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イシューとテックをうまく組み合わせれば、解決できない課題はない。「ディープテック」第一人者が語るイノベーションの起こしかた

「儲かることよりも、とにかく世界を変えたい!」

そんな思いで100社以上を立ち上げ、利益を度外視して日々地球規模の社会課題の解決に取り組む人がいます。

今回のゲストはミドリムシで有名となったユーグレナの立ち上げにも参画した、創業請負人リバネスの丸 幸弘氏。

著書『ディープテック 世界の未来を切り拓く「眠れる技術」』のなかでは、イノベーションとは、必ずしも新しいテクノロジーを生み出すことではなく、人の考え方や心理状態を変えることだと話しています。

ビジネスとしての利益を度外視して目の前のイシューに取り組む丸氏が考える、イノベーションの起こしかたとは?

【ゲストスピーカー】
丸 幸弘 氏

株式会社リバネス 代表取締役グループCEO
東京大学大学院農学生命科学研究科応用生命工学専攻博士課程修了、博士(農学)。2002年大学院在学中にリバネスを設立。「最先端科学の出前実験教室」をビジネス化し、200以上のプロジェクトを進行させる。以降、アジア最大級のベンチャーエコシステムの仕掛け人として、世界各地のディープテックを発掘し、地球規模の社会課題の解決に取り組むほか、株式会社ユーグレナをはじめとする多数のベンチャー企業の立ち上げにも携わる。

佐藤 英丸 氏
btrax Japan Senior Advisor
1978年早稲田大学理工学部、980年米国スタンフォード大学大学院卒業。シチズン時計株式会社米国現地法人、AOLジャパン株式会社代表を経て、メディア·メトリックス·ジャパン株式会社、アバカス·ジャパン株式会社、エクスペディア·ジャパン株式会社日本法人、コムスコア·ジャパン株式会社の代表を歴任。2014年より、ビートラックス·ジャパン合同会社のシニア·アドバイザーに就任し、日本企業のイノベーション創出のサポートやスタートアップの支援などに携わる。

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――まずは株式会社リバネスが、やられていることについて教えてください。

丸氏:
我ながらユニークな会社だと思います。本当にいろいろなことをやっているので…。

リバネスは、僕が24歳の大学院生のとき、「子どもの教育」から始まりました。

当時は子どもの「理科離れ」がディープイシューだったんです。大学ではこんなに面白い科学や技術の研究が行われているのに、子どもたちにそのワクワク感が伝わっていかない。理科は単なる暗記ものではなく、まだ誰も知らないことを解き明かすことなのに、教育ではうまく伝えられていなかったんです。

そこで、大学院生15人でこの課題をやっつけるため、大学にある最先端の科学技術をわかりやすく子供たちに出前することを始めました。

子どもたちがワクワクすれば、「理科離れ」はなくなるんじゃないか? と考えたんです。

そこから僕は、子どもの教育をすることで世界が変わるんじゃないかと思い、「出前実験教室で世界が変わる!」と言っていました。投資家たちはピンと来ていませんでしたが…(笑)

要するに、科学技術を愛する人が現れれば、その武器を持って世界の課題を解決してくれるはずだと考えていたんです。

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佐藤氏:
当時「出前実験教室」に参加した子どもたちは、実際どうなったんですか?

丸氏:
うちに入社してますよ。中高生のときに受けて、当然のようにインターンしに来ている子もいます。

僕らは企業ホームページでも、「教育応援」「人材応援」「研究応援」というように「応援」という言葉を使っているんですけど、お互いに応援していくことこそがプレイヤーを増やすことだと思っているんですよ。

だから、子どものためにやっているように聞こえるけど、実は僕らは子どもたちから応援されてるんです。

今も毎年「出前実験教室」には顔を出しているんですけど、こんなことをする仕事だ、と説明すると子どもたちに「面白いな。俺も行きたいから会社潰すなよ!」なんて言われたりします(笑)。

そんな「子どもの教育」と共に、「知識製造業」と謳って、ベンチャー支援や大企業のカルチャーを変えていくような仕組みづくりなども行っている会社です。

――それはビジネスコンサルのようなものなんですか?
丸氏:

たまたま僕らと触れるとインキュベーションされちゃうんですよね。

ユーグレナのミドリムシのビジネスも、僕がバングラディシュの栄養失調の問題を解決するために、藻類の研究をやっていたところから始まりました。

ビジネスって頭でっかちになってベストを尽くさなきゃと思いがちで、みんな最高の課題を探そうと思うけど、僕は「たまたま」なベターチョイスで世の中のドットが繋がっていけばいいのにと思うんです。

その偶発的なセレンディピティをいかに高速回転させるか。そのために僕らの知識プラットフォームを各企業に使っていただいているんです。

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――丸さんは2019年に『ディープテック 世界の未来を切り拓く「眠れる技術」』を上梓されていますが、コロナ禍になってからディープテック界隈に変化はありましたか?

