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憎しみでねり上げたとりもち カイヨワの蛸

「憎しみでねり上げたとりもち」一体何のこっちゃと思うだろうが、蛸である。蛸=タコ=たこ。ロジェ・カイヨワの『蛸』を読了。蛸は古代ギリシアの時代から知られており、必ずしも正しくない多様なイメージと共に語られてきた。


ディオゲーネスは生まのたこを、むきになって食べつづけて死んだという。(中略)つまらない動機のためだが、彼は命を捧げたのである。
P.28

このディオゲネスはあの樽のディオゲネス。つまらない動機と切り捨てられてしまっているが、歴史上最初に蛸が著名人を殺した事例かもしれない。そしてたこは好色なイメージと共に催淫効果があるとも言われていたらしい。

オッピアノスは『漁について』のなかで、たこはとくに好色で、淫らな性向を持っていると、公にあばいている。欲情の激しさがたこを破滅させる。「たこの宿命的な結婚とその痛ましい死は、きびすを接して相ついで起こる。愛の終わりが同時にその命の終りなのである。オスがメスから離れ、快楽にふけることをやめるのは、体力がなくなって離れざるをえなくなった時であり、疲労と極度の消耗によって砂の上に倒れてしまったときである。あとは、オスはそばを通るすべてのもののえさになって、食べられてしまう」P.28

しかし後の研究によると、たこの交尾はオスとメスがほとんど接しないというのだからこれはかなり勝手な妄想で、完全なフィクション。冷静に考えると酷い話だよ。勝手にあいつエロい、とか言われてた訳で。人間の妄想力は逞しいし、根拠のないことを雄弁に語ってきた歴史が垣間見える。

そして多様なイメージは物語によって増幅されていく。たこに対する誹謗中傷としてはヴィクトル・ユゴーがすごい。言葉の選び方がすごい。ユゴーすごいな、と感心してしまった。

「もし恐怖を与えることが目的であり、どんな目的でもすべて理想として認められるのだとしたら、蛸以上に優れた作品はない」
「まるで灰でつくった動物だ。それが水に住んでいる⋯⋯」
「それはこじらせて奇型にした病気である」
「この怪龍は全身、感受性のオジギソウだ」
「意志をもった粘つき、これほど恐ろしいものがあろうか! 憎しみでねり上げたとりもち」
P.57 -P.58

「感受性のオジギソウ」ってのも意味わからないけどパワーワードだよなぁ。ユゴーの『海で働く人々』という作品でタコと戦うらいいのだけど、ちょっと読みたくなってきてしまった。しかし意外と入手しづらい状況のようだ。いや、しかしユゴー、読もうかな。レミゼも真面目に読んだことないんだよな。

とりあえず『海に働く人びと』は新刊だとやや大げさな作品集しかない。古本で潮文庫版を買うこととする。蛸からユゴーに繋がるとはなぁ、たこ焼き食べたいがやってないのが残念である。

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