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朝日新聞社による不公正な処分についての見解

4月13日付けで朝日新聞社から停職1カ月の処分を受けます。元々、4月20日の退職が決まっていたため、実質的には1週間の停職となります。
私は、最大の政治トピックの一つになっているニュークリアシェアリング(核共有)について、重大な誤報記事が掲載されそうな事態を偶然知り、それを未然に防ぐべく尽力し、幸いにして、そのような誤報は回避されました。
朝日新聞社は、そのような私の行為について、「特定の個人や勢力のために取材・報道をしてはならず」「取材先と一体化することがあってはならず」といった社内で定めた朝日新聞記者行動基準に反するとして、「停職1ヵ月」の処分をくだしたものです。
ご心配をおかけした皆様に今回の経緯を詳しく説明いたします。

【経緯】

事の発端は、3月9日、安倍晋三議員が週刊ダイヤモンドの記者(以下、「A記者」)から独占インタビューを受けた際、A記者がニュークリアシェアリング(核共有)について重大な誤認を前提としたような質問がなされたことに始まります。

私は、中国問題をはじめとした安全保障分野の知見があることから、かねがね政府高官らから相談を受けることがあり、安倍氏にも外交・安全保障について議員会館で定期的にレクチャーをさせていただいていました。安倍氏が首相特使としてマレーシアに向かう前日の3月9日も、ロシアによるウクライナ侵攻など最近の国際情勢について説明をしていました。

その際、安倍氏から「先ほど週刊ダイヤモンドから取材を受けた。ニュークリアシェアリング(核兵器の共有)についてのインタビューを受けたのだが、酷い事実誤認に基づく質問があり、誤報になることを心配している」と相談を受けました。A記者からは、ニュークリアシェアリングについて、「拡大抑止と概念的に同じ」「日本と韓国による拡大抑止」といった発言のほか、あたかも中国と北朝鮮がニュークリアシェアリングしているともとれるような誤認をしたままの質問がなされていたそうです。

安倍氏からA記者の名刺が提示されました。私はA氏とは約2年前からの知り合いで、今年1月には、A氏のインタビューを受けてダイヤモンド誌に掲載されています。昨年12月の段階では朝日新聞を辞職する意向を伝えており、辞職後には同誌への執筆と書籍の出版を相談していた程の仲でした。なお、A氏は外交・安全保障を専門分野とする記者ではなく、ニュークリアシェアリングについての正確な知識がないことも想像できるものでした。

そして、安倍氏からは「明日朝から海外出張するので、ニュークリアシェアリングの部分のファクトチェックをしてもらえるとありがたい」と言われました。安倍氏との面談後、安倍事務所の秘書からも「A記者から3月13日までに修正をしてほしいといわれた。しかし、明日から代議士が出張に行くので、確認が確約できない、と伝えたが、『紙面に穴を開けるわけにはいかないから掲載を強行する場合もある』と言われ、対応に困っている」と相談されました。

私はひとりのジャーナリストとして、また、ひとりの日本人として、国論を二分するニュークリアシェアリングについて、とんでもない記事が出てしまっては、国民に対する重大な誤報となりますし、国際的にも日本の信用が失墜しかねないことを非常に危惧しました。また、ジャーナリストにとって誤報を防ぐことが最も重要なことであり、今、現実に誤報を食い止めることができるのは自分しかいない、という使命感も感じました。この時、私の頭によぎったのが、朝日新聞による慰安婦報道です。誤った証言に基づいた報道が国内外に広まり、結果として日本の国益を大きく損なった誤報でした。

私は3月10日、A記者に電話をして、事実確認を徹底するように助言をしました。A記者からは「安倍氏に取材したのをどうして知っているのか」「ゲラをチェックするというのは編集権の侵害だ」などと強く反発されましたが、私も重大な誤報を回避する使命感をもって、粘り強く説得しました。「全ての顧問を引き受けている」と言ったのも、安倍氏から事実確認を依頼されていることを理解してもらうためでした。

A氏は私にはゲラの開示等は拒みましたが、後で知ったこととしては、A記者はその後安倍氏側と事実関係の確認し、誤認を正したうえ、3月26日付けの同誌に無事に掲載されました。

【処分の不当性】

6日付けの処罰通知書によると、私は、朝日新聞記者行動基準の「特定の個人や勢力のために取材・報道をしない」「取材先と一体化することがあってはならない」という部分に違反したということです。
百歩譲って、安倍氏が私の取材先であったり、あるいは、取材先であったりするのであれば、形式的にはそのような基準に抵触するともいえるかもしれません。

