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退行催眠の話・後編その②


さて。

退行催眠の前回の続きです。

前回は、アレシュが戦争に行って負けて帰ってきて、敗戦の責任を問われた、というところまで描きました。

さて、敗戦の責任を負ったアレシュは、所属グループ(オレブ同盟といいます)の中での発言力を失い、半ば左遷のような形で居場所を追いやられてしまいます。

領地没収とまでは行きませんでしたが、没落というに相応しい没落ぶりでした。

あーあ、これからどうしよう。
と、アレシュが諦めに近いぼやきをしていたところに、救いの手が差し伸べられます。

それは、プラハのフス派グループからのもので、「今度隣国のポーランドに使節団を派遣するんだけど、アレシュも参加しないかい?」というものでした。

その橋渡しをしてくれたのは、オレブ同盟のイジー・フバルコフという貴族です。
この貴族は、以前にも私の夢に出て来た人物です。

今思い返すと、その夢は左遷されたアレシュをイジーが励ましてくれていたシチュエーションではなかったかと思うのです。

夢の内容を詳しく書きますと、夢の中のアレシュは、イジー宅の食事会に招待されてはいたのですが、他の貴族の従者的なポジションとしての参加でした。

アレシュが仕えているのは貴族家の令嬢で、けっこう冷たくあしらわれています。
それもそのはず、その時のアレシュは身分を降格させられ、執行猶予つきの受刑者のような扱いを受けていたのです。
夢を見たときは、アレシュがなぜそのような目に遭うのかまでの理由は分かりませんでした。

夢の続きと今回のヒプノセラピーの景色を重ねると、ようやく合点が行く内容となります。

夢の中、イジーの邸宅に入ると、長いテーブルにたくさんの椅子が並び、来賓のためにごちそうが並べてあります。

アレシュが仕える令嬢はアレシュに向かって言います。
「あなたは召使いの席で、パンのかけらでも食べてなさい。本来なら、あなたはこの場にふさわしくないのだから!」
と。

すごく冷たい。
あれか?戦死した貴族のドラ息子の姉か何かなのか?

ともかく、その時のアレシュは貴族の社交場から追放されるような立ち位置となっていたのです。

会場の隅で肩身の狭い思いでパンのカケラを口に運んでいると、そこに近づいてくる者がありました。
館の主、イジーです。

イジーはアレシュに言いました。
「君はそんな場所に居るべき人間ではない。かつての戦いでは、私は君に助けられたのだから。さあ、こっちへ来て、私と一緒にご馳走を食べよう。それに、良い話もあるんだ…」

そんなニュアンスのことを。

夢の中なので、意識の半分は私本人のものでした。
この、私に手を差し伸べてくれた人物は誰だろう、絶対に名前を覚えて目を覚ましてやるぞ、と思いながら、彼との会話に集中していました。
そしてまもなく、彼は自分の名前を教えてくれたのです。

「私の名前はChval…」

その瞬間、私は「よっしゃあ!覚えたぞ!」と言って飛び起き、すぐさまその名前の綴りをメモしたのでした。

で、その後1週間ほどかけてChvalの名を探した結果、見事に「Jiřík z Chvalkovic」という名前を歴史書の中に発見したのです。
しかも、その名の隣には「Aleš Vřešťovsky z Rýzmburka」つまり、アレシュの名前があったのです!

その夢は、私が自分の前世の名前を確信する決定打となりました。
それ以来、私はフス戦争の経緯を調べると共に、アレシュ・リーズンブルクという人物についての調査にも力を入れるようになり、現在に至ります。

さて、話をヒプノセラピーで見た景色に戻します。

イジーの言った「良い話」というのは、プラハにあるフス派組織「プラハ連合」で、近いうちに隣国のポーランドへ大規模な使節団を派遣するという動きがあるといい、そこにアレシュも参加してはどうか、という話でした。

アレシュの所属している「オレブ同盟」には、今のところアレシュの居場所はありません。だったら、その使節団とやらに参加してポーランドへの旅を経験するのも悪くないかな、とアレシュは思い、使節団への参加を決意しました。

アレシュは故郷を離れ、プラハへと向かいます。
そしてプラハ連合の使節団の面々と顔合わせをし、ポーランドまでの旅に出るのでした。

使節団での様々な人との出会いは、アレシュにとって感動の連続でした。
使節団は活気に満ちており、道中のキャンプでは様々な土地の出身者が談笑し、自分の土地にまつわる民話や伝説、先祖の武勇伝などを語って盛り上がりました。

使節団の隊長である「なにがし」という貴族は立派な武人で、アレシュは「こんな立派な人になりたいなぁ」と憧れを抱きます。
(ちなみにこの人物はヒネク・コルドシュタインと言う貴族で、数年後にプラハでクーデターを起こそうとし、鎮圧されてしまいます。その鎮圧軍を指揮したのは、このポーランド使節団でヒネクの副官をつとめたシモンという人物でした。使節団に参加している時は、まさか後年、かつての同胞が敵味方に分かれるとは思いもしなかったことでしょう。)

ポーランドへ着くと、その王室とフス派が何やら交渉をします。
史実によると、当時ボヘミアの王位が空白だったため、ポーランドの王族の誰かをボヘミア王にしよう、ということで使節団を派遣したとあります。

しかしその交渉は失敗に終わったようです。

帰路についた使節団は、まるでお通夜のような雰囲気でした。
プラハへ戻ると、使節団は解散。
参加者は、それぞれの地元へと帰って行きました。

アレシュも、故郷へ戻ります。

すると、故郷のオレブ同盟では勢力図が変わっていました。
オレブ同盟を攻撃するカトリック軍に対抗するため、オレブ同盟はフス派の急進派の名将「ヤン・ジシュカ」の助けを借りることにしたようで、ヤン・ジシュカとパイプを持った貴族が実権を握るようになっていたのです。

その中にはイジー・フヴァルコフも含まれていました。イジーの手引きにより、アレシュは再びオレブ同盟の主要ポジションに就くことができたのです。

その頃には旧権力者も一線を退いており、アレシュの復帰を妨げる者はいませんでした。おそらく、アレシュの留守中にイジーが動き、政権を奪取したのかもしれません。

政権を取り戻したアレシュは、その後オレブ同盟のリーダー格となって歴史に名を残します。

ヒプノセラピーでは、その後のアレシュの活躍も追体験することができました。

ざっくり言うと、オレブ同盟の都市に敵の大軍が攻めてくるのですが、アレシュが敵と交渉し、無血で都市を守る、という流れになります。

(でも、歴史書で調べてみると、時系列的にはアレシュが左遷される前に、それが起きています。たぶん、一番盛り上がるエピソードを最後に紹介したくて、アレシュは話の順番を入れ替えたんじゃないかな、と思います。)

そのオレブ同盟防衛譚については、また次の機会にお話しします。

今回はこれでおしまい。

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