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【備忘録】「朝日新聞の良心」が安倍事務所の顧問を自称していた件について

 朝日新聞が、編集委員の峯村健司記者(ご本人いわくSNSでは「朝日新聞の良心」という評価を受けているそうですにゃ)に停職1カ月の懲戒処分を下したと発表した。峯村氏のnoteでまず事態を知り、その後朝日のサイトで確認したという時系列なのだが、この件については「政治家と一体化してメディアに圧力をかけたと受け止められても仕方がなく、極めて不適切」という社側の峯村評が正しいと判定せざるを得ないですな。

 私なりに朝日新聞と「朝日新聞の良心」の言い分を総合して堅いところだけ取り出して事実関係を記すと、次のようになる。

 すなわち、「朝日新聞の良心」(以下面倒くさいので峯村氏とする)は安倍晋三事務所(なのか安倍センセー個人なのか知らんけど)の「顧問」として、旧知の週刊ダイヤモンド記者に「ファクトチェックしたいからあなたが行った安倍インタビューの記事のゲラを見せてほしい」と求めた――。

 まず朝日の記者でありながら安倍センセーの「顧問」を名乗った時点でアウト。安倍晋三顧問の書いた記事が客観的だと受け取る読者はおらんでしょう。それがたとえ安倍センセーとは無関係の国際記事だったとしても、ね。

 百歩譲って赤旗とか聖教新聞ならいいんですよ(あと総会屋の出すなんちゃって業界誌とかね)、特定政党の機関紙的媒体の記者なら「しんぶん赤旗記者兼志位和夫顧問」とか「聖教新聞記者兼山口那津男顧問」の肩書きで記事書いても違和感はまだ少ないかもしれんど、不偏不党のジャーナリズムを標榜する朝日の記者が安倍ちゃん顧問はねえだろー。

 自社とは別メディアの記者に「ファクトチェックさせろ」「ゲラ見せろ」と伝えたという点に至っては、もう論外。いいなーボクも朝日の記者に一度でいいからこの科白言ってみたいなー。記者クラブで午後8時ぐらいに朝日のブースに行って、知り合いの朝日記者に「明日のおたくの朝刊のゲラ見せて。間違ってないかファクトチェックすっから」。たぶん殴られると思います。

 峯村氏は、核共有という日本の国際的信用に関わる重大な問題に関する重大な誤報を回避するため、ジャーナリストとして「現実に誤報を食い止めることができるのは自分しかいない、という使命感」を持って、かような行動に出たと説明している。安倍ちゃんが核共有について机上の空論を振り回すと中国の反日プロパガンダに利用される、とでも言いたいんだろうか。

 率直に言って、「ジャーナリストの使命感」をうんぬんする案件かねえ。中国とケンカになったらそれはそれでケンカになっとると報道して、安倍ちゃんに反論させればいいじゃん。

 それにしても「ファクトチェック」をしてほしい、という安倍ちゃん側の依頼も良く分からんな。いくら海外出張が入っていたからといって、今の時代メールでも何でもゲラのやりとりなんてできるだろう。

 実は安倍事務所は以前、インタビューのゲラチェックをしていなかったが、ここ数年、とりわけモリカケ疑惑の頃からやるようになったという話もある。今回も事務所側でやりゃー良かったのに、なぜ「朝日新聞の良心」(あ、また使っちゃった)に外注したのか? 安倍ちゃん側と峯村氏の間でどういうやり取りがあったのか、もっと詳細を知りたいところ。

 ちなみに私が峯村氏だったら、「はいはいダイヤモンドに聞いときます」と安倍ちゃんに伝えて、実際は何もせずに放置プレイだな。それで安倍ちゃんとの線が切れたら、それはそれで良し。そういう不健全な関係はそもそもジャーナリズムと相容れないのだから、いずれドツボにはまる。まさに峯村氏のように。

 記者と政治家や官僚との関係は確かに難しい。「虎穴に入らずんば虎子を得ず」。「政治家に取り込まれているように見せて実は取り込まれていない」というギリギリの線を求めないと、ボブ・ウッドワードみたいな「政権の内幕話」は書けません(権力と対決して名を残す記者ももちろんいます)。

 さらに、男女関係になった外務省の女性事務官からゲットした機密資料を社会党代議士に渡して国会で追及させる、という荒技を使った元毎日記者・西山太吉氏の例もある。ブンヤとはあらゆる手を使ってネタを取り、さらに取ったネタを転がして「世論を喚起」したい、と思うもの。

 その結果公益(知る権利とかね)が満たされるならいいんじゃない、というマキャベリズムも個人的には嫌いじゃないんですが、ジャーナリストはジャーナリストである以前に一市民でなけりゃいかんのだから、スパイと違ってネタの取り方・扱い方には法律や一般的な倫理が適用されねばならん。西山っちはこれを超えちゃったんだな。

 某記者は某官僚とできてて柱の陰でよく痴話喧嘩してたとか、某記者が某政治家の自宅に泊まったとか、とりわけ女性記者にまつわる際どい話は今でも時々聞く。繰り返しになりますが、スパイじゃないんだから、みなさん倫理は大事ですぞ。

 いずれにせよ、今回の峯村氏の件は、ネタ取りにいくために安倍ちゃんと仲良くなりすぎた、という構図ではなく、政治家の手先となってよその報道活動に介入しようとした、という構図。擁護できませんな。

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