しかしながら、私は今日に至るまで、一回も政治部に所属したり政治取材に関わったりしたことはなく、安倍氏に対して取材や報道はもちろん、やりとりをメモ書きにしたことすらもありません。また、私はこの時点ですでに、朝日新聞側には辞意を伝えており、将来的に取材先となる可能性もありません。

ちなみに、私は、安倍氏から過去にいかなる金銭等も受領していません。安倍氏からは完全に独立した第三者として専門的知見を頼りにされ助言する関係であったのであり、「一体化」したようなものではありません。また、朝日新聞社は「政治家と一体化して他メディアの編集活動に介入した」と指摘していますが、政治家の不祥事や批判記事に介入したわけではなく、ジャーナリストとして致命的な誤報を阻止しようと行動しました。

なお、「取材先との一体化」については、2020年5月、朝日新聞東京本社に勤務する男性社員が、緊急事態宣言下に、東京高検検事長とマージャンをしていた問題を受けて、改定されたものです。この社員は緊急事態宣言下において、計4回、金銭を賭けてマージャンしていました(これは犯罪行為です)。この社員は東京社会部の司法担当記者だった2000年ごろ、黒川氏と取材を通じて知り合っています。当該規定は、まさに、このような取材先と不適切な関係をもつ場合に適用されるべきものです。

当然、私は、会社の取り調べに対しても、以上のような経緯を詳しく、一貫して誠意をもって説明してきました。しかし、ゼネラルマネージャー補佐らは、私の説明について耳を傾けようとせず、当初から「処分ありき」の姿勢でした。

私は北京特派員時代、中国当局に25回拘束され、取り調べを受けてきました。最長で9時間にわたって強引な尋問を受けたこともありました。しかし、今回の朝日新聞による取り調べは、愛する会社からの仕打ちという意味で、強権国家の警察当局の取り調べをもある種で上回る精神的苦痛を感じるものでした。朝日新聞を愛して入社した私として、残念でなりません。

【転職先への妨害行為】

さらには、朝日新聞社は、本件処分がくだされる前にもかかわらず、私の複数の転職先に処分を事前に通告していたことが判明しています。転職妨害の強い意図を感じ、恐怖にすら思っています。

【終わりに】

私は1997年の就職活動の時から「朝日新聞こそが社会正義を実現できる」と信じて入社、四半世紀にわたって朝日新聞社および日本、世界の平和や正義のために身を粉にして尽くしてきたと自負しています。また、複数の大学でジャーナリズムの担い手となりうる学生たちの教育もしております。今でも「朝日新聞が日本のジャーナリズムの健全性を支えている」と信じており、退職後も朝日新聞の良き応援者であろうと思っていました。

しかし、退職間際になって、こうした不当な取り調べや違法な処分を宣告されたことは、非常に残念であり、率直に言って裏切られたと感じています。
朝日新聞社は2014年、慰安婦報道を検証した特集紙面で誤報を取り消しながら謝罪をしなかったことや、東京電力福島第一原子力発電所事故にかかわる「吉田調書」をめぐる報道などで、読者や社会の信用を大きく傷つけました。問題を検証した朝日新聞社の第三者機関「報道と人権委員会」(PRC)は「報道内容に重大な誤りがあった」「公正で正確な報道姿勢に欠けた」と判断しています。慰安婦報道の第三者委員会報告書でも、事実に基づかずに「朝日新聞の方向性に沿うように『角度』」がつけられて報道されているという批判がありました。

今回の取り調べでも始めに「処分」の結論ありきで、朝日新聞的な「角度をつけた」ものと言わざるをえません。

私はこうしたいかなる「角度」をつけないために、事実を徹底的に掘り下げ、思い込みを排除して客観的な報道をしてきました。こうした姿勢が評価され、「ボーン・上田国際記念記者賞」および「新聞協会賞」という外部の栄誉ある賞をいただいたと自負しております。SNS上でも「朝日新聞の良心」と言われる所以だと思っております。

私は朝日新聞を愛してやまない一社員です。だからこそ、朝日新聞社の悪しき「病理」が今なお存するのであれば、自ら犠牲になってでも、それを徹底的に排除することこそが、真のジャーナリストとして誠意を尽くすことになるとの思いでいます。

いずれにしても私は朝日新聞社を退社しますし、退社後は、まさに自身の最大の強みである、外交・安全保障分野に特化して、日本および世界のために全力で尽くす所存です。

そのような重大な職責を担うときに、辞めた会社からの実質1週間の出勤停止など目くじら立てることもないというご意見もあろうかと思います。

ただ、やはり私の出自である記者として育んだ真実を報じることや、「いかなる不正も許さない」という正義感を捨てられるものではありません。

朝日新聞社に健全な経営体質へと改革していただくためにも、今回の処分の不当性については法的にも明らかにしてまいりたいと思っております。

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