第73話　編み直し

　ばったり、けーこに会った。
実に一年と三か月振りに顔を合わせたことになる。

「気まずい」とか「よそよそしい」といった蟠り（わだかまり）は殆どなく、私たちは結局ここに戻ってくるんだなという安堵に似た穏やかな呼吸。
「元気だった？あれからどうだった？」
お互いの間にそんな空気が流れた。

　その時のけーこは道端で、背中から大荷物を背負って歩いていた。聞けばこれから楽器を吹きに行ってくるのだという。

　本来ならばバスの時間を気にしなければならないという時に、けーこはその場に立ち止まり、「本当はどうしようかと悩んだけど、やっぱりひみには連絡取ってでも伝えておきたいって思ってたことがあるんだ。」と言った。

　私たちが断交していたこの期間、けーこもけーこで色々あった。十キロもある荷物を背中から降ろすこともなく、今後の身の振り方まで関わってくる打ち明け話を、そのままもう何分も話し続けている。
　ちょうど運良く私の家の目の前だったので、バスの代わりにけーこを駅まで送ることにして、車の中で話を聞いた。
　その時の話がどんな内容だったかは、申し訳ないけれどここに多くを書き記すことなく、私の胸の中だけに留めさせてもらえればと思う。

　正直今まで、けーこのことを疎ましいと思ったことならいくらでもある。
　だけど、彼女は人知れず昔から苦労人なのもわかっていたから、仮に今後遠く離れたとしても純粋に力になりたいと、そんな風に思った。いつか頭に直接響いた、けーこと重なった悲しげな女の人の「さよなら」の声。この人に、もうそんなことを言わせたら駄目だなと思った。

　けーこは今までの状況を仔細に話してくれた。私もまた彼女に、父が他界したことや、旦那とのこれまでのやり取りから、私の中に“離婚”という選択肢が浮かんできていることもなどを打ち明けた。ここに来て、二人共が岐路に立たされているということを、お互いに認識した。


　再び緩やかに、やり取りが始まった。私はけーこの家で、初めて触れるトランペットを吹かせてもらったり、ペットのにゃんこに触れさせてもらったりした。

　けーこの目から見たうちの旦那は、『言えば素直に離婚に応じそうなタイプ』だという。だけど連れ添った私からしたら、何を言っても何でもかんでも「ひみが、ひみが」と全部私のせいにするあたり、逆にそう簡単には離婚を受け入れないだろうことはわかっていた。

　それを聞いたけーこは、彼女のいつもの謎知識から『調停離婚』の存在を教えてくれた。

「裁判所の調停委員に間に入ってもらって、そこで交互に時間を区切って、お互いの言い分を話すの。ひみが長年苦しんできたことに対して言っても改善されなかったんだから、そこを調停委員の立場からの中立的な意見として旦那さんに伝えてもらって、客観的にわかってもらうの。」

「なるほどね。他人に言われることで、感情的にならずに向き合わなきゃならない環境で、認めさせるのか。」

「そそ。」

　現実的な離婚。
「やらなくてもいいなら、できれば動きたくなんかない」というもう一人の自分。怖いし面倒くさいし、将来が不安。だけど『今』行動しなければ、この先も私の精神は病んだまま。
　それに、スサナル先生。彼がツインレイじゃなかったとしたって、たぶん離婚しないで一緒になりたいなんて、薄っぺらい妄想の世界以外では無理だろう。それがツインレイであれば尚のこと、離婚はきっと、“織り込み済み”なのだ……。


「あとさぁひみ、編み物やりなよ。」

「え？」

「なんかわかんないけど、今パッと、ひみ編み物やったほうがいいって思ったの。」

「どちら様から？」

「いやわからん。意味も、わからん。」

「わかった。じゃあ私、やるわ。色々とやるわ。だから毛糸買いに行くわ。」

「わかったんかい。」

　けーこと二人、笑った。それからもう一度、トランペットを吹かせてもらった。どう頑張ってもおならのようにしかならない音に、爆笑した。
　解けた糸は、新しいなにかを編み始めようとしていた。今年もあと少しで、終わりを迎えようとしていた。




written by ひみ

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実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説（笑）、ぜひお楽しみください。

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昨日小説にコメントをくださった方がいて、お返しのコメントをして、さらにそこにスキをつけてくださって、そこで初めて「コメントのスキ」の存在を知る私💦💦
（以前他の方からいただいたコメントには、スキ、つけそこなってしまったような……。ごめんなさい、そしてありがとうございます。）

水瓶座が情報とかネットに強いって言ったの誰！？SNSにめっぽう弱い水瓶座です、ひみです。

私ね、でーっかい宇宙的トラウマがあって、本当はたくさんの人に交わりたいって思ってるのに「これ以上私なんかに関わっちゃ駄目だよ！」って、自ら引いてしまう部分が実はまだ残ってて。
自己犠牲の権化。
その負い目から、誰よりも集合意識の掃除屋やってる。
そのせいで少なくとも2回の転生で、今回のように教える立場でありながら途中から姿消して孤独やってるの。
「自分は無価値じゃない」ってことを、リハビリのように内観しては、日々少しずつ自己統合してます。

だからスキとかコメントいただいちゃうと、涙が出そうになるんだよね。
本当に本当に、いつもありがとうございます。

あと！私が殻に閉じこもるたびに介入してきたけーこ！毎回「ほっといてくれよ」って思ってたけど、あなたが強引にこじ開けてくれなかったら、今回の転生も失敗してた！大好き！本当にありがとう！

古い魂として体験し、目の当たりにしてきたこと、みなさんに教えられること、伝えられること。
あの星の叡智、この星の仕組み。
宇宙の話、愛の話。たくさんたくさん、たくさんあります。
ここに書き綴っていきます。
いつも読むの大変なのについて来てくれてありがとう。
私も今回は途中で消えないように頑張るので、どうか共に学んでください。
地球じゃなきゃ、学び直せないシステムがあるんです。
みなさんを心から愛しています。

10.10
ひみ

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