメリット、デメリットはあります。どちらも比較、検討した上で、決められるのがいいと思います。

ただ、勉強についていけなくなったから盲学校ではなく、盲学校で力をつけてから通常校へという流れがもっとあってもいいのではないかなぁとも個人的には思っています。

まとめ

盲学校の紹介どうだったでしょうか。

僕も盲学校に勤務するまでは、盲学校=目の見えない子たちの学校でいろんな手助けが必要なんだと思っていました。

でも盲学校で育つ子たちはとてものびのびしていて、もちろん見えている弱視の子もいますが、廊下をタタタッとかけていって、教室に着くと自分のカバンから必要なものを出して机や棚にしまい後ろのロッカーになおし、授業では点字盤やパーキンスで素早くノートを書きと、なんでも自分でこなす姿に驚いたものです。

それは自分のことを自分でする態度を育てたり、必要な配慮や工夫があるからこそなのだと思います。

正直まだまだ盲学校の魅力は書ききれていません笑。

また盲学校からの発信として、盲学校の工夫や魅力を紹介していきたいと思います。別の記事「盲学校関係の行事・イベント まとめ」なんかもよければ読んでみてください。

その工夫は、見えない・見えにくい子だけでなく、多くの人にとっても役立つ工夫だと思っていますので。


最後に全国盲学校フロアバレーボール大会のホームページに掲載されている、全国盲学校一覧を紹介しておきます。各盲学校のホームページのリンクがあり、各盲学校での日常などを描いたブログや視覚障がいについての情報提供、学校独自のゆるキャラなど楽しい情報が満載ですよ。



表紙の画像は近畿農政局より引用した京都府立盲学校の写真です。京都府立盲学校は京都盲啞院にはじまる、日本で最初の盲学校で、その初期の史料は国の重要文化財に指定されています。