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第225話 裏切りの果て


「もし てぃろ いっしょ。」

 左手の甲にはそんな文字が刻まれる。
私がオリオンの闇へと堕ちた時、光に残ったてぃろの後悔。「もしも自分も一緒に行ければ……。」

 だけどね。

 あなたが『光』にいてくれたから、私はその光を目指してあなたへと戻ってくることができたんだ。イザナミと一緒にイザナギまで黄泉の奥へと行ってしまったら、私は戻り道を見失ってた。踏みとどまる決断って、ねぇ、それってすごいこと。
 てぃろ……。
光にいてくれて、オリオンへと共に堕ちないでいてくれて、本当にありがとう。あなたがそこにいてくれたから、みぃは戻ってこれたんだよ。

 すると彼がこう言いながら薬指を包んでくれる。

「てぃろと ぼくと ぜんぶのぼくから。
スサナルといっしょにいるから。」

 てぃろがスサナル先生と、段々統合してしまう。

 淋しいよ、悲しいよ。
私にたくさんの愛をくれたてぃろ。
みぃもひみも、てぃろが吸収されてしまうのはやっぱり嫌だよ。わかっていても消えないでほしいよ。

「あなたは ぼくのこと たくさんあいしてくれた。
いつでもいっしょ いるから。」

 ありがとう。私もてぃろが大好きだよ。

……

 父の命日が近づいてくると、母から三回忌の相談メールがやってきた。「あきらの学校もあるだろうし、こんな時世だから県外からわざわざ人に集まってもらうのも不安」なのだと綴られている。
 父の意識に用があれば、今となっては直通電話のようにいつでも繋がることができる。それに実際自己統合が進むにつれて両親への興味は薄れ、関心も殆ど無くなってきていた。

 その言葉に甘えて参加を辞退する旨を伝えると、それでも何となく弟の意識と繋がった。

 いつだったか一時(いっとき)、死んだ父から激しく意識が飛んできている時期があった。よくよく聞いてみると、父には私の弟に対する後悔が残っていることがわかった。

『もっとあいつに自由にさせてやるべきだった。あの子の生き方を奪ってしまった。』

 残念ながら、父がその“大切なこと”に気づいたのは自分の死期が近づいてから。
 その父からの伝言を弟に伝え、親子として確執があるまま今生の別れをした二人の仲介に入った、そんなことを思い出す。


……癖のあるお父さんだったからね、大事なことに気づくの遅かったよね。あんたも大変だったね。
 でも私、あんたのお姉ちゃんとして姉弟になれて嬉しいよ。

 そう伝えると、フワーっと光で満たされる。

 すると私の右側に、そんな弟のことを凝視するスサナル先生が現れる。
 この時の彼が、どんなことを思いながらじっと視ていたのかはわからない。けれどもただならぬ“なにか”を感じ取ると、「あんたはもう行きなさい。」と言って弟を逃がし、繋げていたコードも咄嗟に切ってしまった。

 あれ私、どうして庇ったんだろう……。

 ちらっと右側の彼を視て、そうして全てを理解した。“ようやく見つけた”、そんな意識が滲み出ていた。

「……あなたを視て、たった今事情がわかったわ。そういうことだったのね。」

……

 過去世において、スサナル先生は一人の戦国武将だった。謀られて、国を失った。
 その時敵に内通し、寝返った家臣こそが今の私の弟だった。

 私がオリオンを段々赦したことにより、同時にてぃろの中の復讐心も浄化が進むとやがて統合への兆しが見えた。
 けれども今となって彼は、やっと見つけた憎むべき相手が“私”の家族として転生していると知り、どうしたものかと考えあぐねているようだった。

 かつての“彼の部下”を呼び出して巫女として体内に入れる。

「殿!殿!
本当に申し訳ありませんでした。取り返しのつかないことをしました。自分の利害だけで動き、とんでもないことをしました。
 謝っても許されることではありませんが、自分たちを大切にしてくれていた殿を裏切ってしまったこと、本当に申し訳ありませんでした。」

 そんな“家臣”に聞いてみた。

 敵から誘われて美味しい話に乗ったんでしょ?出世話だったから実行したんでしょ?それなのにあとから後悔したの?

「浅はかでした。あんなことになるなんて。
新しく仕えた方の元で、いかに殿が我々を大事に想ってくれていたのかを思い知りました。一国の主(あるじ)といってもこうも違うのかと知りました。恩を仇で返し、殿を謀ってしまったことを悔いました。」

「……おなご。」

 彼は自分の元から去った家臣には直接言葉を掛けずに、私を介してなんとか事態を飲もうとしているようだった。

「私なら、……うーん、私も色々辛かったけど復讐は止めた(やめた)わ。」
 美和も、みぃも、復讐できたら絶対すっきりするだろうなとは思ったし、だからあなたの気持ちもわかる。けどそのあと、あなたがまた闇に沈んで苦しむのは私も苦しいわ。」

「そうか……。ああ、そうだな。」

……

 弟が、『私の弟』になることを選んで生まれたということ。
 逃げ回ることもできた中では“それ自体”が懺悔であり、向き合って謝罪したいと望んだ弟の魂の意志なのだろうとそう思った。

 いつの日か、本当の意味で二人のわだかまりが解けてくれたら。

 そんなことを思いつつ、師走へと差し掛かる夜の空を見上げた。




written by ひみ

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実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説(笑)、ぜひお楽しみください。

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今世、“殿”を騙して裏切った男性が私の弟になったということ。ということは当時すでに罪悪感だとか恐怖だとかあったんだと思いますよ。利己的にいい思いをしようとして多くを巻き込み、結果、喪った(うしなった)主君の偉大さに喪ってから気づいたわけですから。
けどやはり弟も、魂の清算を決意したからこそ、殿と魂を同じくする私と家族になったということ。
十字架は簡単には外れないでしょうが、それでも大きな一歩だと思います。

それとあのね、
浄化をやって自分軸になればなるほど、ある種『血も涙もない』状態にはなります笑
今世の弟の人生ってけっこうハードモードなんですが、「やっちゃったんだから自分で頑張りな」って思うし、今は父にも母にも正直興味がありません。
こう書くと怖さだったり怒りだったりエゴが反応する方もいそうですが、そこらへんの解説も過去に済んでいるので読み返してください。

……っていうのも、自分を最優先することで宇宙が回転すると知っているから。今までは、太陽は太陽、月は月で分離して己で回っていたのが、統合ステージである地球で自分に軸を通すことで、太陽も月も宇宙も自分の周りで回り出すという感じです。
そして太陽や月とはまた、同時に自分たち自身でもあるから。
個。自立。自律であって、そしてそれこそが全です。


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