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第227話 わだつみの汐音

(わだつみのしおね)

 フェイクウールのオレンジ色のスカートを履くと、龍神へと想いを馳せる。

 神奈川県の海岸沿いから丸く突き出た江ノ島にはスサノオの娘たち……江島神社の弁財天が祀られていて、フランスのモンサンミッシェルと同様、干潮時には海水が引き徒歩で渡れる陸繋島(りくけいとう)となる。
 けれども現代、島には車も人も通過できる橋が架かり、その先にはいくつかの駐車場もある。

 島の中まで上がったのはあきらの入園当時以来。ママ友たちと遊びに来た際、遮るものなき空の中を食べ物を狙うトンビに混じり、龍が悠々と泳いでいる気配をすでに感じていた。

 今日、このスカートを選んだということ。
以前作った切り絵を模して巫女となると、私の中にイチキシマヒメの意識が宿る。彼女こそ切り絵の中で、足首のすぼまったオレンジ色のタイパンツのような衣装を纏っている弁財天そのもの。
 するとおそらくその内容とは龍神譚と子宮。ここ江ノ島も例に漏れず、改心した邪龍の伝説が残っている。となるとやはり、龍と弁財天との和合が今日のテーマだろうか。

 島内を奥へと進む山道沿いに分散しているお社はどこも歓迎ムードで、私とけーこが並ぼうとする時だけ嘘のように混雑が消え、まるで貸切のようになる。

「来てくれてありがとう。」
「お姉さん(イチキシマヒメ)も楽しみに待っていますよ。」
「今日はゆっくりしていってくださいね。」

 色んな方から、そんな言葉をいただいた。
そしてまた同時に、ここの龍が、どれほど弁財天を大切に愛しているかにある意味当てられっぱなしだった。そこかしこで龍神からの彼女への熱い想いが泉のように溢れていた。

 祀られる三女神(さんじょしん)の最後、奥津宮(おくつのみや)の敷地に入った次の瞬間、けーこがその超感覚により「地震だよ。」と教えてくれると、何も感じない私としてはやはり単純に驚いてしまう。
 建物の外にいる状態で、ごくごく微細な揺れを感知できてしまう彼女に相変わらずの人間離れを感じると、近くを歩く親子がわざわざ「茨城で震度4だって。」と、スマホの通知を読み上げてくれた。

 けーこによると、「あなた方が来てくれたことにより“繋がって”起こった地震です、だってさ。」とのこと。

「そりゃあ今日はどこ行ってもVIP待遇なわけだ。来て、私たちが直接何かするわけじゃないものね。」

 そうして笑いながらお詣りを済ませると、島の最奥部にある岩壁沿いの洞窟、“岩屋”を目指して長い階段を降りることにした。

……

 ここだったんだ……。

 改めて、我ながら“降ろして”創った切り絵との共時性に驚いてしまった。現在は何も祀られてはいないという二つの洞窟。
 けれどもそこは紛れもない龍穴で、果たして岩屋の眼前には、五年前の冬至を目前に完成した切り絵のイチキシマヒメその人が坐す、正にその子宮の海の景色が広がっていた。

 向かい合う龍神と弁財天である女神とが、その刹那の際(きわ)で愛を奏で続けている。岩屋の中で、ライティングの演出の元に設えられた龍神のモニュメントからは、オレンジ色のスカートの私に沸き立つような愛が届く。
 画竜点睛、像として『睛(ひとみ)』の黒目を欠いているにもかかわらず燃えるようななゆたさんの熱い視線が飛んでくると、私の心身も呼応する。
 耽溺とも呼べる世界に没入すると細胞たちのさざめきが聴こえ、離れ難い彼への愛がその場から去るのを困難にした。




written by ひみ

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実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説(笑)、ぜひお楽しみください。

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うーん、書けた途端に地震起こったけどしょうがない。申し訳ないけどエゴで内容書き直しても仕方がないのでこのまま行きます。むしろ『今日(16日)だよ。』って、何が起こるか内容伏せられたまま日付けだけ伝えられていたのでそういうことなのだと思います。

現実面で対応するところはきちんと対応する。やれることはやる。出来事には必ず意味があります。
その上で、『祈る』というのはそれもアプローチのひとつですが、『己の中の闇感情を精査する』、『今ここ』にセンタリングして飲まれないという方法も、この連載をずっと読まれてきたあなた方にならできる筈です。
恐怖、悲嘆、理不尽さに対する憤りなど。“あなたに”見つけてもらいたがっているそれらの感情を救い出してください。
祈りのベースに恐れがあるのなら、祈りで誤魔化して蓋をせずに恐れのほうを直視してください。

内の如く外も然り、外側で起こったことは、内側で過去に起こったことの投影でしかありません。
そしてその中には、陰と陽の両側面がちゃんとあるのだと“思い出して”ください。

さて。市杵島姫の切り絵については有料記事で過去に載せたとおり。解説済みですが、今日の内容が具体例として補足になったということもお分かりいただけると思います。(ちなみに明日も一部関連になります。)
『弁財天と龍』が『私と彼』の雛型、イコールとなっていることからも、あの切り絵にどれほど瀬織津姫はじめたくさんの女神が力を貸してくれていたかがわかると思います。
ここ最近連投していた通り、『私はあなた、あなたは私』ですから。


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