丸氏:
まず、コロナ禍によって人類のディープイシューが「感染症」だということがわかりました。今まではアフリカの奥地で起きていたようなことが、人類全体に広がってディープイシューになったんです。

日本だけの技術じゃとても撲滅できない。その結果、世界中の研究者のあいだで、「お前のところ、ワクチンの研究どこまで進んでる!?」と繋がるようになったんです。

――それは「ワンテクノロジー・ワンカンパニー」にも大きく関わる話ですか?

ひと昔前のハイテク時代には、いわゆるインテルの半導体のように、1個のコアテクノロジーが課題を解決してきたけど、今はそれじゃ限界が来て、テクノロジーの集合体を作って課題にアタックする必要性が出てきました。

これからはディープテックの時代。イシューとテックのプールを理解して、組み合わせられるようになれば、解決できない課題はない。

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佐藤氏:
今は世界各地の学会に行けなくなってしまった代わりに、オンライン移行して、アフリカやポルトガルの人も参加できるようになりましたよね。

丸氏:
そう。そうすると「えーっ、そんなことをやってるの!?」というのが起こるんですよ。学会はお金も時間もないと行けないけど、オンラインなら遠い国の人も参加できて、イシューとテックのありえない速度の組み合わせが起こる。

ただ、こういうとき「世の中にはいいことだけど、ビジネスになるの?」とよく聞かれるんですよ。逆になんでそんなにビジネスにこだわるんですかね。課題を解決することのほうが明らかに正義なのに。

顧客満足度や売り上げじゃない。僕らの顧客は地球ですよ。

タイのベンチャー企業『ReadRing』で視覚障害者向けの、点字出力デバイスの開発デバイス開発のプロジェクトがあったんですけど、タイだと特許を取得するのに5年かかる状況だったことがあるんです。

だからもう日本で出しちゃいなよ、とお金を出しました。リバネスの子会社である『NEST iPLAB』と連携し、日本の特許庁が実施している「スーパー早期審査制度」を活用した結果、約1ヶ月という短期間で権利化することに成功しました。「丸さん、何得なんですか?」と言われたけど、僕はこの技術が世界にいくのが大事だと思ったんです。

結果的に点字書籍の老舗出版社である『National Braille Press』が主催する国際的アワードである「Louis Braille Touch of Genius Prize for Innovation」を受賞して、今資金調達をしています。僕はそのプロジェクトを広げる仲間にしてもらえました。

これが広がったら視覚に障害のある人が助かるでしょ。感謝とともに何かが回るでしょ。それぐらいの気持ちでやってますよ。

それでもうちは増収増益。それは売上を気にしてないからです。もちろん世界が変わるなら減益してもいい。それがゴールじゃないし目的じゃないから。

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佐藤氏:
ビジネスで成功してる人は同じ考え方をしていますよね。UXをちゃんと見て、その人たちが喜んだら、お金は後からついてくる。そしたらそのお金で次のことをやる、というね。

――そういえば丸さんはIT業界のことは「チャラテック」と呼んでいましたね。

丸氏:
チャラから勉強させてもらっているんですよ。携帯が普及する前、最初にみんな携帯を配ったでしょ。それでみんなが感謝して、マネタイズされていく。これをディープテックの世界でもやればいいんですよ。

ビジネスのことを考えすぎなくても、先に走っていいことをすれば、みんなが継続したいと思って最終的にビジネスになっていくんです。

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――課題を解決するために、仲間を巻き込む秘訣や仲間の心に火をつける秘訣はありますか?

