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第5話 けーこ

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『ワカタケル』
埼玉県の稲荷山古墳から出土した鉄剣に、その名は刻まれている。

 小学校の高学年。社会の授業でその名前に出会った時、私の中に懐かしさと愛おしさが一気に広がった。ドキッとして、心臓が跳ね上がったのを自覚した。
優しいから好き、とか、かっこいいから好き、とか、そういうクラスの男子に対するような好きではなく、心のどこかで昔から知っていて、淡い甘いときめきのような好き。見たことも会ったこともない大昔の人物に、初恋の人との再会のような感情を抱いたことは子供心に不思議でならなかった。

 切り絵の作品にミカエルが現れるようになって、さらに偶然の一致と呼ばれるシンクロニシティを通じてミカエルが色濃くなるにつれてわかってきた。
ヤマトタケルや、その子孫とされるワカタケル。スサノオノミコトや不動明王。アーサー王や神武天皇や、さらには空海や坂本龍馬まで、根本にミカエルと同じエネルギーが通っていることを感覚的に汲み取っていた。
ひとつのミラーボールの反射の違い、そんなかんじ。
私はその一人ひとりに、若干の程度の差こそあれ皆親しみを覚えていた。
かけがえのない大切な人がそばにいてくれるのを、日に日に感じ取っていた。


「ミカエルがひみに怒っているよ。」
切り絵をしながら電話でけーこと話している時だった。

 けーこは近所に住んでいて、レジンやアクセサリー、撮った写真をポストカードに加工するなどをしていたことから、いつからか切り絵の作り方もシェアするようになっていたハンドメイド仲間。
親交が深くなったのは、あきらが搬送されてから。
我が子が死んでしまうかもしれないとなった状況に、同調し共感してくれて、かつ腫れ物に触るように接してくれた友人が多い中、けーこだけは「泣け泣け」と言って、堪えようと踏ん張っていた肥大した水風船に針の穴を開けてくれた人。

 そんなけーこはまた、サイキックな人種だった。
この土地に引っ越してきた当初こそ私の方がスピリチュアル(というかただのスピリチュアルオタク)だったが、私が何年も集めてきたスピの知識のかけらを伝えると、一瞬で繋ぎ合わせて見えない世界を特に肉体感覚に落とし込み、その身に組み込んでいく能力に優れた人だった。

 「ミカエルがひみに怒っているよ。ひみにだって見えるのに、見えないって決めつけているからだよ。」

 見えないんじゃなくて見ようとしないんでしょ。
憧れのミカエルにそれを言われるのは悲しかったし、さして彼に興味のないけーこに見えて私に見えないことはさらに悲しいことだったが、それほどに当時は自分自身に自信がなかったのだと思う。

 (ただ、今でも私は肉体の目で向こうの世界を見ることよりも、イタコであり、霊媒の方が得意である。
 そしてもっと後になってから、私はビジョンによってミカエルの姿を見た。よりによってその時も怒られている時だったが、ブルーではなく(!)エメラルドグリーンの瞳は美しく、怒りながらも彼はとても愛情深かった。)

 自分に対する自信のなさ。
捉え方によっては謙虚さや、謙遜の美徳にも映るその頑なな鎧とは、このあとも長い付き合いとなる。そして、この鎧の外し方を当時の私が見つけることはまだなかった。


 「できたよ。」
電話口のけーこに報告する。また一枚、美しい作品が出来上がった。
天使…ではなく、今回はアマテラスの蝶々をマグネットにしたもの。
「私もできたー。」
切り文字作りを好むけーこが、英語のことわざを作品に仕上げる。
 けーこと共同開催する切り絵作品の個展の準備が着々と進んできた。
私たちは企画したイベントに向けて、ますます仲を深めていった。


written by ひみ


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実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説(笑)、ぜひお楽しみください。

明日掲載のけーこの記事は、あきら入院時のけーこ目線のお話からスタートォォ


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