丸氏:
仲間の心に火をつけるとき、「自分型」を押し付けた瞬間、負けるんですよね。火って揺らいでいるからすぐ消えるんです。その揺らぎに一体化すると増幅していくから、相手の波長に合わせるのが火のつけかた。

たとえば研究者は目を合わせたがらない人が多いので、横に座って、数式を書きながら説明していくとか。その人に合わせて、気持ちよく話せる状態まで自分を持っていくのが大切だと思います。

巻き込む方法は……自分が情熱を持って笑顔で楽しんでることですかね。それ以外巻き込む方法はないんじゃないかな。

別にテンションが高いのが情熱なんじゃなくて、実はあまり表面に見えてない内側にあるものが情熱なんですよね。僕はテンションの高いだけの人は嫌いです(笑)。

うちの社員はみんな暗いんですよ。でも、「俺がやるしかない」「世界をこうしたい」という情熱の火をみんなが持ってる。それをどう揺らぎの法則で増幅させるかですね。

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――「情熱」が大切なんですね。

丸氏:
たとえばビジネスコンテストって「PLAN」から始まるじゃないですか。すでにマーケットがあって、まだ誰もやったことのないものに対して「PLAN」を立てるわけ。

一方で僕らは「QPMIサイクル」をまわしているんですよ。どんな課題や疑問があるか、という「QUESTION」から始まる。次に、その人がどういう情熱でドライブさせたいかの「PASSION」、誰とやりたいかの「MEMBER」、そして「INNOVATION」です。

チャラテックはお金でモチベーションをコントロールするけど、Z世代はお金では動かない。個人の情熱をどれだけ燃やすかのパッションドリブンで動くんですよ。

だって、日本で生きていたらまず死なないじゃないですか。今は金持ちになりたい人よりも、楽しくて世の中がよくなったらいい、という人が増えてきてる。だからこそ、「PASSION=情熱」があることは重要ですね。

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――ちなみにディープイシューはどのように探すんですか?

丸氏:
ディープイシューは、目の前にあることなんですよ。

日本は60年前は焼け野原だったんです。目の前がディープイシューだらけで、誰もがお金のためじゃなくて、目の前の課題を次の世代のためにどうにかしようと走った結果として今豊かになっただけ。

東南アジアを歩いてみると、万引きがあったり、プラスチックが海岸に溢れていたりして、「こんなにイシューがあるんだ!」と思うけど、現地の人たちは「川が浄化してくれる」と思っているから、イシューだと思っていない。

僕らが見えてるイシューと現地の人が見えているのものは違うんですよ。それは個人のベクトルに紐づくことで、直感と感覚が大事。ネットに転がっているようなものではないから、直接現地に赴いて見るようにしていますね。

――それらを解決する「ディープテック」において日本に優位性があると感じるのはなぜですか?

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丸氏:
今、こんなにコスト安く質の良い製造ができるのって日本だけなんですよ。でも、日本の人たちはそれをテクノロジーだと思ってない。「20年前に使ったもの」という認識です。

たとえばインドネシアでは石炭で発電所を回していて、ゴミをどうにかしたいのと、下水施設がないから雨が降るとすぐに洪水になってしまうという2つの問題がありました。

これらを同時に解決するために、石炭のゴミをポリマー技術を使って加工し、水を透過するブロックを作りました。でも、実際に道路に敷き詰めてみたらトラックの重みで割れてしまった。強度が足りなかったんです。

そこに、日本の化学会社が強力なポリマーを持ってる、ということで両者を繋げたんです。もうすでに技術があるから開発コストもかからない。こういうシチュエーションは無限にあるんですよ。

リバネスのミッションは日本と東南アジアを一体化することなんです。日本は人口減少国で、それがディープイシューでもありますよね。人は下がっているグラフを見ると恐ろしく思って、幸福度も下がるし、お金を使わなくなっていくんです。

一方で、なんでアジアに活気があるかというと、人口が右肩上がりだから。つまり「日本」で見るんじゃなくて東南アジアと日本をひとつとして見れば人口は増えているから、精神的に豊かになるんですよね。

今は政府を通さなくても民間の力で共同研究プロジェクトができてしまう。それをスポンサーしたいという人も多くいます。ディープテックで世界はすごい速度で変われるので、ぜひお金と情熱を持って僕のところに来てください。

――最後に、みなさんにメッセージをお願いします!

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丸氏:
僕はもともと研究者で、もちろんずっと研究しつづけることもできたけど、「ビジネスの仕組みを使うと世の中は速く変わるんだ」と気づいたから今こうしてビジネスの世界にいます。

博士まで行ったのに、会社を100社も作ったという人はまだ日本ではレアキャラですが、こういう人はもっといていいと思うんですよ。

だからお前ら、絶対俺を飛び越えてくれ。

僕はたまたまここまで来たけど、こういう生き方をする人がいないと世界が変わらないと思うので、ぜひ一緒に世界を変えていきましょう!

――丸さん、佐藤さん。本日はありがとうございました!


ライター いしかわゆき @milkprincess17
meetALIVE プロデューサー 森脇 匡紀 @moriwaking
meetALIVE コミュニティサポーター 植田成美 @763community

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